
その戦いぶりは、低反発バットが導入されて以来、「守備偏重」の風潮が広がりつつある高校野球への強い反発のように見えた。
【全員が貫くフルスイングの意識】
3月18日、センバツ開幕日に初戦を迎えた花巻東は、米子松蔭(鳥取)に14安打を浴びせて10対2と大勝した。
打席に入った花巻東(岩手)の打者は、1番から9番まで力強くバットを振り抜く。状況に応じて進塁打やノーステップ打法でつなぎの姿勢を見せる打者もいるが、フルスイングできるシチュエーションなら基本的に全員が強くスイングする。
新2年生の4番打者・赤間史弥と5番打者の高橋蓮太郎は、木製バットを使用した。赤間はバットヘッドをしなやかに使い、先制の適時二塁打など2安打2打点を記録。高橋蓮も1安打1打点を挙げている。
花巻東の佐々木洋監督は試合後、「今日は出来すぎ」「練習試合では調子がよくなかった」と語りつつも、低反発バットについて質問が出ると持論を展開した。
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「選手に言っているのは、『低反発バットになったから飛ばなくなったのではなく、普通になった』ということ。バットを衝突させるようなごまかしのスイングではなく、しっかり振らないと飛ばないんだと。むしろ、振りきることで技術が上がって、上の世界で通用するスイングが身につけられれば、プラスじゃないかと。
飛ばないからといって、チョコチョコとゴロを打ったり、四死球を選んだり、スクイズが多くなったり......というのは、ウチではやらないよ、と言っています」
赤間、高橋蓮が木製バットを使用することに、佐々木監督は何か助言をしたのか。そう尋ねると、佐々木監督はこう答えた。
「長打力がある選手には『木のバットはどうだ?』と聞きました。低反発バットは、いい角度で上がっても打球が落下してくる感覚があるんです。芯でとらえた時の飛ぶ力は、木のほうがあるのかなと感じました。ただ、(3番打者の)新田(光志朗)にも勧めたんですけど、本人にイヤだと言われました」
ほかにも、右上腕部の肉離れのため初戦を欠場した新2年生の古城大翔も、木製バットを使用しているという。古城は「金属よりも感触がすごくいい」と証言する。
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打球スピードを計測したところ、古城は135キロをマーク。赤間は138キロを叩き出し、古城は「3キロ負けてしまいました」と少し悔しそうな表情を見せた。佐々木監督は「赤間は明らかに木のほうがスイングスピードは速かった」と語っている。
身長180センチ、体重94キロの赤間と、身長182センチ、体重90キロの古城。将来有望な新2年生スラッガーコンビは、今後どんなつばぜり合いを見せてくれるのか。想像するだけで胸が躍る。
【OPSを意識した打撃戦略】
長打への意識があるのは、中軸だけではない。9番打者の佐藤謙成は身長165センチ、体重65キロという俊足の左打者だ。花巻東は、かつて「カット打法」で脚光を浴びた千葉翔太のように、くせ者系の選手も重用してきた歴史がある。ところが、佐藤も打席に入れば、全身を振り絞るように強くスイングをする。
佐藤にフルスイングへの意識を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「監督さんから『9番バッターでも、しっかりと振る時は狙い球を絞って振っていこう』と言われています。振るべきポイントがくれば、自分も強く振っていきます」
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高校野球に低反発バットが導入され、1年が経つ。昨春のセンバツで出た本塁打はわずか3本(うち1本はランニング本塁打)。外野のポジショニングはどんどん前がかりになっていった。必然的にロースコアの展開になり、投手を含めた守備力の高いチームが有利になる。
実際に今春のセンバツ出場校は強打線を売りにするチームは少なく、ディフェンス型のチームが目立っている。高校通算本塁打数が話題になるような、飛び抜けたスラッガーも見当たらない。
そんななか、花巻東の戦い方は現代高校野球へのカウンターパンチのようにも映る。
米子松蔭戦の試合後、佐々木監督に「野球観が変わったのではないか」という趣旨の質問が飛んだ。佐々木監督はそれを認めつつ、こう答えている。
「アメリカの野球が身近なものになって、アメリカではOPS(出塁率+長打率)という指標がチームの勝利につながるものとして評価されていると知りました。三振が多くても、ホームランが多ければ勝利につながりやすいというデータも出ていると。そうした考えに私もなってきているところはあります。もちろん、しっかりとした戦術でも点数を取れるようにしたいですけどね」
守備型のチームが悪い、攻撃型のチームが正しいという話ではない。さまざまなチームが存在するからこそ、高校野球は面白い。守備にフォーカスするチームが多いなか、花巻東のような哲学を持ったチームが出現することも、高校野球界の懐の深さを感じずにはいられない。
次戦(3月23日)の二松学舎大付(東京)戦への抱負を聞かれた、佐々木監督は「いいピッチャーなので、ロースコアの展開に持ち込めるように頑張りたい」と語っている。OPSを重視する佐々木監督であっても、打撃力だけで全国の頂点に登り詰めることは難しいと考えているはずだ。
好投手を複数擁する二松学舎大付を相手に、花巻東打線はどんな打撃を見せるのか。そのひと振り、ひと振りには未来への希望が詰まっている。