『日々限界集落』(主婦の友社)うどん粉 (著)「限界集落」とは、「家を継ぐ若者が流出して、社会的な共同作業が困難になった共同体」のこと。
『日々、限界集落』(主婦の友社)は、そんなギリギリ暮らしを綴った実体験レポ。うどん粉さんが繰り広げる牧歌的な漫画は5000万PVを突破し、新しい癒しとして注目されているのです。
◆電車なし、バスなし、他人なし
「バスは1日1本来たらいい方」「すれ違う人は全員親戚」など、都会をはじめとした地域に住んでいる方にとっては驚く状況が、限界集落にとっては日常。
挨拶がいきなり「クマに気をつけなよ〜」という、クマという単語をカジュアルに、しかもリアルに使う地域は、かなりレアかもしれません。
よくよく考えれば緊迫感のある「クマ挨拶」や、ベンチで休むおばあさんがオシャレアイテムよろしく「鎌を持っている」など、場所が違えば職質案件なエピソードの数々。うどん粉さんのあたたかなまなざしが、笑いに変換してくれるのです。
◆5時30分に電話着信。早すぎる朝
田舎の夜は暗くて静かでよく眠れる、というのが一般的なイメージですが、いやいや、虫やカエルの大合唱でうるさいのです。鈴虫が鳴いていて風流、という情緒はなく、何か抗争でも起こっているのでは?というレベル。
そのせいか(?)、田舎の朝は早い、というか限界集落の朝は早すぎます。朝5時30分に着信がある(しかもサクッと出る)、除草剤まきは4時から。
なるほど、夜に活動する虫や動物のために、人間達は朝の時間を有効に使うのだな、などと頷きたくなりました。
◆たくましきかな、限界集落の住民
文明の利器がない、といっては失礼ですが、大自然に恵まれているぶん、便利アイテムが少ないのも事実。
「車庫に入ったヘビを祖父が素手で投げる」「丸めた新聞紙でスズメバチを父が退治」など。さすがのうどん粉さんもちょっと引いてしまいます。
しかし、今年の干支でもあるヘビを殺傷しないのはご立派。「青空と迫りくるヘビ(絵画のタイトルのようです)」の思い出は、一生忘れられない光景になったのだとか。
私も田舎出身で、虫やカエルやヘビあるあるは多少経験があり、羽虫を素手で握りつぶすなどは日常茶飯事でした。
“田舎はめんどうくさい!”という印象もありますが、他の生き物と共存しているという、妙なよろこびもあります。
田舎は都会にいるよりも時間の進みがのんびりで、限界集落はさらに時間のお流れがゆったりしているのでしょう。うどん粉さんの和(なご)やかな絵と感性が、都会人の心をゆるませ、田舎人の心に共感を生むのかもしれません。
◆犬も主役な限界集落
ペットという概念が強い犬ですが、限界集落では人と同等な扱いをされている気がします。散歩というよりはパトロールという趣(おもむき)、もっといってしまえば生存確認に似た感覚です。
犬を連れて出会うのは人だけではなく(人が少ないので、人とはあまりすれ違わない)、動物や植物などの変化、生態系のチェックといってしまっては大げさでしょうか。
土や空、山が間近に迫る田舎に暮らすと、人間の小ささを思い知らされるのですよね。
山でイノシシが落下したであろう穴を見つけたり、道端で誰かが落とした鯉(自ら這い上がってきた鯉?動物が落とした鯉?)を発見したり。
犬の散歩すらアドベンチャーになってしまうのが限界集落。古民家暮らしに古民家カフェといった、ゆる田舎生活を超越した、超ド級田舎生活がここにはあります。
疲れた心に染み入る4コマ漫画、バーチャルな田舎暮らしを、あなたも体験してみませんか。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx