※写真はイメージです。 日常生活に欠かせない「電車」。通勤・通学など、時間帯によっては多くの人たちで混雑するが、誰かの“マナー違反”にウンザリしてしまうこともあるはずだ。
◆電車内を“飲み会”の延長にするな!
夜の電車内では、誰もがクタクタ。居眠りしそうになっていると突然、まるで居酒屋にいるかのような騒々しさに包まれる。そんな経験がある人は少なくないだろう。
上田志尊さん(仮名・20代)にとっては、アルバイト帰りの電車はその日を振り返りながらホッとひと息つける貴重な時間だった。だが、あるときから苦手意識を持つようになってしまったという。
「大学生らしきグループが乗り込んでくると、電車内が“飲み会”の二次会みたいになってしまったんです」(上田さん、以下同)
上田さんによれば、彼らはどうやら居酒屋で飲んだあと、みんなで帰宅する途中だったようだ。
「居酒屋のテンションのまま、大声で笑い合っていました。驚いたのは、地べたに座り込む人や、飲みかけのお酒を持ち込んでいる人までいたことです」
日本酒やビール、おつまみのにおいが車内に漂う。そんな状況に、周囲の乗客たちは困惑の表情を浮かべていたという。
「会社帰りのサラリーマンや、疲れた様子の学生、高齢の方、親子連れ……。みんな迷惑そうでしたね。黙って耐える人もいれば、車両を変える人もいました」
◆“マナー違反”とわかっていても「自分ひとりじゃない」「みんなやってる」
上田さんは「ゴミを放置していく人もいた」と話す。彼らは自分たちがほかの乗客の迷惑になっていることに気づいていないのだろうか。上田さんが、その行動について考えを巡らせる。
「きっと、頭のどこかでは『これってマズいよね』って、わかっているはずなんです。でも、集団になると、自分ひとりじゃない、みんなやってるからって、ふだんは守れるはずのマナーの一線を超えてしまうのかもしれません。
正直、私は何度も『うるさいな、何なんだよ』とイラッとしたのですが、注意はできなかったので、こんなふうに周囲が感じていることを、いつか知ってもらえたらと思いました」
◆優先席で妊婦を前に“寝たふり”をする若者
優先席では、高齢者や妊婦、身体障がい者、乳幼児連れなどに席を譲るのがマナーとされている。疲れているなかで、そのまま座っていたいという気持ちもわからなくもないが……。
吉野あやかさん(仮名・40代)は、臨月のお腹を抱えて電車に乗った夏の日のことを今でも鮮明に覚えている。
「平日の昼間とはいえ、電車内の席はすべて埋まっていて、私は優先席の前に立つことになりました」(吉野さん、以下同)
目の前に座っていたのは、高齢者だけではなく、若い人もいたという。しかし、吉野さんが立っていることには気づいているはずなのに、誰もが目を閉じて“寝たふり”をしているように見えたそうだ。
「大きなお腹で立っているのは想像以上にしんどくて、汗がじんわりとにじんできました。目的地までは距離があり、その道のりがいつも以上に遠く感じられます」
◆優しい高齢男性の行動に「涙が出そうになった」
なんで誰も席を譲ってくれないのだろうか——。思わず、ため息がこぼれた。次の瞬間、思いがけない出来事が起きたという。
「ご年配の男性が静かに立ち上がりました。80代、もしかすると90代かもしれません」
その男性は、吉野さんに向かって微笑み、優先席に座っている人たちを見ながら「これじゃあ、座れないでしょ」と言った。
「誰も目を開けることはなく、変わらない空気の中で、彼は『どうぞ』とひと言だけ添えて、席を譲ってくださったのです。私は恐縮しながらも慌ててお礼を伝え、その席に座らせていただきました」
そして男性は、次の駅でそっと電車を降りていったそうだ。
「私に気を遣わせないように、すっと立ち去っていくその後ろ姿は、なんとも粋で、あたたかくて……。あの優しさが胸にしみて、涙が出そうになりました」
実際のところ、“マナー違反”に遭遇してもほとんどの人が何も言えないはずだ。だからこそ、電車やバスなどの公共交通機関では、それぞれの小さな心遣いがみんなの快適さにつながる。周囲の人が困っていないか、よく注意してほしい。
<取材・文/藤井厚年>
【藤井厚年】
明治大学商学部卒業後、金融機関を経て、渋谷系ファッション雑誌『men’s egg』編集部員に。その後はフリーランスで様々な雑誌・書籍・ムック本・Webメディアの現場を踏み、現在は紙・Webを問わない“二刀流”の編集記者として活動中。若者カルチャーから社会問題、芸能人などのエンタメ系まで幅広く取材する。趣味はカメラ。X(旧Twitter):@FujiiAtsutoshi