
「運命的な役との出会いだなとすごく感じます」
と話すのは、北村匠海。朝ドラ『あんぱん』は、『アンパンマン』の作者・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルとした物語。幼少期を経て、今週から大人キャストが本格登場。北村は、のぶ(今田美桜)の幼なじみ・柳井嵩を演じている。北村にとって、朝ドラへの出演は初。
初の朝ドラ出演に不安を抱いていた
「オファーをいただいたときは、びっくりしましたね。イメージ的に(映画『東京リベンジャーズ』シリーズ、'21〜'23年で)血だらけなことが多かったので(笑)。朝ドラは、出勤前や通学前などさまざまな方がいらっしゃるかと思いますが、そんな朝を支えるものだと思うんですよね。そして、役者だったらやっぱり朝ドラや大河ドラマは、役者人生の指標になるようなものだと思うし。“自分でいいんだろうか?”“務まるんだろうか?”という気持ちもありました」
俳優活動とともに両輪である音楽活動も頭によぎったという。制作統括の倉崎憲氏は、所属するDISH//のライブで北村の“10分後、命を落とすかもしれない。だから今どう生きるか。それを連続して行うことが、日々を全うすること”という言葉に感銘を受けたことを抜擢理由に挙げている。
「自分の考え方とやなせたかしさんの哲学がハマって、“あなたしかいない”と。それほどはっきり言ってくださり、信頼を置いてくださっている。そこが自分がいちばん心打たれたところでした」
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自身について“基本的に眠たそうな顔”と冗談を言いつつ、
「朝の顔になれたらいいんですけどね(笑)。やなせさんを演じることに、もちろんやりがいも感じます。やなせさんを自分自身に降ろして、今だからこそ伝えなきゃいけないメッセージが非常に多くあると思っています。それは、自分自身も言葉として伝えたかったことでもあります。温かさを常に持つ『あんぱん』というドラマだからこそ、普遍的に伝わるメッセージも必ずある。僕に任せていただいたならば、精いっぱいやらせてもらいたいという気持ちです」
嵩が絵を描くシーンはたくさん出てくるが、手元の吹き替えはないというから驚きだ。
「僕、小学生のときから絵画教室に通っていて。選択授業も美術。本当は美大に行きたかったんですよ。だからデッサンは下手でも、そのメソッド自体はわかる。絵を描くということはすごく自分にとってはなじみのあること。ただ、油絵やボールペン画で抽象的な絵ばかり描いてきたので、漫画タッチの絵は描いたことがないんですけど。もしかしたら、ちょっと嵩と通ずるものがあるのかもしれないです」
出演決定後、やなせさんにまつわる偶然がいくつか重なったという。
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「点と点がつながっていくような感覚があります。僕は大人になってから偶然、コロナ禍前ぐらいにアンパンマンと深く出会い直しました。コロナも僕の人生観を変えたひとつ。“逆転しない正義”を追い求めたやなせさんとの役を通した出会いは、運命を感じざるを得ませんでした」
嵩が恋心に気づく瞬間
昭和10年。のぶは高等女学校5年生、嵩は中学5年生に。のぶは“女子も大志を抱きや”という父(加瀬亮)の言葉、嵩は“何のために生まれて、何をして生きるのか”という伯父(竹野内豊)の言葉がそれぞれ胸にあるが、将来の道はまだ見えない。さらに嵩は、祭りのパン食い競走での弟・千尋(中沢元紀)とのぶの姿に心が落ち着かない……。
「嵩も自分の中で恋だと気づくのに、明確ではない瞬間が多くて。ライクなのかラブなのか結構、右往左往するんですけど」
嵩は、のぶのどんなところを好きになったと思う?
「のぶは、嵩にできない生き方を真っすぐしていて、ずーっと嵩の前を走っている。その道が光っているから、嵩もそこをたどって歩けていた人生。嵩が東京に初めて出たときに、ふとのぶちゃんを思ったり。自分の人生に今足りないものを確認し、理解したときに、初めてのぶのことを好きだと気づいたんじゃないのかな」
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のぶの外見や性格、そのどこかを切り取った“好き”ではないと語り、こう続ける。
「たぶん、人生ってひとりで生きるにはなかなか大変で。僕も人生の大変さを感じてはいるんですけど、やっぱり誰かと手をつないで歩いていかないといけない瞬間はたくさんあって。嵩にはその思いがずっとあるんですよね。母親(松嶋菜々子)の存在もそう。ずっと誰かと手をつなぎたいんだけど、それが叶わない人生だったし。千尋は横で肩を組んでくれるけど、でもそうじゃなくて。自分は誰かと手をつないで歩きたいんだって思いながら。
でもさっき言ったとおり、のぶは“前”にいるから、気づけないっていうか。お互い人生経験を積んで、初めて横に並んだときに、“この人が大切な人なんだ”という物語だと思っています」
エモすぎる!朝ドラの思い出
印象に残っている朝ドラについて聞いてみると、「やっぱり『なつぞら』('19年)が出てくるかな」と、懐かしむ。
「4人でのオーディションだったんですよ。僕は“キミスイ(『君の膵臓をたべたい』'17年)”のすぐ後くらいの段階で、19歳とか20歳。馬を世話するシーンをやったんですが、監督さんが自由にやらせてくださって、もうアドリブ合戦(笑)。僕は結構、オーディションを楽しめるタイプ。落ちたからどうこうじゃなくて。あのときの芝居は本当に面白かったし、楽しかったですね」
取材・文/池谷百合子