
司忍組長率いる六代目山口組と、離反組を率いて結成された井上邦雄組長をトップとする神戸山口組の10年にわたる抗争が急展開を迎えた。
六代目側のナンバー3、森尾卯太男本部長ら幹部が4月7日、両組織が本拠を構える神戸市を管轄する兵庫県警本部を電撃訪問し、一方的な抗争終結を宣言したのだ。関係者によると翌8日には、愛知県内にある六代目側の二次団体の事務所で、高山清司若頭が神戸側など敵対組織に「構うな」とし、「六代目山口組は前進あるのみ」と号令を掛けたとも伝えられ、終結に向けた機運が高まっていることをうかがわせた。
ただ、「終結宣言は六代目側からの一方的なもの」(捜査関係者)と捉えられており、情勢はなお流動的だ。さらに「六代目側の内部では、当代に次ぐ跡目の話も浮上している」(暴力団関係者)との情報もあり、裏社会にさらなる激震が走る可能性も取りざたされている。
■「和親合一」と謀反組批判
《山口組の歴史の中で謀反を起こした者の行く末は火を見るより明らかです》
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インターネット上にも出回っている同組の機関紙『山口組新報』の最新号に、そんな一節が記されている。
「和親合一」とした2025年度の組指針や、司忍組長の近影とともに掲載された「巻頭言」のなかで触れられた「謀反を起こした者」とは、いうまでもなく、神戸山口組をはじめ六代目側と対立する組織を指すとみられる。
組織内の引き締めや団結を図るためのメッセージとも捉えられるが、暴力団関係者らに激震をもたらした4月7日の出来事を振り返れば、間近に迫る異変の予兆だったともいえそうだ。
「実は今年は、大正4(1915)年に山口組が創立されてから110年の節目の年でもある。山口組新報の最新号は、そのことを意識した作りにもなっていて、巻頭には『山菱』の代紋と『山口組創立百十年』が大書され、中興の祖である3代目の田岡一雄親分はじめ6代目の司忍親分に至るまでの歴代親分の近影が並んでいる。
そこに長寿の象徴である縁起物の鶴亀の絵が配されるデザインになっている。大事な節目の号で、神戸側など対立する連中を『謀反組』としっかりと明言している。一連の抗争が起きてから10年になることもあわせて考えれば、その後の『抗争終結宣言』の前触れだったと見ている連中は確かにいる」
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こう指摘するのは六代目山口組の事情に詳しいある暴力団幹部だ。
さらに件の「巻頭言」には、長い抗争の「キーマン」ともいえる動きをした人物の名前も記されている。
「1月の執行部会で『プラチナ』と呼ばれる若頭補佐に新たに就任した中田浩司・五代目山健組組長のことです。
中田組長は2019年8月に神戸市内で起きた銃撃事件の実行犯として、殺人未遂の疑いで逮捕・起訴され、2024年10月に無罪判決を受けて出所したばかりでした。中田組長が率いる山健組は、神戸側の井上組長の出身母体で、かつては神戸側の中核組織でもありました。
ところが、中田組長は銃撃事件での拘留中に六代目側に復帰。多くの組員が中田組長と行動を共にしたことで、神戸側の屋台骨が大きく揺らぐ事態になったのです。それまでも神戸側は劣勢続きでしたが、この出来事が決定打となり、さらに求心力を失う形となりました。
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『新報』では、その中田組長の労をねぎらうような文言が記されていたほか、年末恒例の組の餅つき大会に参加した様子も綴られていました。神戸側で中心的役割を担っていた人物の帰参を誇示する狙いがあったようにも映ります」(捜査関係者)
■他団体からの要望も
こうしたいくつかの伏線を回収するように行われたのが、六代目側の最高幹部による兵庫県警本部の電撃訪問であり、一方的な「抗争終結」宣言だったのだ。その後も冒頭で記した、組織ナンバー2の高山清司若頭による「号令」が発せられ、神戸側とは別の対立組織幹部の引退情報が出回るなど、抗争を巡る動きは続いた。そもそも、こうした抗争の終局に向けた一連の流れの端緒となったのは、「他団体が六代目側に送ったとされる『要望書』の存在があった」(同)という。
「3月には、六代目山口組と友好的な関係にある稲川会、住吉会の幹部らが、全国の組織に呼びかけ、六代目側に抗争終結を求める『連判状』を作る動きがあるとの情報が出回りました。これがいわゆる『要望書』で、これを受けて六代目側が兵庫県警に『宣誓書』という形で抗争終結を宣言したと言われています」(全国紙社会部記者)
関係者によると、六代目側が抗争終結を急いだ背景には、2020年に六代目側や神戸側がそれぞれ「特定抗争指定暴力団」に指定されたことも背景にあるとみられている。「組員同士の会合の制限や摘発の強化など、当局による締め付けが強まるなか、組織の疲弊を食い止めるためにも、抗争終結による指定の解除は欠かせない」(同)との見方があるためだ。
ただ、六代目側にこうした激しい動きがあるにも関わらず、神戸側は不気味な沈黙を保ったままだ。まもなく10年の節目を迎えようとする抗争は今後、どうなっていくのか。
「六代目側の執行部内でも今回の抗争終結宣言の捉え方には微妙な温度差があるようです。一区切りと捉える見方と『完全解決ではない』と捉える見方に分かれている。
組織内では、抗争が完全終結すれば、2005年から続く司忍組長をトップとする六代目体制からの『代替わり』も視野に入ってくる。組織内でも、続く七代目体制で、司組長と高山清司若頭が築いた弘道会を中核とする体制が維持されるかどうかについても、結論は出ていないようです」(前出の捜査関係者)
これまで起きた数々の暴力団抗争の中でも類例のない「10年戦争」はついに終幕を迎えるのか。そして、裏社会に君臨する新たな「首領(ドン)」が出現することになるのか。いずれにしても、裏社会でいま、大きな地殻変動が起きていることだけは間違いなさそうだ。
文/安藤海南男 写真/時事通信社、山口組新報、関係者提供