
Text by 廣田一馬
お笑い芸人でありながら、バンド「ジェニーハイ」としての活動や世界を股にかけたアート界での活躍など、マルチな才能をもつ野性爆弾のくっきー!。
その独特の感性はどう磨かれ、どう花開いたのだろうか。
平成と昭和の流行を振り返るくっきー!初の回顧録『愛玩哲学』の刊行にあわせて、インタビューを実施。くっきー!が昭和、平成のカルチャーから受けた影響や、「センス」や「カッコよさ」に対して考えていることを聞いた。
─今回刊行された『愛玩哲学』は昭和、平成に流行したさまざまなものを通して人生を振り返る回顧録となっています。テーマを聞いた時にどう思われましたか?
くっきー!:実際に生きてきた時代なので、書きやすいテーマだと思いました。今回の本がええ感じやったら、次は未来の流行を勝手に考えて『未来流行』を出したいなと。
─昭和や平成は、くっきー!さんにとってどんな時代だったでしょうか?
くっきー!:昭和は小学生時代で、脳みそが水気のない高野豆腐状態だったので、ぎゅんぎゅんに情報も入っていって。だから昭和が「高野豆腐かすかす時代」。
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平成の後半から令和、いまにかけてが、「高野豆腐のしみしみを絞り出してる時代」。味が出てきて、拡散している時代ですね。なので、高野豆腐ですね。高野豆腐の時代。
くっきー!
1976年生まれ。1994年にお笑いコンビ「野性爆弾」を幼稚園の頃から幼馴染であるロッシーと共に結成。お笑い芸人として活動するほか、バンド「ジェニーハイ」ではベースを担当。アート活動も精力的に行い、2019年『Artexpo New York』では1000組を超えるアーティストから「最も注目する5人」に選出。
─昭和と比べていまのほうが物質的な豊さはあると思いますが、くっきー!さんはどちらがお好きでしょうか?。
くっきー!:やっぱり昔の、自分で工夫してる時代が好きですね。遊ぶもんがないから虫とるとか、ただ実家の庭で倉庫に落ちてる木に釘打って遊んでたとか、それだけでも楽しかったんで、そういう時代は好きですね。
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やっぱりこう、黒目が大きい人が多いじゃないですか。黒目がちというか。カラコン入れて黒目をでかくして。髪の毛にエキスを注入して色を変えたり、爪を長くして武器化したりとか……怖いですね。
─『愛玩哲学』の中で、文章を書くことを「文章を置く」と表現されていたのが印象的でした。言葉の使い方で意識されてることはありますか?
くっきー!:基本的にはニュアンスですかね。好きなんですよ、新しい言葉を勝手につくるの。「肉糞」とかもそうですね。独特な言い方になってるかもしれないですが、なんとなくニュアンスで理解できるだろうなって。
─頭の中を整理する意味で文章を書くことも多いので、「文章を置く」は「書く」以上にストンと落ちる言葉かもしれないと感じました。
くっきー!:過去に作られた言葉に一石投じてるんです。やっぱり古いものは壊したいタイプなんで。
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くっきー!:本で取り上げる流行物のアイデアはポプラ先生(編集者)がリストにしてくれたのですが、その中から自分がしっかり書けるものを選別して、愛着があるものの集合体にしましたね。基本的に嘘なしというか。
─触れてきた流行物の多さに圧倒されました。
くっきー!:いまね、嘘なしとは言いましたけど、やっぱりうん、多少、少々はあるかもしれないですね、無理やり頑張って書いたやつも……。
─くっきー!さんはデニムや革ジャンなど、それぞれの時代に流行っているものを自己流に改造されていますね。
くっきー!:人と被るのが嫌なタイプなんで、自分なりにしています。鋲ジャンはパンク文化由来なので、パンクの人が着ているような鋲ジャンとはちょっと変えたくて時東ぁみさんを背中に入れたりとか。カッコつけすぎない状態にしています。カッコつけてるけど、カッコよくないところはつくっておきたいというか、芸人の逃げしろでもあるのかもしれないです。
─ネタを拝見していると、かなり逸脱されているイメージだったので、流行には乗りつつ、そこから少し逸脱するというバランスが意外でもありました。
くっきー!:今回紹介したものは人生でも一番敏感な時期に流行ってたので、その影響を受けて、いままでずっとそのままでいる感じです。当時のものを脳内リサイクルして、自分の中で新しくしていってみたいな。
お笑いでも、ちゃんとした漫才に憧れてはいるんですよ。でもできないから、我が道を行くしかなかったというのもあるんですけど。
─ギターはちゃんとしたものが欲しい、とも書かれていましたが、通じる部分があるのでしょうか?
くっきー!:金がないときに安ギターばっかり買ってて、やっぱり雑に扱うんですよね。ギターを究極に愛でるためにも、無理してええのを買ったほうが良いと思っています。
たまにギター始めたての人に「何買ったらいいですかね?」って聞かれるんですけど、いきなりええやつ買えって言いますね。そのほうが練習するし、飽きない。触らなあかんっていう思考に行くと思います。
─『愛玩哲学』はくっきー!さんの好きなものですごく埋め尽くされていますよね。魅力的な生き方に見えますが、苦労された部分はあるでしょうか?
くっきー!:嫁に頭を下げるという部分ですかね。好きなことをやるって、金使いますから。男の趣味って、女性からしたらどうでもええことが多いじゃないですか。
そこをいかに説得しつつ、頭下げつつ、お金をいただくかが一番大変じゃないですか。アトリエをつくったときはもうずっと頭を下げた状態で、後頭部で喋ってましたよ。
─ほかの方々とは一線を画す感覚をお持ちのくっきー!さんにとって「センス」とはなんだと思いますか?
くっきー!:やっぱり「人と違うこと」ですね。人と違うことができる思考回路が、センスなんだと思います。
─ご自身はどのようにしてセンスを磨かれていったのでしょうか?
くっきー!:自分たちで遊ぶものをつくらなきゃいけない時代に生まれて、人と違うことをしなきゃいけない芸人という仕事に就いたのはラッキーだったかもしれません。
でも結局、僕を産み落としてくれた母の産道が1番センスあったんじゃないですか。産道センス。センス産道のほうがかっこいいですかね。名前っぽくて。
─過去に「小学生の時に熱射病で倒れていまの感覚になった」とお話しされていましたが、どんな影響があったのでしょうか?
くっきー!:単純な話でいうと、勉強ができなくなりました。あほになったっていうか、集中力がなくなったっていうか。
太陽の熱にやられたんですけど、僕にとっては逆に恵みを浴びたというか。「太陽を求めし初心(うぶ)なるもの」っていう状態に入ったかもしれないですね。勉強どころじゃなく、はい、いかに自分が太陽に近い存在になるかっていうのに目覚めさせていただきました。太陽の思し召しイコール、神の思し召しです。
いまぎゅっと怖くなりました?
─本の中には昔を省みて「いま考えたらダサかったよね」と回顧されている部分もありました。いまはアーティスト活動やバンド活動など、くっきー!さんのセンスにカッコいいイメージを持つ人も多いと思います。
くっきー!:リアルに言うと、「カッコいい」は外したいですね。褒められるのが超苦手で、照れるんですよ。つねにけなされているほうが楽なので、カッコいいと思ってくれてても嬉しいんですけど、内々にしておいてほしいですね。
─アートの世界で活躍していると、特に海外では「カッコいい」の方向に進んでしまいそうでもありますよね。
くっきー!:そうなんです。それぞれの作品に理由を求めるし、メッセージを大切にするじゃないですか。そういうの恥ずいんですよね。
ネタにメッセージを入れるは好きなんですよ。「どこに入れてんねん!」みたいなギャップがあって。そっちのおもろさは好きなんですが、シャキッとしたメッセージ性のあるアートをつくるのは恥ずいです。熱こもらず、飄々としていたいですね。こもってるんですけど、こもってるように見せないというか。
─ネタやアートなど、自分の脳内にあるアイデアを他人に伝える際に意識していることはありますか?
くっきー!:「わかりやすくしよう」みたいなことはまったくないですね。基本的に説明しないので、勝手に感じてくれよと。映画風ですよね。説明が丁寧じゃないからぶっ飛んだネタだと思われるんですけど、丁寧にやったら意外とちゃんとしたネタなんですよね。
─丁寧バージョンもいつか見てみたいです。
くっきー:丁寧にやるのは恥ずいんですよね〜。
─自分だけの個性や感性がないと感じ、悩んでる方もいると思うのですが、くっきー!さんのご経験から伝えられることはありますか?
くっきー!:まずはドスンと、好きなもんをつくらないといけないと思います。
例えば僕はパンクが好きで、パンクという幹に枝があって、そこからいろんな実を吸収しています。だから、ドスンとした幹をつくってほしいですよね。伸ばした枝からプルンと実が出るような幹、ミキプルンをつくってほしい。それぞれに中井の貴一をつくってほしいですね。
あとは、あんまり情報を入れすぎないことじゃないですか。いまこれ流行ってる、あれ流行ってると取り入れすぎるのは大変なので。
─他人の目を気にしてしまう人も多いと思いますが、くっきー!さんはいかがですか?
くっきー!:大半の人がそうなんじゃないですか? でも、究極言ったら他人だし、すれ違ったやつが何かしてくれるわけじゃないので、気を使う必要ないというか。
なんかしてくれる人に対しては気を遣うし意識はしますけど、プラスもマイナスもないやつは気にしなくていいと思います。
─最後に、読者の方に伝えたいメッセージがあればお聞きしたいです。
くっきー!:結局、長瀬智也さんってかっこいいじゃないですか。あの人がなんでかっこいいかって言ったら、周りを気にせず自分の好きなことやってるからだと思うんですね。所ジョージさんとかもそうで、カッコいい人ってみんな1個でかい好きなもんを持っている気がしません?
みんなそういう大人になってほしいな。みんな長瀬智也になれる可能性あるんだぜって。その第一歩がこの本なんだぜって。おつ。