小説だけじゃなく自己啓発も……日本の書籍の海外翻訳が急増中 翻訳エージェントに聞く、意外な「読まれ方」

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2025年04月10日 08:00  リアルサウンド

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 世界で注目される日本の文化はアニメや漫画だけではない。近年、日本の小説が海外で脚光を浴びるケースが増えている。


参考:謎の覆面ホラー作家・雨穴ってどんな人? 『変な絵』世界デビュー会見でわかった、国境を越えるパーソナリティ


 たとえば2024年には、柚木麻子氏の2017年の小説『BUTTER』(新潮社)が、イギリスの大手書店チェーンが選ぶ『ウォーターストーンズ文学賞』を日本人作家で初めて受賞。イギリスで26万部、アメリカで10万部のベストセラーとなったことが発表され大きな話題となった。同作は男性3人を殺害した木嶋佳苗の事件をモチーフにした小説で、フランス、イタリア、スペイン、ドイツなどから翻訳オファーを受け、現在35カ国での翻訳出版が決定しているという。


 また、2025年1月に文庫化された覆面作家・雨穴氏のホラー小説『変な絵』(双葉社)は、韓国やアメリカ、イギリスなど30の国と地域で翻訳出版され、海外での発行部数は30万部に達する予定だという。性別や年齢など、身元をいっさい明かさない独特のスタイルで幅広い層に人気を集めるYouTuberでもある雨穴氏だが、同月に都内で海外メディア向けに行われた記者会見でも全くスタイルを変えず登場。ボイスチェンジャーを使用した英語によるスピーチで作品の魅力をアピールした。


■欧米で需要高まる「日本的思想」


 このように日本の小説が海外の読者に広く届けられているが、それだけではなく実用書や自己啓発本までさまざまな日本の書籍の需要が今高まっている。


 翻訳出版権の契約などを手がける日本ユニ・エージェンシーの浦田理子氏は、「フィクションだけでなく、料理や手芸を扱う実用書、また自己啓発書と呼ばれるジャンルの書籍の需要も増えています」と説明。日本ユニ・エージェンシーの扱う書籍だけでも、2010年代から20年代にかけて、翻訳点数は約3倍に増えているそうだ。詳しい話を聞いた。


「もっとも大きな話題となったのが、近藤麻理恵さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版/改訂版は河出書房新社より刊行)の世界的ヒット。国内に限らず掃除術を紹介した本はそれまでもありましたが、近藤さんのような“心がときめくかどうか”という自己啓発的発想をもとにした掃除術はなかなか欧米圏にはなかったものです。これが日本ならではということで注目され、この本をきっかけに佐々木典士さんの『ぼくたちに、もうモノは必要ない』や『ぼくたちは習慣で、できている。』(ともにワニブックス)といった日本のミニマリストの書籍のヒットにも繋がりました」(浦田氏、以下同)


 日本人の精神的思想を記した本では、脳科学者・茂木健一郎氏が英語で発売した書籍『IKIGAI』が世界中で話題に。同著は31カ国で翻訳出版され、2024年にはドイツのノンフィクション部門のベストセラー1位を30週以上続ける社会現象となった。


 浦田氏はこうした書籍のヒットについて、「禅的な発想などさまざまな教えを学び、日々の生活をハッピーに生きようと実践する海外の読者に、高く評価されているようです。欧米、特に英語圏の地域では、それまで海外の書籍を翻訳出版するという習慣が少なかったが、そこに変化が出てきた。混沌とする世界情勢の中で、ひとつひとつの問題を解決する新しいアイデアとして日本の本が注目されています」と話す。


■不安定な世の中で、日本の書籍が担う「癒し」の役割


 また、欧米社会では日本の書籍が「癒し」として捉えられているようで、小説では川口俊和氏の『コーヒーが冷めないうちに』(サンマーク出版)シリーズの累計発行部数が世界で450万部を超えたことも。同作は過去に戻ることができるという不思議な喫茶店を舞台にした小説で、43言語に渡り翻訳がされている。


「世界中で戦争や紛争があり、政治的にも不安定な世の中で、感動して泣ける、心洗われるような、そうした作品へのニーズが高まっており、日本のいくつかの小説が『ヒーリング小説』としてヒットしました。“カフェ”や“書店”や“図書館”、あとは“猫”といったキーワードが受ける傾向にあり、それらのものがストーリーに登場する作品は他にあるかと海外の出版社から聞かれることが多いです」


 ただ「癒し」の一方でトレンドの移り変わりが激しく、前述した雨穴氏の『変な絵』のように、日本のホラー小説、ミステリー小説の人気が高まっているのだとか。


「日本ユニ・エージェンシーで扱った書籍では近年、横溝正史の『金田一耕助』シリーズの反響が高く、非常に驚かされました。一番最初に売れたのは2017年に翻訳した『本陣殺人事件』。日本の読者にとってはおなじみの作品ばかりですが、『獄門島』に『犬神家の一族』に『八つ墓村』など、いずれも設定が戦前だったり戦争直後で、閉鎖的な田舎を舞台にした殺人事件を扱う名作推理小説が海外の読者に人気なんです。今イギリスをはじめ、フランス、スペイン、イタリア、ドイツで翻訳出版されており、さらに人気に火がつきはじめています」


 日本の書籍が世界中で受け入れられる背景には、日本ならではの視点や価値観の新鮮さと、世界に共通する普遍的な感情との融合がある。出版不況と言われて久しいが、今後さらに多様なジャンルが海外で注目され、日本の書籍が新たな文化交流の架け橋となることが期待される。



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  • 三島由紀夫のkindle版は、英語版と中国語版はあるのに、日本語版がない
    • イイネ!9
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