
伊東純也、中村敬斗、関根大輝の日本代表トリオを擁するスタッド・ランスが、リーグ・アン第26節でブレストと対戦。目下リーグ戦6連敗に苦しむなか、今季のチャンピオンズリーグ出場チームを相手に敵地でゴールレスドローを演じ、貴重な勝ち点1を手にした。
これで勝ち点を23ポイントに伸ばしたスタッド・ランスは、降格ゾーン一歩手前の15位を死守。ただし、同時刻に行なわれた17位サンテティエンヌが最下位(18位)モンペリエに2点リードしたところでモンペリエのサポーターによる暴動で試合中止となった現状で言えば、実質的にはサンテティエンヌに勝ち点で並ばれた格好になっている。
そういう意味では、降格ゾーンに片足を踏み入れることになったスタッド・ランスの状況は、ますます厳しくなったと言っていいだろう。
「何としても連敗を止めなければならなかったので、勝ち点を得られたことが何よりだ。もちろん現状を考えれば、これ以上の結果が必要なことはわかっている。
だがしかし、今日は選手たちが団結していることを感じられたし、久しぶりに無失点で試合を終えることもできたうえ、相手に決定機を与えることもなかった。これはわれわれにとってポジティブな要素で、きっと次につながっていくはずだ」
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試合後にそう振り返ったのは、成績不振で解任されたルカ・エルスネル監督からバトンを受け、第21節のリヨン戦から指揮を執るサンバ・ディアワラ監督だ。
新指揮官が言うとおり、確かにこの試合のスタッド・ランスは極端なほど守備に重点を置いた戦い方を最後まで貫き、選手全員が集中力を切らさなかった。
とりわけ自陣で4-5-1のコンパクトなブロックを形成し、あの手この手で攻めてくるブレストにチャンスらしいチャンスを与えずにゲームを終えられたことは、この試合で手にした収穫のひとつと言える。これまでのスタッド・ランスには見られなかった姿でもあった。
【降格覚悟の賭けに出た?】
とはいえ客観的に見れば、それが残り8試合で勝ち点を積み上げられそうな戦い方ではなかったことも事実。数回のカウンターだけではゴールは遠く、少なくとも現在残留争いのライバルとなっているサンテティエンヌやル・アーヴルと比べても、勝利する可能性が低い戦い方だと言わざるを得ない。
もっとも、アシスタントコーチ専門でキャリアを重ね、まだ監督ライセンスも持たないディアワラ監督に多くを望むのは酷なのかもしれない。昨季の終盤に暫定監督として3試合だけ指揮を執った経験はあるが、正式な監督として采配を振るうのは今回が初めてのこと。大不振にあえぐチームをシーズン途中に立て直すには、あまりにも経験がなさすぎる。
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ただ、外部から新監督を招聘するよりも、ライセンス未取得者のディアワラ監督が指揮を執ることで毎試合25000ユーロの罰金を支払うほうが、はるかに財政的負担が少ないと判断したクラブの懐事情も理解できる。
実際、冬の移籍市場でもDFラインの要エマニュエル・アグバドゥと中盤の大黒柱マーシャル・ムネツィをウルヴァーハンプトン(イングランド)に放出。高額な移籍金と引き換えに、成績をV字回復させるために絶対に欠かせない戦力を手放さなければならなかった。
もちろん、その売却益でMFモリー・グバネ、MFジョン・パトリック、DF関根ら数人の新戦力も獲得したが、投資金額は移籍金収入の約3分の1程度。その補強からは、ジャン=ピーエル・カイヨ会長が目の前のチーム不振よりもクラブの経営安定化を重視したことが見てとれる。ある意味、リーグ・ドゥ降格覚悟の賭けに出たとも言える。
そんななか、現在チームが抱える不安材料のひとつとなっているのが、攻撃陣の絶対的存在である伊東が、チーム成績とリンクするように珍しく不調に陥っていることだ。
【南野拓実は休養をもらって復活】
加入3年目の伊東は、今季も開幕から主軸としてプレーし、第25節までは不動のGKイェヴァン・ディウフとともにリーグ戦全試合に先発。出場時間も第25節オセール戦終了時点で2,187分とフィールドプレーヤーではトップを記録し、これまで4ゴール4アシストをマーク。監督が代わっても、あいかわらず欠かせない戦力だ。
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ただ、今年1月11日のニース戦(第17節)を最後にゴールから遠ざかり、アシストに関しては昨年10月26日のブレスト戦(第9節)以来、記録できていない。その数字に象徴されるように、シーズンの半ばあたりから明らかにパフォーマンスが落ちているのが実情だ。
そんな伊東を見かねて、さすがにディアワラ監督も今回のブレスト戦では伊東のベンチスタートを決断。「疲れているように見えたので、たぶん今の彼には先発しないことが必要だった」とは、試合後のディアワラ監督のコメントだ。
たしかに昨年11月10日のル・アーヴル戦(第11節)を最後に4カ月も勝利から遠ざかるなか、伊東だけは休ませられないチーム事情があり、結局この試合でも指揮官は後半64分から伊東の投入に踏みきっている。伊東にとっての途中出場は、開幕前のケガで出遅れた加入初年度の2022-23シーズン第2節のクレルモン戦以来のことだった。
伊東と同じように、開幕からフル稼働していたモナコの南野拓実が昨年秋口からパフォーマンスを低下させたことがあった。だが、アディ・ヒュッター監督が適度に休みを与えたことで、年明け以降に回復。現在ではゴールを量産するまでにパフォーマンスが戻った例がある。
それを考えると、本来は伊東にもローテーションでの起用が必要なのは明らかだ。しかし、スタッド・ランスが置かれた状況と選手層を考えると、それもできないというのが実際のところ。チームにとっても伊東にとっても、これは極めて悩ましい問題だ。
【伊東の調子が上がれば中村も...】
目下、ディアワラ体制下で戦ったリーグ戦6試合はすべてがノーゴール。そんな極度の得点力不足を解消するためには、やはり伊東のパフォーマンス向上が欠かせない。
伊東の調子が上がれば、自ずと中村のゴールの確率も高くなるはず。それも含めて、チーム最年長の32歳になった伊東には、残留か降格かを決定づける重責が重くのしかかる。
フランスカップでは準決勝に勝ち残っているスタッド・ランスだが、それと並行してチームにとって最も重要な「残留をかけた戦い」が、あと8試合残されている。
対戦相手は、マルセイユ(2位)、ストラスブール(7位)、RCランス(8位)、トゥールーズ(10位)、モンペリエ(18位)、ニース(4位)、サンテティエンヌ(16位)、そしてリール(6位)だ。モンペリエ、サンテティエンヌとの試合を残しているだけに、まだ希望の光はある。
果たして、ディアワラ監督は残留に導くことができるのか。そして伊東は、本来の姿を取り戻してチームの勝利に貢献できるのか。
これから始まる生き残りをかけたスタッド・ランスの戦いは、最後まで目が離せない。