みかんかれんさん「大切な姫 守るため 戦うと決めた三銃士」――近く、はじめて楽曲を発表するアーティストがいる。みかんかれんさん(@mikankaren612)だ。愛らしい顔立ちと、肩と鎖骨あたりの刺青に目を奪われる。楽曲の歌詞に注目すると、彼女の人生の道程が浮かび上がってくるようだ。半生についてじっくり語ってもらった。
◆シングルマザーになるまでの経緯は…
――SNSでは徐々にファンがつき始めていますが、この楽曲と同時に発表することがあると伺いました。
みかんかれん:曲を聞いてもらえば察しがつくのですが、私はシングルマザーなんです。現在2歳の子どもがいます。歌詞にある「姫」は子どものことで、この歌は、日々子育てをしながら奮闘するすべての人たちに宛てて書いたものです。
――ちなみにシングルマザーになった経緯などを伺ってもよろしいでしょうか。
みかんかれん:私は高卒から美容の専門学校へ通い、アイリストとして勤務していました。当時付き合っていた人はホストをしていたのですが、ほぼヒモのような感じでした。事情があって実家にあまり寄りつけなかった私は、家事に自信がなく、一緒に住むことで支えてもらっていた部分があります。それで妊娠するのですが、彼氏も含めて家族も大反対。でも私は「絶対に生むんだ」と決めていました。
◆里帰り出産を経て、帰宅したところ…
――「事情があって」というのは……?
みかんかれん:私はシングルマザーの母親に育てられました。3歳のとき、父のDVや借金を原因として離婚したと聞いています。しばらくは祖父母と暮らしていましたが、小6のときに母が「彼氏と結婚をする」と言って、私たち姉妹を連れて彼氏のもとへ引っ越したんです。けれども、婚約破棄されてしまって……。それ以来、3人で暮らしてきました。ところが、母親がまた別の男性と再婚したんですが……。新しいお父さんとの折り合いが悪く、ひとりで家を出ることにしたんです。
――そして妊娠、出産をしたわけですね。
みかんかれん:彼氏は当時大学生だったので、保育関係の仕事を見つけて働くと約束しました。入籍もしたんです。しかし、私が里帰り出産をしているとき、いくつか不審な点があって。当時3ヶ月だった娘を抱いて、2人の住む家に戻ることにしました。すると、その家からパジャマ姿の男女が出てきて……もちろん男性のほうは旦那です。
――修羅場すぎます。
みかんかれん:それがきっかけで離婚をして、現在はシングルマザーになりました。いろんな人から「堕ろしたほうがいい」と忠告をされましたが、日々成長していく我が子をみていると、心底から「生まれてきてくれて良かった」と思います。ただ、現実にはお金を稼いだりしないといけないので、やり場のない思いに駆られることはあります。たぶんそれは、子育てを頑張っている人たちも同じだと思います。そんなときに聴いてほしいと思って、今回曲をリリースしたんです。
◆刺青を入れたのは「自らへの誓い」
――シングルマザーで家計を一手に引き受ける状況で、歌手デビューする度胸というのが素晴らしいと感じました。
みかんかれん:ありがとうございます。もしかすると、それは私自身の人生の精算の意味もあるかもしれません。これまで母と妹と生きてきました。母はさまざまなことを教えてくれる優しい女性でしたが、暮らしは貧困だったと思います。周囲には恵まれた環境で育っている子がいて、そうじゃない子は怪しげなバイトなどをしてお金を手に入れるのを見てきました。けれども私は、母から躾けてもらったおかげで、そうした沼にハマることなく人生を送ることができました。
ただ、音楽自体はずっと続けていたのですが、美容の専門学校時代は楽器のローンなどのためお金に余裕がありませんでした。正直、蔑んでみられることも多くあったと思います。けれども、「今は修行中だから、自分がレベルアップすればいいだけ」と言い聞かせて生きてきました。そのときに自らへの誓いとして、刺青を入れたんです。薔薇は美を、ヘビは金運を表しています。
◆“かつての自分”のような子どもを助けたい
――現在はアイリストと二足の草鞋ですよね。将来的にどうなりたいという展望があれば聞かせてください。
みかんかれん:将来的には、ライブもできて健康志向のメニューが食べられるコンセプトカフェをオープンしたいと思っています。そこで働いてくれるキャストさんには、美容のケアが受けられるような福利厚生をつけてもいいなと思っています。理想としては、心も身体も健康で美しくなれるような空間を作っていきたいんです。
――音楽を基軸にして、ご自身のバックグラウンドである美容を絡めたサービスを行うというわけですね。
みかんかれん:はい、そして利益が回るようになったら、児童養護施設などの子どもの福祉を担う施設に寄付したいと思っています。かつての私がそうだったように、世の中には声をあげられないけれど困っている子どもがたくさんいると思います。小6から母と妹と暮らしてきた私のもとには、児童相談所の職員が訪ねてくるようになっていました。当時、私は学校に行くこともできず、満足な教育が受けられていなかったし、貧困家庭だったからだと思います。それゆえに、そうした子どもたちを少しでも助ける側になりたいと考えているんです。
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かれんさんの音楽はポップで、淀みがない。欲しいものに手が届かない日々を生きた女性シンガーが、あの日の自分を癒すための歌を世に送り出した。それは我が子への個人的なラブソングのようでいて、親として毎日を踏ん張るすべての人に捧げる慰労の歌でもある。
<取材・文/黒島暁生>
【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki