NHK朝ドラで“老けメイク”の27歳俳優。いきなり50代前半を演じても「これこれ」と思わせる魅力とは

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2025年04月18日 09:20  女子SPA!

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 北村匠海がそこにいる。それだけで、そこには表現がある。何ともいえない表情なのに、何だか味がある。

 今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』(NHK総合・毎週月〜土あさ8時〜ほか)で、今田演じる主人公・朝田のぶの夫・柳井嵩を演じている。第1週第1回から老けメイクを施した初登場場面が、話題である。

 男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、本作で実年齢を越えた魅力を打ち出す北村匠海を解説する。

◆特徴的なイの字の顔

 朝ドラ『あんぱん』は、北村匠海の後ろ姿から始まる。第1週第1回、冒頭ワンショット目。画面上を飛び回るアニメーションのアンパンマンが前景上手に、後景下手寄りで作者・やなせたかしをモデルとする柳井嵩(北村匠海)が作業している。

 徹夜で漫画を描いていることが、この丸い後ろ姿から伝わる。カメラポジションが変わる。筆を走らせる嵩の横顔を捉える。部屋の外はすでに朝だが、カーテンは閉めきられている。後ろ姿と横顔だけが映るこの薄暗い室内での缶詰感が強調される。

 そこへ本作の主人公で、嵩の妻である朝田のぶ(今田美桜)が、すたすたやってきて、カーテンを開ける。朝日が入り、嵩の顔を照らす。彼の顔正面がやっと映る。のぶの「おはよう」に対して、やや眩しそうだが朗らかにやわらかい「おはよう」を返す。

 口をイの字にして視線を手元に戻す。このさわやかなイの字の顔を見て、あぁこれこそ北村匠海らしい特徴的な表情だなと感じる。

◆北村匠海の心地よい表現力

 嬉しさ、照れくささ、安心感など、ポジティブな感情がいくつも織り込まれたような表情。実に曖昧でいて奥深い。北村がアウトプットする心模様の表現力である。

 何とも言えないが、何だか心地よい表情とも言える。第1回放送前に『もうすぐ連続テレビ小説「あんぱん」』が3月20日に放送されたが、2024年9月のクランクイン映像の北村もいい。ローポジションのメイキングカメラが、野原に佇む嵩役の北村を捉える。

 煽りの位置。引きの画。そこに何ともいえない表情の北村がいる。これだけでそこには表現というものがある気がする。これが本編映像でもまったく問題ないくらいである。

◆後ろ姿が印象的な過去作

 これこれ。これこそ北村匠海の表情であり、表現力だと気づかせてくれる本作だが、後ろ姿にもやはり重要な意味合いがあるなと思う。後ろ姿が印象的な過去作がある。もう10年以上前の映画作品。2013年に公開された『陽だまりの彼女』である。

 松本潤演じる主人公・奥田浩介の中学生時代を北村が演じた。浩介と中学生時代の同級生・渡来真緒(上野樹里)がキスする横顔のツーショットのあと、北村が出演する回想場面に入る。

 物語の運びをむしろスムーズにするこの回想場面の北村は、後ろ姿で初登場する。浩介(北村匠海)と真緒(葵わかな)が、ブランコに乗っている。画面下手でブランコをこぐ北村を見て、『あんぱん』冒頭場面の構図がオーバーラップする。

◆実年齢を越えた魅力

 小栗旬が演じた主人公の少年時代を演じた『TAJOMARU』(2009年)も実にあざやかだった。『DIVE!!』(2008年)など、さらに幼少期の姿を画面上に記憶した子役時代の作品もある。『陽だまりの彼女』は、初期の代表作として位置付けられ、現在まで順当に主演作を重ねてきた北村は、年齢に応じた存在感を磨いている。

 それが『あんぱん』冒頭場面では、年齢をひとっ飛び。いきなり50代前半の年齢設定を演じた。主人公の幼少期から老年期まで描かれる朝ドラでは、同じ俳優が老けメイクを施して演じる。

 いわば、老けメイクは朝ドラのマナーである。北村は、そのマナーにふさわしくあろうとする。現在27歳。年齢と比例してきた北村の演技が、実年齢を超えた魅力を強く打ち出す。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu

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