
空前の注目を集めたシカゴ・カブス対ロサンゼルス・ドジャースのMLB「東京シリーズ」開幕戦。カブス・今永昇太、ドジャース・山本由伸というMLB史上初の日本人開幕投手対決は4対1でドジャースの勝利に終わったが、それぞれ充実感を漂わせて会見場に現れた。
【今永と山本が示した実力】
先に壇上に登った今永は、4回69球を投げて無安打無失点、与四球4、奪三振2。山本との投げ合いが、緊迫した投手戦につながったと話した。
「山本投手が相手なので、(こっちが先に)1点取られると、彼はすごく波に乗っていきます。彼は自分のチームを鼓舞できる投手。点を与えると相手に流れがいくので、そこは意識しました」
対して山本は2回に1点を先制されたが、5回まで72球を投げて被安打3、1失点、与四球1、奪三振4で勝利投手に。
「緊張感はすごくあったけど、ウォーミングアップの時から体の状態もすごくよく感じていたので、何とか落ち着いてマウンドに上がることができました」
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3月18日の東京シリーズ第1戦は通常より1週間早いシーズン開幕となったため、ふたりとも70球前後で降板したが、ポストシーズンまで見据えて選手の健康管理に細心の注意を払うMLBでは当然の選択だろう。内容を振り返ると、いずれも今季の活躍を予感させる投球だった。
ドジャースを勝利に導いた山本が示したのは、オリックス時代に史上初の3年連続沢村賞&MVPに輝いた頃のようにピンチでギアを上げる姿と、メジャー2年目の進化だった。
1回裏、ピッチコムがうまく作動しないアクシデントに見舞われ、ピッチクロックバイオレーションで1ボールからのスタートとなり先頭打者を四球で歩かせる。だが、すぐに切り替えて後続の3人を打ち取った。
そして1点を先制されて迎えた3回裏、一死二塁で3番カイル・タッカー、二死三塁で4番マイケル・ブッシュを迎えて見せたのが、ピンチをつくっても生還させない集中力だった。タッカーには全6球のうち5球、つづくブッシュには全7球のうち6球がいずれもスプリットで、ふたり続けてセカンドゴロに打ち取る。いずれもフルカウントになったが、最後まで投げミスをしないのは山本の真骨頂だった。
「今日はスプリットがすごくよくて、配球のなかでもスプリットが少し多くなったけど、よかった分、しっかり自信を持って投げていけました。(ブッシュの)最後は真っすぐのサインが来るかなと思ったけど、もう1回スプリットのサインが出たので、しっかり自信を持って投げました」
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昨年の山本は全投球のなかでスプリットが24%だったが、この日は40%を占めた。その分、昨年全体で24%だったカーブは、今季開幕戦では13%に減少。それくらいスプリットの状態がよかったのだろう。カブスのクレイグ・カウンセル監督がこう称えたほどだ。
「今日の山本はスプリットが傑出していた。スプリットという球種はボールになることが多いのでフォアボールを期待するところもあるが、今日はストライクからボールになるスプリットが93、94マイル(148.8〜150.4キロ)出ているなど非常に質が高く、苦労させられた」
【球速アップの要因はバランスのよさ】
そして、メジャー2年目の進化を感じさせたのがフォーシームだった。全投球における割合を見ると昨年全体と同じ40%だったなか、この日のカブス戦では最速156.96キロ(98.1マイル)を計測。平均球速は昨年全体の152.8キロ(95.5マイル)から、今季開幕戦では154.88キロ(96.8マイル)に上昇。その理由を山本はこう振り返った。
「まずコンディションがすごくよかったです。(春季キャンプの)アリゾナで試合を重ねるごとにどんどん感覚がよくなっていて、アリゾナ最後の登板の時に、特にいい感覚が出てきたので、そこをしっかり追い求めて開幕戦に向けて練習してきました。いつもより力を出したということではなく、いい重心の位置というか、いいバランスで投球できたので、しっかり力の伝わったボールが投げられたと思います」
山本がピッチングで特に大事にしているのは、うまく重心をコントロールすることだ。やり投げ(正確にはフレーチャという器具を使用)やブリッジを練習に取り入れているのもそのためである。
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緊張感に包まれた大一番でいつもの力を発揮できたのは、昨年のプレーオフを経験したことが大きかったようだ。
「あの1カ月で経験したことは、すごく自信につながっています。たとえば『こうしたら打たれてしまうな』とか、『こういう気持ちでこうしたら抑えられる』と去年はあまり明確に感じられてなかったのが、去年の10月で何となく感覚になりました。技術的なところで言うと、そういった部分がマウンドに上がる時の自信につながっているかなと感じています」
開幕投手に送り出したデーブ・ロバーツ監督は試合後、山本に最大の賛辞を送った。
「今年はストレートで自信を持ってストライクゾーンで攻めるのが一番目立っているポイントだと思う。それがシーズンを通してできれば、サイ・ヤング賞を受賞する可能性は大いにある」
【今永が得たフォーシームの手応え】
一方、4つの四球を与えるなど球数がかさんで先にマウンドを降りた今永だが、想定内だったと明かした。
「いつもは失点を計算しながらマウンドに上がるけど、今日の登板に関しては無失点ということに、かなりフォーカスしていました。球数を使いながら、何とか無失点に抑えられたらいいなと思いながら投げていました」
今永は2、4回にいずれもふたつの四球でピンチを招いたが、ドジャースの強力打線に対してヒットを1本も許さず、無失点に抑えていく。カウンセル監督も賞賛する内容だった。
「ヒットを許さなかったし、弱い打球が多かった。フォアボールはあったけれど、その走者を返さないピッチングをしてくれた。今日のドジャースは全体的にいいアプローチをしていて、ファウルで粘って球数が多くなった場面もあったけれど、そのなかで昇太のピッチングは非常によかった」
昨年の今永は四球の少なさでも注目されたが、今季開幕戦では2回に先頭打者から連続四球、4回にもふたつの四球を与えた。どのように切り替えたのか。
「昨年からフォアボールを出さないようにすごく意識してやっているけど、ずっとそうやっているうちに、フォアボールを出さないことが目的になってしまった時がありました。(2、4回ともに)結果的に(マックス)マンシー選手にフォアボールを出してしまいましたけど、おそらく勝負していたら打たれていたかもしれないと。そういうマインドもあったので、『彼と勝負しなくてよかった。次からまた頑張ればいいんじゃないか』とマインドの切り替えをしました」
この日の今永はフォーシームが45%、スプリットが39%を占め、13%のスイーパーも効果的に使った。そのなかで特に手応えを感じたのがフォーシームだった。
「今日のストレートはものすごく自分のなかでも手応えがありました。これくらいの真っすぐを最低ラインに保っておけば、いつも自信を持って投げられると勉強になりました。アメリカの環境は湿気があったり、乾燥していてボールが飛んだりといろいろありますけども、いつでも今日みたいな最低ラインの真っすぐは投げたいと思います」
今季開幕戦のフォーシームは平均148.16キロ(92.6マイル)。あらためて質の高さを物語ったのが、平均2534回転(毎分)、最高2684回転(毎分)という球質だった。この"最点ライン"を維持できれば、昨季、そして今季開幕戦のカブス戦のように、安定感の高いピッチングを続けていけるだろう。
想定どおりのピッチングで4回まで無安打に抑えた今永は、今季初戦をこう振り返った。
「僕にとってミッションはふたつあると思っていました。まずはいいゲームをすること。もうひとつはこの試合にチームが勝利すること。いいゲームをすることはできたと思うけど、もうひとつの試合に勝つことができなかったのでアメリカに持ち帰って、またチャレンジしたいと思います」
史上初の開幕戦日本人対決で、大役を任されるだけの力を示した山本と今永。メジャー2年目のふたりに、大きな期待をかけたくなるような投げ合いだった。