自由な校風の高校で、「文学を好きなんだ」と自覚した 変態文学大学生――。なんと、あらゆる妄想を鷲掴みにする肩書だろうか。自らをそう名乗るのは、吉行ゆきのさん(@yoshiyukiyukino)。現役の北海道大学大学院生だ。
彼女はなぜ“性愛”と“文学”に傾倒したのか。その源泉を辿る。
◆いったい何者なのか?
――肩書の面白さに惹かれました。実際、吉行さんは何をしている方なのでしょうか。
吉行ゆきの:現在は北海道大学で文学を研究しています。この3月に修士課程を修了し、春からは博士課程に進学します。ペンネームの吉行は、敬愛する吉行淳之介からです。ちなみに大学は同じく北海道大学でしたが、経済学部に在籍していました。
――意外としっかりした方で驚きました(笑)。SNSではずっと飲んでいるイメージだったので。
吉行ゆきの:いや、そのイメージも間違ってはいません(笑)。たとえば、夜中からずっと読書をしながらひとりで飲み始めて、昼ごろに友人から連絡がきて一緒に昼飲みをして……みたいな日も結構あるんですよね。お酒も日本酒が一番好きですが、ウイスキーならアイラ系のスモーキーなものが好みだったり、年齢と好みがマッチしていないとよく言われます(笑)。
◆医師や弁護士に憧れた時代もあったが…
――経済学部を卒業して文学を研究しようというのは、どういう気持ちの変化からですか。
吉行ゆきの:そもそも経済学を学びたかったわけではないんです。私はもともと理系で、文転しました。当時、文系学部で数学を入試に活かせる北大の学部は限られていました。そのなかの1つであった経済学部を受験したという経緯があります。
幼少期から書籍が大好きだったんです。当時は、それこそミヒャエル・エンデ作『モモ』とか、年齢相応の作品を楽しんでいたと思います。母子家庭で育った私は、母親との距離が近くて、性に対してもオープンに話す関係性でした。今でも共通の“推し”のエロ漫画家がいるくらいです。そうしたなかで、文学性を保ちながらエロスを感じることのできる作品が世の中に多いことを知って、研究したいなとは思っていました。
――エロ×文学というのが、ある意味で吉行さんの人生のテーマでもあったわけですか。
吉行ゆきの:ただ、たとえば中学くらいのときは暮らし向きも良くなかったことから、一般に稼げるとされる医師や弁護士に憧れた時代もありました。そういう意味で実学思考だった時期もあります。ところが高校に入学してみると、とても自由な校風で驚きました。各々が本当に自分の好きなことに向き合っていて、そうした環境のなかで「自分は文学が好きなんだ」と自覚したことは確かだと思います。
◆「Fantia」の変わった使い方とは
――差し出がましいことですが、生活費などはどうしているのでしょうか。
吉行ゆきの:ありがたいことに実家ぐらしで、“子ども部屋学生”なので何とかなっています(笑)。19歳ごろまではポールダンサーとして活動して収入を得ていたんですが、それ以降は、SNS経由での収入などがあるためアルバイトをせずに研究ができています。博士課程以降は研究奨励金も出るため、幅広い研究ができますしね。「Fantia」という有名な会員制のサブスクサイトがありますが、私の場合、自分の写真ではなく“艶っぽい話”を載せて収益を得ています。変わった使い方だとよく言われます(笑)。
――社会に出ないで大学に残り続ける道を選んだのは、“やりたいこと”を突き詰めるためというわけですね。
吉行ゆきの:そうですね。それに加えて、「大学を卒業したらすぐに就職!」という雰囲気が“出荷”されていくように感じてしまって(笑)。学生時代って、意外と短いなと思ったんです。4年間あると言うけれど、実際には3年生で就職活動、もっと前から準備に入りますよね。純粋に自分がやりたいことに向き合う時間は考えているよりもずっと少ない。そして、すぐに社会に貢献しなければならないというのがしんどくなってしまって。北海道大学は非常に牧歌的で良い大学だと私は思っていますが、大学全体が就職予備校と化してきている実情は確実にあると考えています。
◆自分をインフルエンサーだと思っていない
――将来的な野望があれば教えてください。
吉行ゆきの:私は自分をインフルエンサーだと思っていないんです。流行を作るというよりは、自分が作っているサイトを大きくしたいと思っています。現在、「実践×文学」というサイトを立ち上げていて、著者へのインタビューなども掲載していけたらなと思っています。当然、著作権などにも配慮した、“健全で卑猥な”運営を心がけています。
そこにたどり着くまでには、試行錯誤がありました。たとえば日本の緊縛などの文化をロシアに輸出したいと考え、大学時代に留学を経験しました。もちろんロシアにも性愛への関心はあるものの、宗教的な理由などで受け入れられるのが難しそうで、断念しました。
将来的には、艶のある活字や漫画をベースとするコンテンツを紹介したり、そこから派生したものを生み出して生活ができるようになればいいなと考えております。
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道徳的で健全な精神と文学は相容れない。背徳を楽しむのが“変態文学”の醍醐味と言えよう。現役の研究者である吉行さんの奇抜な好奇心が、文学シーンも研究シーンも真新しいものに塗り替える日が来るかもしれない。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki