
連載【ギグワーカーライター兼ウーバーイーツ組合委員長のチャリンコ爆走配達日誌】第92回
ウーバーイーツの日本上陸直後から配達員としても活動するライター・渡辺雅史が、チャリンコを漕ぎまくって足で稼いだ、配達にまつわるリアルな体験談を綴ります!
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2019年あたりから出てきた、閉店となった店の厨房を活用したデリバリー専門の飲食店。このような形態のレストランは「ゴーストレストラン」と呼ばれます。
看板や飲食スペースといった「実体」が見えないことから「ゴースト」という言葉を使っているのでしょう。先日紹介した「マグロ」や「クジラ」のようなウーバーイーツ配達員が使う隠語ではなく、海外で生まれた用語らしく、Wikipediaにも紹介されています。今回はそんなゴーストレストランの話です。
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2020年に入り、コロナによる外出規制が出されると、全国の飲食店がウーバーイーツなどのフードデリバリーを利用したサービスを始めました。デリバリーに特化していたゴーストレストランは、コロナに入ってからデリバリーに参入した既存の飲食店より、ホームページに掲載する商品画像をおいしそうに見せるテクニックや注文画面の使い勝手の良さといったノウハウがあったのでしょう。緊急事態宣言が出されるようになると、ゴーストレストランに商品を受け取りに行く回数が急増しました。
2021年には、リモートワークが増えて、入居していた企業が退去した雑居ビルの部屋すべてをゴーストレストランにしたビルも登場。配達員用アプリに「当店はゴーストレストランです。〇〇ビルの3階G区画まで料理を受け取りにきてください」といった指示がちらほら入り出しました。
さらに、ゴーストレストランとして新たに建てられたと思われるビルも登場。1階のガレージを配達員用の自転車やバイクの駐輪場として整備。さらに駐車場の壁には大きな液晶モニターを設置、商品が出来上がったらモニターに注文番号と受け取り先のフロアと区画が表示され、配達員が建物の中に入って商品を受け取りに行くというビルも出てきました。
そんなゴーストレストランですが、2023年5月にコロナが5類感染症に移行し、飲食店に客が戻ってくると状況が大きく変化。ゴーストレストランへ商品を受け取りに行く機会が一気に減りました。
先日、久しぶりにゴーストレストランビルからの配達依頼が入ったので受け取りに行くと、駐輪場にあった液晶モニターが撤去され、直接、店の区画へ行く方式に変更されていました。さらに4階にある店まで階段で向かう途中、他のフロアの区画を見てみると、半分ほどの店の電気がついておらず、営業していないようでした。
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商品を受け取って駐輪場へ戻って気づいたのが、配達員の待機場所として用意されていた駐輪場の半分がLUUPの貸し出し・返却ポートになっていること。おそらくゴーストレストランのテナント収入が減ったので、増収策としてLUUPに場所を提供したのでしょう。
またコロナの期間中、21時頃に近くを通れば注文依頼が入ってくることが多かった店の前に「テナント募集」の張り紙が出されているところもありました。
実態のよくわからない店の料理を味わうことに抵抗がある方が一定数いるのでしょう。そういった方からの注文がなくなり、さらに飲食店の営業再開でフードデリバリーを注文する人の数も減り、やっていけなくなったゴーストレストランが増えたようです。
そんな逆風が吹くゴーストレストランですが、先日、バイク配達員の方と話していたところ「店舗を拡大しているゴーストレストランもある」とのこと。詳しく聞くと......。
「ゴーストレストランはひとつの店が釜飯専門店、カレー専門店、スイーツ専門店など5、6店の専門店を営業するスタイルがほとんどだが『売れる商品が多い専門店』と『売れない商品が多い専門店』がある。そこで、撤退するゴーストレストランから売れる商品が多い専門店だけを引き継いで売り上げを伸ばすところがある」
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「六本木などの繁華街に建つマンションの一室でゴーストレストランをやっている方も売り上げを伸ばしていると聞いたことがある。もともと繁華街に店を構えていたけど、コロナで店に人が入らなくなり店の家賃も高いので店舗を撤退。自宅を厨房にリフォームしてゴーストレストランを始めたら、おいしいと評判になった。高い家賃を払って店を借りるよりこのスタイルの方が儲かるので、コロナ後、キッチンを拡張した」
配達を通して、数が減っているように感じるゴーストレストラン。ですが、こんな状況でもたくましく進化する店があるので、ゴーストレストラン自体が消滅することはないでしょう。今後、さらにどんな進化を遂げていくのか、配達を続けながらその流れを観察していきたいと思います。
文/渡辺雅史 イラスト/土屋俊明