【#佐藤優のシン世界地図探索105】「新帝国主義」の下で堅守すべき2つの掟

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2025年04月18日 07:40  週プレNEWS

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トランプとの付き合いには、厳守堅守すべき2つの掟がある(写真:時事)


ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!

*  *  *

――2月末の首脳会談で、ウクライナのゼレンスキー大統領が、トランプ米大統領を激怒させましたが、その瞬間、新帝国主義の時代に入ったのですか?

佐藤 その前からです。

――そして、佐藤さんのメルマガ(『インテリジェンスの教室』)には、「日米同盟が顕教から密教になってしまった」と書かれていましたが、これはすごいことですよね?

佐藤 はい。そう思いませんか?

――それが、自分にはよくわからないのです。顕教と密教は仏教の教学で、顕教は文字になっていて誰でも知ることができる教え、一方の密教は秘伝として口頭で伝えられ、特定の専門家集団で共有されている教え、ということです。

そして、気になるのがメルマガにあるこの部分です。

《日米同盟の顕教とは以下の内容だ。太平洋戦争に敗北した後、日本は国家体制を根本的に転換した。天皇は国権の総攬者から国家と国民統合の象徴になった。国民主権、民主主義、自由、人権尊重が日本国家の基本的価値だ》

これ、旧バイデン政権の金科玉条にしか見えません。

佐藤 そうです、合っています。バイデン政権では、顕教一本でやってきていました。

――なるほど、それがトランプになって密教になったと。どうなったんですか?

佐藤 いまの世界情勢で日本も何をやられるかわからないから、日米同盟が何よりも重要になりました。

――先に学んだ国際政治の成り立ちは、価値の体系、力の体系、利益の体系にあると。これが、価値の体系から力の体系に移行したからですか?

佐藤 そういうことです。

――そして、密教は口伝で秘密でありながら、

《アングロ・サクソン諸国は、戦争に強く、敵と見なした国家や民族に対しては、どんなに残酷なことでも平気で行う》

《太平洋戦争に敗北し、焦土となった経験から学ぶのは、アングロ・サクソン諸国(とりわけアメリカ)とは絶対に戦争をしてはいけないということだ。そのためにもっとも効果的なのは、ジュニアパートナーとしてアメリカと同盟関係を構築することだ》

と、佐藤さんは秘伝を堂々と書かれています。

佐藤 はい。でも、正しいですよね?

――はい、それはもうその通りだと思います。

佐藤 アメリカが無理をやっているときこそアメリカを支持しなければ、信じなければなりません。友達とは正しいから支持しているわけではありません。正しいときも間違えているときも、支持しているから友達なんです。

――なるほど。苦しいときも楽しいときも常に隣にいると。

佐藤 それが本当の友達であり、トランプとの付き合い方です。

――あっ、密教と化した日米同盟って、簡単に言うと「トランプとの付き合い方」ということですか?

佐藤 そういうことです。

――では、具体的に何をすればいいんでしょう? 教えてください!

佐藤 【第一条】トランプが正しいときはそれに従う。【第二条】トランプが間違えているときも第一条と同じ行動を取る。

このふたつさえ守っていれば、アメリカとの関係、トランプとの関係も問題ないです。

――マジですか!? これ、トランプがどんなことをしても付いていくってことですよね。友達関係ならばいいですが、日米同盟は"戦争と平和"でありますよ。

佐藤 付いていく度合がちょっと違います。トランプが間違えてもいいんですよ。それは向こうもわかっていますから。

――向こうの誰がわかっているんですか?

佐藤 米国務省の役人やCIAと話せば、その辺りの話は解決します。やっぱり、ゼレンスキーみたいのが一番良くないんですよ。

――日本とウクライナは同盟関係ではないですが......。

佐藤 例えば、ゼレンスキーはトランプと大喧嘩しましたよね。

――あの、虎の尾を踏んだと言われるホワイトハウス口喧嘩事件。

佐藤 そうです。そして後日、トランプは演説の中で、『ゼレンスキー大統領から重要な書簡を受け取った』と発言しました。そこにはトランプに対する詫びが入っていたと思い、喜んでいたんです。

しかしその後、ウクライナの大統領報道官が「書簡ではなく、ゼレンスキー氏のSNS投稿だ」と言ってしまったんですね。そんなこと言う必要はないんですよ。わざわざ間違いを指摘して、なぜ恥をかかせたんでしょうか。

トランプに対して、それは絶対にダメです。なぜならトランプは、選挙によって選ばれた皇帝ですから。王様と皇帝の違いは、王は一国を支配しているのに対して、皇帝は他所の国も支配します。トランプが支配するのは米国だけではないということです。

――すると、皇帝への従い方は前出の第一条と同じでありますね。

佐藤 そういうことです。

――王様は第一条だけでいい。

佐藤 はい。なぜなら本来、皇帝は国民が選ぶものではありません。選ばずとも、皇帝は降って来るものですから。

――ものすごくわかりやすい! しかし日本は常に米国を追従しすぎて、世界から孤立しませんか?

佐藤 大丈夫ですよ。全世界が皇帝を支持するのは、時間の問題ですから。

例えば、ソ連時代のKGB、あるいはイランの革命防衛隊に捕まったとします。すると、やってもいない犯罪の調書ができあがりますが、それにサインした方が絶対にいいですよね。

――なぜですか? でっち上げじゃないですか。

佐藤 身体の一部がなくなってからサインするか、自分でペンを握る力があるうちにサインするかの違いだけですよ。であれば、人の力を借りずに自力でサインできるうちにサインした方がいいという話です。

――そりゃまた、世界はすごいことになってるんですね。

佐藤 だから、正義とか人権とか、民主主義とか、そんな青い話をしていたらダメなんです。世の中はそんな理屈で動いてないんですから。

――まさに密教の世界であります。

佐藤 そんな世界は身近でもたくさんありますよ。例えば『嗚呼!! 花の応援団』(※)もそうですね。

※1975年に連載が始まった、どおくまんのギャグマンガ。南河内大学の応援団が舞台で、暴力、下ネタなど過激な内容も多かったが映画化もされてブームに。「クエクエクエ」「チョンワチョンワ」といった主人公・青田赤道(あおた・あかみち)の口癖も流行った

――映画化もされた1970年代のギャグマンガですね。あれも密教の世界なんですか?

佐藤 主人公・青田赤道(あおた・あかみち)団長の元にいる登場人物たちが、そういう感じじゃないですか。酒場の人が、「最近、青田さん来ないんで助かってますよ」と。

――それは 【第一条】青田赤道団長が来た時は歓迎する 【第二条】来ないときは安心しているけど、来たらただちに歓迎する。

佐藤 そうです。だから、青田赤道の雰囲気でトランプを見ておけばいいんです。雰囲気も似ていませんか?

――酷似しております。すると、いまの日本は青田赤道団長=トランプの率いる「花の応援団」の一団員としてどこまでも付いていくと。

佐藤 はい、南河内大学一回生・富山一美のような振る舞い、立ち位置になればいいんです。

――青田赤道団長の不在時には、大団旗を上げる旗手となるわけですね。

佐藤 はい。だから、ちゃんと日本のサブカルであるヤクザ映画などを観て、マンガ『嗚呼!! 花の応援団』を読んでいればわかる話です。これまでは『課長 島耕作』みたいな世界を皆、考えていましたが、いまはああいった世界ではなく「花の応援団」に変わったんです。

――すると、青田赤道クエクエクエの世界が現れて来るのですね。

佐藤 すでにそれは現れ始めていますよ。

――どこにでありますか?

佐藤 クエクエクエではなく、「掘って掘って掘りまくれ」とね。

――それは、トランプ米大統領が就任したばかりの際に言った名台詞です。

佐藤 美味しそうなレアアースがたくさんあるんですよ。

――美味しいレアアース?

佐藤 はい、(地図を指さして)ここです。それらは皆ここにあります。

――これ、ウクライナ戦争の最前線の激戦地区じゃないですか?

佐藤 そう、そこにとても美味しいレアアースが全部固まっています。

――あっ、これ、前回の話に繋がるわけですね。トランプのウクライナでの安全保障に。ここで米露が向こう100年間、レアアースを掘り尽くす。そして、そのあがりは、プーチンとトランプで分けると......。

佐藤 そうです。

――しかし、日本には無関係じゃないですか!?

佐藤 それはそうでもないんです。日本は新帝国主義の米国と共にあります。

――あっ、佐藤さん言う「準勝者」ですね。日本はG7の中で唯一、ウクライナに殺傷兵器を送っていない。だから、レアアースの発掘に関しても、準勝者として米国に協力する。

佐藤 そういうことです。

――ウクライナから米国経由で、レアアースがガンガンと入って来る。そうなると、日本は対中国で強くなりますね。中国からのレアアースを禁輸されても大丈夫。これで、中国問題は解決していきそうですね。

佐藤 上手くできてますよね。

次回へ続く。次回の配信は4月25日(金)を予定しています。

取材・文/小峯隆生

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