上司「今度の歓迎会、参加必須だぞ」←これってパワハラに当たりますか? 弁護士が解説

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2025年04月18日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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歓迎会、「参加必須」はパワハラ?

●Q&A:これってハラスメント?


【画像】パワハラかどうかはさまざまな事情を考慮して判断する


職場で起こりがちなケースを基に、ハラスメント問題に詳しい佐藤みのり弁護士が詳しく解説します。


Q: 新入社員が配属される部署の課長が、課のメンバーに対して「全員で歓迎したいから、夜の歓迎会には必ず参加するように」と言いました。これって、パワハラに当たりますか?


A: 言い方やしつこさなどにもよりますが、歓迎会に必ず参加するよう伝えるだけでは、パワハラには当たらないでしょう。


 会社は、従業員に対し、業務として歓迎会に参加するよう求めることができます。勤務時間内に歓迎会を開催する場合はもちろん、勤務時間外に開催する場合であっても、業務として参加を強制することは可能です。ただし、勤務時間外の場合には、残業代の支払いが必要になります。


 判例上、労働基準法上の「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされています(最高裁平成12年3月9日判決)。指揮命令下にあるといえるかどうかは客観的に判断されます。


 歓迎会などの懇親会については、(1)業務遂行上、必要不可欠なものと客観的に認められ、かつ、(2)それへの出席・参加が事実上強制されているような場合に「労働時間」に当たると判断した裁判例も存在します。


 従って例えば


・会社が歓迎会を、社内の親睦を深め、円滑なコミュニケーションのために必要なイベントと位置付け、歓迎会の中で業務にかかわる指導も計画しているなどの事情がある


・従業員全員に必ず参加するよう求めている


・休んだ場合、欠勤扱いとされ、人事評価に影響がある


・歓迎会の費用を会社が負担し、場所も会社が指定しており、移動の際も会社の所有する自動車が使われる


 ――などの事情があると、会社から義務付けられた行事であり、指揮命令下にあったと判断されやすくなります。


●パワハラと判断される可能性が高いケース


 一方現実には、歓迎会を含め、会社の懇親会の多くは「労働時間」に当たらない、任意参加の会として扱われているように思います。業務遂行上、必要不可欠であると認められるには一定のハードルがあり、あからさまな強制が行われるケースばかりでもないと考えられるからです。


 会社としては任意参加の会として位置付けているものの、上司が個人的に「必ず参加してほしい」などと言ってまわり、多くの従業員を誘ったり、不文律として「全員参加するもの」とされていて断りにくい雰囲気があったりすることが多いのではないでしょうか。


 課長の「全員で歓迎したいから、夜の歓迎会には必ず参加するように」との発言が業務命令としてのものであれ、任意参加の歓迎会への勧誘であれ、この一言のみをもってパワハラということはできません。


 パワハラとは「職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)の全ての要素を満たすもの」とされています。


 そして、(2)業務上の必要性や相当性については、問題となった言動の目的、経緯、状況、態様、頻度、継続性、言われた側の従業員の属性や心身の状況、行為者の関係性などを総合的に考慮して判断されます。


 例えば、


・歓迎会への参加を求める際、威圧的に近くの机をたたきながら、大声で怒鳴りつける


・部下が参加できない旨、伝えているにもかかわらず、不参加の理由をしつこく尋ね、不参加の場合には不当な不利益をちらつかせる


・不参加を伝えた部下に対して、「協調性に欠けるクズだ」など人格を否定する言動をする


 上記のケースでは、相当性に欠けるものとして違法なパワハラと判断される可能性が高いです。


●パワハラと認められない可能性が高いケース


 一方、以下のようなケースでは、パワハラとは認められない可能性が高いように思います。


・歓迎会へ必ず参加してほしいと伝えたが、部下が参加できない旨伝えると、すぐ承知したケース


・部下が参加できない旨伝えた際に、上司が理由を尋ねたが、次回の参加率向上のためなどの目的で1回だけ聞くにとどまったケース


 そしてパワハラには、典型的な6類型があります。


1. 身体的な攻撃


2. 精神的な攻撃


3. 人間関係からの切り離し


4. 過大な要求


5. 過小な要求


6. 個の侵害


 パワハラか否かは、先述したようにさまざまな事情を総合的に考慮して判断されますが、「殴る、叩く、蹴る、物を投げつける」といった(1)身体的な攻撃、そして(2)精神的な攻撃の中でも人格否定を伴う場合は、その他の事情がどうであれ、直ちに違法性が認められると考えてよいでしょう。


 歓迎会への参加を巡るパワハラとしては、「不参加を理由に、職場内で孤立させる」といった、職場内いじめに発展するケース(人間関係からの切り離し)や、懇親会への不参加の理由をしつこく尋ね、従業員のプライバシーに踏み込むケース(個の侵害)なども起こりやすいので注意しましょう。



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