スタジオジブリ前で記念に写真を撮るぐんぴぃ―[振り返れば青学落研]―
YouTubeチャンネル登録者数180万人を突破した「バキ童チャンネル」。
唯一無二の企画とキャラクターを活かした動画が支持される一方で、中心メンバーのお笑いコンビ、春とヒコーキが出会った青山学院大学・落語研究会についてのエピソード動画も強い人気を集めている。
そんな「青学落研の話」を、チャンネル出演者であり、青学落研出身者であり、春とヒコーキの学生時代からの友人でもある芸人・町田が振り返る。第4回は青学落研の活動である「営業」について。
◆学外で初めて落語を披露することに
思い出深い営業。
営業とはいくらかの出演料をいただき、落語などを僕たちが披露しにいく、いかにも落語研究会の活動といったものである。
しかし、この営業であるが、土岡が会長になった3年時まで当時の私達は存在すら知らなかった。
それはなぜかというと、それまでの青学落研の会長達は、青学落研あての営業の依頼の手紙やメールを全て見ていなかったのである。
そこで一味違うのが我らが土岡、新会長の改革として、落研あての手紙やメールをチェックしはじめた。
「あの、会長になってわかったんですけど、営業の依頼が今までウチの部活あてにきていました。全てを無視していたのですが、これからは依頼に行きたい人を募ってどんどんやっていこうと思います」
当時の衝撃はよく覚えている。入学してから3年時まで、ほとんど学内でしかやれる機会がないと思っていた落語を披露することができる…!世界が広がる気持ちであった。
◆交通費程度の金額では割に合わない体験
しかし、当時を振り返り、なぜ土岡以前の会長たちは全く営業の連絡を無視するようになっていったのか、今ならばよくわかる。
落研にとっての営業は、“行き損”だったのだ。
落研にくる営業の代表例、老人ホームへの慰問での出来事を例にとろう。
老人ホームの営業はレクリエーションイベントの一環として、大学生の皆さんの落語を聴きましょうといった具合で昼過ぎ頃にやらせていただくのだが、ウケるとか滑るとかそういう次元ではなかった。
基本的には話を聴いてもらえない。寝てる人も大勢いた。なんなら野次みたいなのも飛んできた。
「あの人たちだれぇ〜?」
「うるさ〜い!」
「やめさせて〜!」
交通費程度の額をもらってその体験をするのはいささか割りに合っていなかった。
ところが、土岡、ぐんぴぃをはじめとする青学落研エリート集団(青山学院的には底辺集団だが)の我々はそんな体験でさえ大変に刺激的であった。
3年にもなると部室でダラダラすることにも飽ききっていたのである。
◆落語とカラオケイベントの司会を任されることに
色んなところに行ったなあとしみじみ思う。老人ホーム、植物園、自動車教習所、フリーマーケットの一角、千葉ロッテマリーンズの2軍球場…。私達は様々なところで話を聴いてもらえず交通費ちょっとを受け取った。
そんな数々の営業の思い出の中でも特に印象深いのが、「ある場所でのお祭り」である(私達はこのお祭りに対して強い気持ちを持っているので普段は、「ある場所でのお祭り」なんて表現でこの出来事について話さないのですが、ここでは「ある場所でのお祭り」とさせていただこうと思います)。
お祭りといっても、神奈川県の某地域の役所での、地域の触れ合いイベントのようなものであった。
土曜か日曜の昼下がり、役所につくや説明を受ける。落語を披露した後、カラオケイベントの司会進行を行ってくださいとのことであった。
職員さんはとても親切で、「青山学院大学からはチアリーディング部もお呼びしてて、控え室も近いんでよかったら親交を深めちゃってください。」なんてことを言ってくれた。今思えばイジリだったかもしれない。
まず落語を披露する場所に向かったのだが、いきなり面食らった。屋外のちびっ子SL乗り場の真ん前だったからだ。
基本的に落語は外でやるのに適していない。そして何より子どもがちっちゃい機関車に乗って線路をぐるぐる回っている前でやるのはさすがにやばすぎた。ちびっ子機関車は大盛況、その真ん前でやる私たちの落語は総スカン。あれには痺れたねえ。
落語のパートをやり終えた後は、別の場所でのカラオケイベントの司会進行、これを部員の中で担当したのはその日落語をやらなかったぐんぴぃであった。
カラオケイベントの出演者はその場で飛び入りの参加を募る形式だったのだが、まず誰もエントリーしない。
ぐんぴぃはなんか無理やりつないでいた。そんな中、一人の飛び入り参加者が現れた。ボサボサの老婆であった。
「お名前は?」
「とじこと言います。氷川きよしさんのきよしのズンドコ節を歌います」
キ・ヨ・シ!の部分をト・ジ・コ!に勝手に変えてこそいたものの、出演者はありがたいのでぐんぴぃも手拍子で盛り上げていた。
「とじこさん、どうもありがとうございました〜。とっても素晴らしい歌声でしたね〜」
「もう1回歌ってもいいですかね?」
一人が複数回歌うことについて何も言われていなかったし、何よりも他に参加者がいなかったので再びとじこさんが歌うことになった。
「氷川きよしさんのきよしのズンドコ節を歌います」
歌い終わる。そしてまたとじこ。とじこのズンドコ節無限リピートを止める方法はなかった。
◆ズンドコ節が流れ続ける中、青年が乱入
それでもぐんぴぃは健気に盛り上げていた。しかし、司会を頑張るぐんぴぃの背後に迫りくる一人の男。もちろんスタッフなどではなく、中学生にもおじさんにも見える、独特な青年であった。
乱入者にぐんぴぃはマイクを取られた。
「俺はAKB48が好きでぇ、今の選抜メンバーで言うとぉ…」
ぐんぴぃは明らかに動揺していた。とじこのズンドコ節が流れ続けるなか、見ず知らずの男にいきなりマイクを奪われる。とんでもない状況すぎる。
「今度総選挙があるんですがぁ、次に神7になると思うのわぁ」
完全に場のMCはその青年になってしまっていた。ぐんぴぃはなす術なく立ち尽くしていた。我々部員一同も固唾を飲んで見守っていた。
青年がぐんぴぃに問う。
「え、お兄さんわぁ、AKBだと誰が好きなんですかぁ?」
律儀に答えるぐんぴぃ。
「〇〇〇〇ですね」
「いや、〇〇〇〇って誰だよぉ!!そんなやつAKB48にいねえよぉ!!」
私達は膝から崩れ落ちた。その当時、ぐんぴぃが普通に好きだった女性の名前を答えたからだ。さすがに腹がちぎれるくらい笑ってしまった。
その後、なんとか収拾をつけて終わってのだが終始、異様な空間であった。
控え室に戻る道中、チアリーディング部のパフォーマンスを行われていてそれを見たのだが、さっきまでの私達が嘘みたいに盛り上がっていた。
交通費くらいの謝礼をいただき、その日はみんなで寿司を食べた。寿司が我々には必要だった。
忘れ得ぬ営業、これもまた青春の日々。
―[振り返れば青学落研]―
【町田】
ぐんぴぃの友人。芸人としての活動もしている。@saisaisai4126