写真『小児科医「ふらいと先生」が教えるみんなで守る子ども性被害』(集英社インターナショナル)を上梓した小児科医の今西洋介先生。X(旧Twitter)では、「ふらいと先生」の名前で小児医療や福祉の問題を発信しています。
前回は今西先生に、小さな子どもの性被害の特徴や、子どもの性被害を防ぐためには5歳からの性教育や「同意の学習」が大切であることをお聞きしました。
今回は、性加害者の行動の3つの特徴や、性被害を受けた子どもが出すサインについて伺います。
◆日頃から何でも打ち明けられる親子関係を作っておく
――子どもの性被害を防ぐために、プライベートゾーンについて教えたり、「同意の教育」をすることは非常に重要だというお話しですが、性被害に遭ってしまった場合のことは、子どもにどう話せばいいのでしょうか。
今西洋介先生(以下、今西先生):子どもが性被害に遭った時に、「プライベートゾーンを触らせてはダメと言われていたのに、触られてしまった」と、自分を責めてしまうことがあると思います。
そのため、性被害に遭った場合のことに限らず、「どんなことでもママやパパに言ってね、怒らないからね」と必ず伝えておいた方がいいと思います。
日頃から、良いことも悪いことも話すことができる親子関係を作ることが大切です。
――内気なタイプの子どもに対しては、どんなことに気をつけてあげるべきですか?
今西先生:普段からその子の様子を把握することが大切だと思います。その上で、「何だか様子がおかしいから話を聞いてみよう」とか、「言えないようだったら、こんな風に聞き出してみようかな」など、それぞれのご家庭で培われてきたコミュニケーションの方法を試してみるといいかなと思います。
◆夫婦で話し合っておくべきこと
――他にも、親がするべきことはありますか?
今西先生:両親が子どもの性被害について普段から話し合っておくといいと思います。しかし、「夫に話しても聞いてくれない」というお母さんの声をよく聞きます。「そういうのは妻に任せているから」というお父さんは多いです。
性被害に関しては、現実問題として母親の方が気がつきやすいです。母親は子どもを近くで見守る役割を担っていることが多く、性被害に遭いやすいジェンダーでもあるので、異変に気付いた母親から医師などへの相談で子どもの性被害が発覚することが1番多いです。お父さんはそれほど敏感ではないことが多いです。
私がこの本を書いた理由の1つが、男性にも子どもの性被害について知ってもらうことです。男性には数字から入ると説得力が増す傾向があるので、様々なデータを用いて書いています。まずは、「この本を読んでみて」と勧めてみてほしいです。
最近は離婚する家庭が多く、子どもが面会交流で行き来するケースもあると思いますので、元配偶者の方に本を渡すことで知識を共有することもいいと思います。
◆加害者の3つの特徴
――子どもを狙う性加害者には、どんな特徴があるのでしょうか。
今西:注目すべきは性加害者の年齢、見た目といった外的様子ではなく、加害の手法です。まず1つ目に、加害者は子どもが1人きりになるチャンスを常にうかがっています。彼らは事前に入念な下調べと準備をし、子どもを襲うチャンスをひたすら待ちます。
2つ目に、加害者が子どもに接触するための手法として、「子どもに接する職業に就く」があります。小児科医や学校の教員だけでなく、学童保育指導員、児童養護施設の職員、塾の講師、スポーツクラブや習い事の指導者、幼稚園バスの運転手など、教育関係で子どもに近づきやすい職業は沢山あります。
3つ目は「グルーミング」です。私なりの言葉でいうと、「性加害を目的に、親切を装って子どもに近づき、信頼や依存を高めて油断させること」です。
周りの大人から一定の信頼を得て、「あの人なら子どもを任せても大丈夫だろう」と子どもだけでなく、親のことも油断させます。ジワジワと子どもと距離を詰めていき、性被害を受けた時には、子どもは関係性が壊れることを恐れて誰にも言えなくなってしまいます。
――加害者の行動の特徴を知ると、誰を信じればいいのか分からなくなりそうです。
今西先生:僕自身、子どもの性被害について勉強すればするほど「何が起きてもおかしくない」と思うようになりました。うちには3人女の子がいるので、保育士さんや学校の先生を信じてはいるのですが、心の片隅では誰にでも起きるものだと身構えています。
◆「お腹が痛い」「学校に行きたくない」性被害を受けた子どものサイン
――性被害を受けた子どもはどんなサインを出すのでしょうか?
今西先生:被害を受けたことを直接話してくれる子どももいますが、幼い子の場合は自分がされたことを理解することができないことが多いです。
そういう時は、身体症状としてお腹が痛くなったり、「学校に行きたくない」と急に言い出したりすることがあります。不登校に隠れているケースは結構ありますね。
すぐには話せなくても、思いがけないタイミングでポロっと話してくれることがあるので、普段から話をよく聞いてあげることが大切だと思います。
――子どもに話を聞くときは、どんなことに注意するべきでしょうか。
今西先生:「イエス、ノーで質問してはいけない」とはよく言われます。なぜなら、「何かされたの?」と聞かれたことに対して、「イエス」と言えなくて、「ノー」と答えてしまうことがあるからです。そのままズルズルと時間が経ってしまうことがあります。
オープンクエスチョンで、「最近はどんなことがあった?」とか、「学校での様子を聞かせてね」というふうに聞いた方がいいですね。普段から親子で意思疎通ができていれば、子どもは必ず言ってくれると思います。
<文/都田ミツコ>
【都田ミツコ】
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。