仕事が遅い部下に“あるテクニック”を教えたら、「チーム全体の残業時間」が3割減ったワケ

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2025年04月17日 07:41  ITmedia ビジネスオンライン

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先送りを無くすには?

 仕事の先送り癖は、多くの職場で見られる共通の課題だ。特に「明日でいいや」「もう少し後で」と言い続ける部下を持つ上司にとっては、頭の痛い問題だ。「頑張れ!」と発破をかけても一向に改善しない。そんなとき、ある上司が部下に「タイムボクシング」という時間管理のテクニックを導入したところ、想像を超える効果があった。


【画像】仕事が早く終わることは達成感にもつながる


 そこで今回は先送りを防ぐ「タイムボクシング」という手法を紹介し、部下の行動を変えるためのポイントについて解説する。仕事の効率化や部下育成に悩む上司やリーダーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。


●先送りする部下が自ら変わるとき


 人が仕事を先送りする理由はさまざまだ。「時間があると思って後回しにする」「複雑な仕事に手を付けるのがおっくう」「完璧にしなければと思い込んで手が止まる」など、心理的なハードルが原因になっていることが多い。


 先送りを繰り返す若手社員は、いつも締切直前になって慌てて仕事に取り組み、結果的にミスも増えていた。上司は何度も注意したが、一向に改善が見られなかった。


 ある日、その上司は外部から来たばかりの元コンサルタントの中堅社員に相談した。元コンサルタントは「タイムボクシング」という手法を提案したのだ。


●「タイムボクシング」4つの手順


 タイムボクシングとは、タスクごとに明確な時間枠(タイムボックス)を設定し、その時間内で作業を進める時間管理法だ。具体的には次のステップで行う。


1. 全てのタスクを書き出す


2. 各タスクの優先順位を決める


3. 各タスクに取り組む具体的な時間枠を設定する


4. 設定した時間内で集中して取り組む


 問題を抱えた若手社員は最初、半信半疑だった。しかし、元コンサルタントが「まずは一日だけやってみよう」と提案したことで、試してみることにした。


 朝の9時から10時は「営業資料の作成」、10時15分から11時は「メール処理」、11時15分から12時は「お客さまのアポ取り」というように、一日の計画を立てた。そして実際に取り組んでみたところ、思いがけない変化が起きたのだ。


 これまではメールが来るたびに反応したり、思い付きでお客さまに電話したりして、場当たり的に作業をしていた。


●「タイムボクシング」がタスク処理をカンタンにした事例


 税理士事務所で働くAさん(28歳)も、タイムボクシングによって大きく仕事の生産性をアップさせた若者だ。


 Aさんは、かつて複数のクライアント対応に追われる毎日だった。確定申告の時期になると、中小企業のオーナーからの電話対応、書類の確認、データ入力、税務相談など、さまざまなタスクが押し寄せる。彼女は常に「今これをやるべきか、それとも別のことをやるべきか」と迷いながら仕事をしていた。


 そんな彼女がタイムボクシングを導入してみると、劇的な変化が起きた。


 具体的には、以下の通りだ。


・午前8〜10時は集中力が高いので、複雑な税務計算作業


・午前10〜11時はクライアントからのメール対応


・午後1〜3時はクライアント訪問


・午後4〜5時は資料整理など翌日の準備


 このように時間帯ごとにタスクを割り当てたのだ。


 「作業の種類ごとに時間を区切ることで、頭の切り替えがスムーズになりました」


 とAさんは語る。


 以前は一日中いろいろな作業をごちゃ混ぜにしていたので、集中力が分散していた。しかしタイムボクシングにより、特定の時間は特定の作業だけに集中した。そうすることで、効率が格段に上がったのだ。


 特に効果的だったのは「急ぎではない電話対応」の時間を午後2〜3時に固定したこと。クライアントにも「この時間帯なら確実に連絡がつく」と周知した。すると無秩序な割り込みが減少した。結果としてミスも減り、適切な優先順位でタスク処理できるようになった。


 「タイムボクシングは単なる時間管理ではなく、私の仕事の質そのものを変えてくれた」とAさんは満足げに語っている。


●若手社員を変えた3つの心理的効果


 タイムボクシングは、先送りする心理を以下の3つの点から克服する効果があった。


心理的負担の軽減


 「この仕事を終わらせなければ」というプレッシャーではなく、「今の時間はこの仕事に集中する」という心理的負担の少ない形で取り組めるようになった。


小さな達成感の積み重ね


 タイムボックスごとに区切ることで、小さな達成感を得られ、モチベーションが維持できるようになった。若手社員は「一時間やり切った」という小さな成功体験を積み重ねることができた。


完璧主義からの脱却


 若手社員は「この時間で出来る最大限のことをやろう」という意識に変わり、完璧主義から脱却。8割の完成度で提出し、後から調整する習慣が身についた。


 たった2週間でこのような変化が見られ、上司は驚いた。最も驚いたのは若手社員自身だった。


 「時間を区切ることで集中できるようになったんです。何より、前は仕事が終わらず残業ばかりでしたが、今は定時に帰れるようになりました」


●タイムボクシングを導入する際の注意点


 タイムボクシングはシンプルながら効果的だが、導入には以下の点に注意が必要だ。


適切な時間配分


 最初は各タスクにかかる時間を正確に見積もるのが難しい。少し多めに時間を設定し、徐々に調整していくとよいだろう。


バッファの確保


 予定外の作業が入ることも考慮し、一日の計画には余裕を持たせることが重要だ。ある若者は午後の時間帯に「対応枠」を作ることで、急な依頼にも対応できるようにした。


休憩時間の確保


 集中力を持続させるためには、適切な休憩が必要だ。若手社員の場合、25分作業したら5分休憩する時間管理術「ポモドーロ・テクニック」を併用することでより効果が高まった。


●タイムボクシングが組織全体を変えた驚きの展開


 若手社員の変化に驚いた上司は、チーム全体にタイムボクシングを導入することにした。すると、個人の業務効率だけでなく、チーム全体のコミュニケーションも改善した。


 「○○さんは今、この時間帯はこの作業に集中している」ということが共有されたため、不必要な割り込みが減少。また、タイムボックスを共有することで、お互いの仕事の優先順位や進捗状況を理解しやすくなった。


 さらに、会議の時間も明確に区切られるようになり、だらだらと長引く会議も減少。結果として、チーム全体の残業時間が平均30%減少した。


 冒頭で触れた「想像を超える効果」とは、一人の先送り癖のある部下への対応が、組織全体の働き方を変えるきっかけになったという点だ。


 当初、上司は問題を抱えた若手社員一人の問題解決を目指していただけだった。しかし、このシンプルなテクニックが思わぬ波及効果を生み、組織の文化そのものを変革する原動力となったのだ。


 意志の弱さや能力の問題と思われていた「先送り」が、実は効果的な時間管理法の欠如だったことに気づいた瞬間でもあった。


●まとめ


 タイムボクシングは、単なる時間管理術を超え、仕事への向き合い方そのものを変える可能性を秘めている。


 「この時間枠(タイムボックス)では、このタスク処理に集中する。他のタスクの割り込みは許さない」


 このシンプルな「割り切り」がいいのだ。


 部下の先送り癖に悩む上司は、まずはこのシンプルな手法を試してみてはどうだろうか。個人の効率向上だけでなく、組織全体の生産性向上につながるかもしれない。



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