
映画『ドライブ・マイ・カー』、舞台「ロスメルスホルム」で数々の賞を受賞し、さらに歌手としても第70回NHK紅白歌合戦に出演するなど、多才な活躍を見せる三浦透子。その三浦が、5月10日から上演する舞台パルコ・プロデュース 2025「星の降る時」に出演する。本作は、イギリス気鋭の劇作家ベス・スティールが情熱的かつユーモラスに描いたヒューマンドラマの傑作で、日本を代表する演出家・栗山民也の演出により世界に先駆けて上演する。江口のりこが演じる長女ヘーゼル、那須凜が演じる次女マギーと、三姉妹として三女シルヴィアを演じる三浦に、本作の魅力や江口と那須との共演について聞いた。
−インタビュー前に台本の読み合わせ稽古があったそうですが、読み合わせを終えての感想を教えてください。
読み合わせが始まるまで、1人で台本を読みながらいろいろと考えるのですが、その答え合わせをする場もないので、すごく緊張していました。その状態から、皆さんと集まって顔を見て、皆さんの声でせりふが聞けて、ようやくみんなと一緒に始められるという思いで、稽古がより楽しみになりました。
−読み合わせで印象的だったことは?
せりふの多い会話劇ですが、その会話の中にもクスッと笑ってしまうものが随所にちりばめられているので、面白くて、あっという間に感じる作品だと思います。その中でも印象的だったのは、幕の終わりやシーンの転換で、抽象度の高い描写が会話劇の中に入ってくるところでした。声で聞けば聞くほど、そのシーンをどう舞台の上で作っていくのかがすごく楽しみになりましたし、その緩急がこの作品をすごく面白くする大きなエッセンスになっているのではないかと感じました。
−イギリスで話題の新作戯曲を世界に先駆けて日本で上演するという作品ですが、作品の魅力をどこに感じていますか。
この物語はイギリスの田舎町が舞台で、常識が共有され過ぎていて、窮屈感がある場所に住む家族の話です。東京のような都会では多様な価値観があるのが当たり前だと思いますが、私個人としては、家族であっても価値観までを合わせる必要はなく、自分を貫いていいのではないかと言いたくなる自分がいます。私が演じるシルヴィアもどこかそういう考えを持った女性だと思いますが、彼女の選んだ道だけが正義だと描いている作品でもないところが難しいところです。こうありたいと思っているけど、なぜ自分はそうなれないのだろうかと、自分の理想と現実に悩んでいる人を慰めてくれる作品でもあると思います。みんなが間違えているけど、誰のことも否定せず描かれている気がします。
−江口さんと那須さんと三姉妹を演じますが、共演が決まったときの心境を教えてください。
江口さんとは1度共演させていただいたことがありましたし、那須さんとは初共演ですが、出演する舞台で拝見していたので、お二人と一緒にお芝居ができると分かって純粋にうれしかったです。
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−実際に2人と読み合わせをした感想は?
お二人とも緊張しないでいられる空気感を作ってくださる方だなと感じました。緊張しないようにしてあげようという意図は感じなくて、ただ自分がいたいようにいる。その上で、こちらが緊張しないような空気に自然となっていて、すごくすてきなお二人だと思いました。
−演じる三女シルヴィアの役柄をどのように捉えていますか。
自分の意思をしっかり持った女性ですが、それでいて、この小さな家族の中でもそれぞれに違った価値観を持っている人が集まっているわけで、その違った価値観を持っている人との接し方も自分の中で見つけている女性です。否定するでもなく、受け入れるでもなく、自分の思っていることはこうだと伝えるけれど、けんかはしないというような絶妙なバランス感を持っているように思います。
−三浦さんには実際に兄弟姉妹はいますか。
ひとりっ子です。
−そうすると、役と自分を重ね合わせるのは難しいのでは?
そうですね。なので、逆に今回はすごく楽しみで、姉妹の関係を疑似体験できるのではないかと思っています(笑)。那須さんは実際に三姉妹の次女で、江口さんも五人兄弟だとおっしゃっていたので、いろいろとお話を聞こうと思っています。
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−舞台「ロスメルスホルム」でも演出を務めていた栗山さんと再び一緒になりますが、演出家としての栗山さんの印象は?
改めて、たくさんのことを学びたいと思わせてくださる演出家の方だと思います。舞台「ロスメルスホルム」の稽古では、栗山さんが発した言葉を、こういう意図でこの言葉を選んだのではないかと考える時間がすごく楽しかった記憶がありました。なので、言われたことに対して、自分から聞き過ぎないようにするときもあるんです(笑)。質問したいことはたくさんあるのですが、その言われた言葉をそのままにしておきたいという感覚があったように思います。
−今作は、問題をはらんだ家族が再び向き合う物語ですが、三浦さんにとって逆に理想の家族と問われたらどのようなイメージですか。
ある程度それぞれが自立していて、助け合いつつ、干渉し過ぎず、それぞれの人生を楽しんでいるというのが家族の理想です。兄弟姉妹がいなくても、母にだから話せることや、家族だから話せる話題というのはありました。私はひとりっ子だったので今の自分があると感じていますが、もっと歳の近い家族の存在がいたらよかったと思うことはあります。同じくらいの時期に同じようなことを悩む、年齢とともに現れる人生の壁にぶつかるタイミングが近い。そのような少し先や後ろを走っている存在だと、より共有できるものは大きかったのではないかと思います。
−学校での何気ないことなどは、母親には言いづらくとも、姉妹がいたら相談できたかもしれないということもあったのでは?
どうでしょう。ただ、話していて思ったのですが、うちは母子家庭で、母娘でずっと暮らしてきたので、姉妹のようなところがあるのかもしれません。それもあって、ある程度の年齢までは母に話すことができない話題というのはなかったように思います。大人になってくると、仕事の話はだんだんとしなくなってしまいましたが、基本的にプライベートの話でも、母にこれは話せないということを思った記憶はあまりないです。
−母と娘で友達的な感覚があったということですか。
友達的な感覚はすごくあったと思います。だから、そういう存在でもっと歳が近い人がいたらすごくいいと思っていたんだと思います。
−三浦さんは舞台でもストレートプレイやミュージカル、さらに映画やドラマと話題作に数多く出演し、そして歌手としても昨年の2024年に初ワンマンライブを開催するなどマルチに活躍されていますが、今後の芸能活動の展望をどう考えていますか。
今、挙げていただいただけでも十分に活動の幅は広がっているので、今後は一つ一つをより深めていきたいです。舞台も一つ一つ丁寧にやっていないと、次の舞台へのお誘いがいつなくなるか分からないですし、それは映像のお仕事でもそうです。音楽の仕事、そしてライブも次があるという状況を作ることができるように頑張らなくてはいけないと思っています。今すごく幸せな場所にいられていると思うので、その場所を守れるように、自分と一緒に仕事をしたいと思ってくださる方たちが、その気持ちをなくさないでいられるような自分でなければいけないと考えています。
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−そうすると、今はこの舞台を突き詰めていくということですね。
そうですね。本当に一つ一つ今ある仕事を丁寧にやるしかないという気持ちです。そして、その先で自分がどんな人間になっているのか、自分でも楽しみです。
(取材・文・写真/櫻井宏充)
パルコ・プロデュース 2025「星の降る時」は、5月10日〜6月1日に都内・PARCO劇場のほか、山形、兵庫、福岡、愛知で上演。
