駅によっては、乗り換えが簡単な場合もあれば、距離があって移動に手間がかかることもある。多くの人が利用する東急東横線と目黒線、JR東日本の南武線や横須賀線のある武蔵小杉駅は乗り換えが面倒な駅に分類されるだろう。階段やエスカレーターの上り下りがあったり、通路を長く歩いたりと、利用者への負荷が大きい駅となっている。
武蔵小杉エリアは川崎市中原区に位置している。近年はマンション開発が行われたくさんの人が暮らしており、オフィスビルもあることから多くの人が武蔵小杉駅を利用している。この地が発展したのは、複数の路線を利用でき、各方面へアクセスしやすいことが理由だろう。
武蔵小杉駅の1日当たりの平均乗車人員は、JR東日本が10万7559人、東急東横線が14万7450人、東急目黒線が4万7899人である(いずれも2023年度)。乗車人員だけでなく、乗降人員も含めて考えると、毎日30万人から40万人の人が利用している。
そんな武蔵小杉駅は、それぞれのホームが離れた場所にあることで知られている。東急東横線や目黒線がJR南武線と離れているのは、まだ理解できる。しかし、南武線と横須賀線が離れていることについては「どちらもJRなのに、どうして?」と疑問を感じる人はいるだろう。
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なぜ、武蔵小杉の横須賀線ホームは、離れた場所にあるのだろうか。
●同じJRの南武線と横須賀線ですら、ホームが離れている
南武線はもともと南武鉄道という私鉄であったが、1944年4月に国有化され、武蔵小杉駅となった歴史がある。一方で、東急は1945年6月に南武線と交わる場所に駅を作り、1953年3月に現在の位置になった。
南武鉄道から国鉄となった武蔵小杉駅。そして東急の武蔵小杉駅も細かい駅名の変化と場所の移動を繰り返し、現在の位置となった。
現在の武蔵小杉駅付近にあった横須賀線は、1929年8月に開業した「品鶴線」という貨物線で、1980年10月から横須賀線がこの路線を走るようになった。それまでは、旅客列車は営業運転していなかった。
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以前は横須賀線は東海道本線と線路を共有していたものの、この時から別々の線路を使用するようになり、それと同時に総武快速線直通となった。しかし、この時はまだ横須賀線に武蔵小杉駅は存在しなかった。
●横須賀線に武蔵小杉駅ができたのは?
横須賀線に武蔵小杉駅が誕生したのは、2010年3月だ。この時には改札の外を経由しての乗り換えも認められていたが、2011年6月にきちんとした通路ができ、改札内のみで乗り換えができるようになった。
武蔵小杉駅の横須賀線・湘南新宿ライン・相鉄・JR直通線のホームができたのは、もともと貨物線だった横須賀線を地域の発展に生かそうと、地元自治体がJR東日本に対して旅客ホームの設置を強く要望したことがきっかけだった。こうして、もともと旅客用ではなかった線路に、横須賀線の武蔵小杉駅ホームと駅舎が作られたのである。その結果、南武線側の改札からは横須賀線の武蔵小杉駅ホームに行くまでに500メートルほど歩かなければならなくなった。
前述の通り、南武線はもともと私鉄の南武鉄道であり、横須賀線はもともと貨物専用の鉄道を旅客化したものだった。そして、東急は駅の移転を繰り返しており、すべての路線が一体となって武蔵小杉駅が作られたわけではない。
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そうした歴史的背景から、武蔵小杉駅のホームはそれぞれ離れており、さらには同じJRが運行するはずの南武線と横須賀線のホームですら距離があるのだ。
●利用者が増える中での変化
武蔵小杉に横須賀線の駅を作ったのは正解だったと筆者は考えている。地域の住民が利用するだけではなく、南武線から乗り換えて横須賀線方面に向かう人も多く現れたからだ。
武蔵小杉駅の横須賀線ホームは、以前は1面2線の島式ホームで、上下線の利用者をさばいていた。しかし、利用者の増加により、ホームに人があふれるようになった。そこで、2022年12月に下りホームが新たに設置され、既存のホームは上り方面の利用者のみの利用となった。このホームができたことで、朝の通勤時間帯は約3割程度の混雑緩和となっている。
横須賀線や湘南新宿ライン、相鉄やJR直通線のある武蔵小杉駅は、多くの人が利用するようになり、当初の想定を超える対応が求められるようになった。各路線のホームが離れていても、乗り換える人がそれぞれを行き来し、東急とJRの乗り換え利用者も多い。それぞれのホームが離れていたとしても、武蔵小杉駅にホームを増設しなければならなかった理由は、利用状況を見れば至極当然のことであった。
現在の横須賀線は、通勤ラッシュ対策の「国鉄五方面作戦」のために貨物線を旅客線に転用した路線である。また、かつて工業地帯だった武蔵小杉エリアは、現在では商業や住宅を中心とした街へと姿を変えた。その地域の発展に合わせて新たにホームが設けられたが、もし整備が行われなければ、混雑が集中したままとなり、さらに深刻な混雑を引き起こしていた可能性もある。
地域の発展とともに大きく形を変えてきた武蔵小杉駅。それゆえに、離れた場所のホームができ、そのホームの利用者も増えるといった歴史をたどってきた。武蔵小杉のホームがそれぞれ離れているのは、地域と路線網の発展の証明とも言えるだろう。
(小林拓矢)
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