むーさん 伊豆諸島に属する式根島。徒歩約2〜3時間で一周できるコンパクトさや岩に囲まれた円形の入り江、豊富な露天風呂などが特徴の小さな島だ。
そんな式根島の魅力に惹かれ、東京での仕事を辞めて一人で移住したのが、竹村純菜さん(愛称:むーさん)。
前編の記事に引き続き、後編では、1日の暮らしの流れや病院や商店などの施設事情、島ならではの人との距離感などについて聞いた。
◆朝6時に起床、22時には布団に入る
――島の暮らしで生計はどう立てていますか?
むーさん:商店とレンタカー屋でアルバイトをしています。それぞれ週に3回入っていて、それ以外の時間で畑仕事をしている感じです。
――1日の流れはどんな感じですか?
むーさん:朝6時に起きて畑仕事をして、その後にアルバイトに行きます。商店もレンタカー屋も、朝8時半から夕方の6時か7時くらいまで仕事をして、その後は島の人たちで小学校の体育館に集まって、バレーボールやフットサルを楽しんでいます。小学校と中学校が1校ずつあるのですが、小学校の体育館を借りています。平日も休日も1日の流れはほとんど変わりません。バレーボールやフットサルがない日は22時には布団に入っていますね。
◆水道・光熱費や、食費はどれぐらい?
――小学校と中学校が1校ずつあるとのことですが、中学校を卒業したら本島の高校へ進学するのですか?
むーさん: そうですね。本島(東京都)の高校へ進学する子が多いです。あとは隣の新島に高校が1校あるので、連絡船を利用して通学していている子もいます。
――水道・光熱費は本島に住んでいた時と比べていかがですか?
むーさん:本島にいる時とそれほど変わりません。食費に関しては本島にいた頃に比べて少し高いと思いますが、家賃が安かったりするのでトータルではあまり変わらないかなと。ただ、本島だと電車やバスに乗ったりして交通費がかかりますし、そういうものも含めると本島の方が高かったような気がします。
◆アキレス腱を切った時は船で本島の病院へ
――病院はどのくらいありますか?
むーさん:診療所が1軒あります。定期的に新島などから眼科や歯科、整形外科、精神科などの医師が来て診療してくれる時もありますが、基本的には診療所に常駐している医師が1人で全部診ています。
――医師が来るタイミングは決まっていますか?
むーさん:そうですね。歯科医師は月に2回くらい来ていて、虫歯の治療をしている人はそのタイミングで必ず行っています。あと、症状によっては診療所で対応できないこともありますので、その場合は本島の病院へ行くことになります。ただ、私自身はほとんど診療所に行ったことがなくて、通常の診療時に歯科へ1回、フットサルでアキレス腱を切った時に夜間の診察を受けたくらいです。
――アキレス腱を切った時も診療所で対応してもらった?
むーさん:臨時の医師が診てくれたのですが、患部を触った時にここでは処置が難しいと判断されて、「向こう(本島)の病院で診てもらってください」と。幸い私の場合は松葉杖をつけば動ける状態だったので、船に乗って本島の病院へ行きました。ただ、それが無理な場合は、ヘリポートからヘリコプターで本島の病院に搬送してもらうことになります。
――島民同士の距離感は近く、助け合っている印象がありますが、一方でウワサが出回りやすかったりもすると思います。そういうことは苦ではないですか?
むーさん:私は苦にならないタイプです。ただ、ウワサの広がり方は本当に早いです。アキレス腱を切って1ヶ月くらい島に戻れなかった時、島内の離れた地域に住んでいるおばあちゃんが「足をケガしたんだって?」と聞いてきたり…(笑)。なので、そういうのが嫌な人はたぶん島で暮らすのは向いてないんだろうなと思います。
◆コンビニはないけど、不便ではない
――ちなみにアルバイトをしている商店はどんなお店ですか?
むーさん:スーパーとお土産屋さんが一緒になっているお店です。お弁当やパン、野菜、牛乳などの食料品および洗剤やティッシュペーパーなどの日用雑貨を販売するコーナーと、島のお土産を販売するコーナーが半々の構成です。お土産コーナーでは商店の社長が作っている、あめりか芋を使用した芋焼酎『地鉈』(同店限定)も販売しているのですが、そのあめりか芋の栽培も手伝っています。
島にコンビニはないのですが、不便さを感じることはありません。それこそ商店で働いているので、仕事を終えて帰宅後に買い忘れたものに気づいた時は、商店に電話をして「ちょっと開けてもらえませんか?」とお願いしたり(笑)。自転車で3分くらいの距離なのですぐに行けちゃうんです。
◆ウミガメ、クジラやイルカも見られる
――式根島ではどんな動物が見られますか?
むーさん:ウミガメは頻繁に見られます。あと、近年は海が温かくなってきているせいか、クジラやイルカを近くで見ることもあります。「港に近いところで見た」という話も聞きますし、連絡船を乗っている時に後方でイルカが飛んでいたりすることもありました。
今までクジラはそれほど近くで出ることがなかったので、クジラが発見されると「出たよ!」と騒がれたりします。個人的にあまり見たことがなかった動物だとキジです。普通に畑とか歩いていますし、そこら中にいるんです。
――畑仕事をやっていると遭遇する?
むーさん:めちゃめちゃ遭遇します。人間に攻撃してこようとはしないのですが、野菜を抜いたり、いたずらをしたりするので厄介だなと思いますけど…(笑)
◆同世代がいなくて「出会いがない」
――現在は独身とのことですが、パートナーができた場合も一緒に島に住み続けたいですか?
むーさん:そうなった場合も、できれば住み続けたいですね。ただ、島民同士の出会いはほとんどありません。私は30代前半ですが、同世代が全然いないんです。40代後半や50代の方が青年と言われているくらいですし、高齢の方が多いです。20代もほとんどいませんし、私より年下は中学生や高校生です。
――地元のご友人などが式根島に遊びに来てくれることは?
むーさん:「遊びに来てよ」と言っても、地元の友達となると長野から来なければいけないので遠いですし、そもそも船で旅をしたことがない友達が多くて…。式根島まで行くのに「何十万円くらいかかるの?」と聞かれたりもしますし、物理的にも心理的にもハードルが高いんじゃないですか。
なかには島好きの友達もいて、そういう人に限っては頻繁に遊びに来てくれたりします。まぁでも、友達と会う時は自分が本島へ行くことが多いですね。
◆徐々に農業にウエートを置いていきたい
――アルバイトがない時間に畑仕事をされているそうですが、畑の広さはどのくらいですか?
むーさん:あまり広い畑がなくて。広くもなく狭くもない畑を何か所かお借りしています。どの畑も自転車で10分もかからない場所にあります。畑に行く時は基本的に車で、商店のアルバイトにいく時は自転車を利用しています。
――島で叶えていきたい夢などはありますか?
むーさん:移住当初からの目標ですが、農業を軌道にしっかり乗せて、農業で生計を立てられるくらいになれればいいなと。島の名産品である「明日葉」と「あめりか芋」を育てる人が減ってきてしまっているので、島の伝統を絶やさないように後世に繋いでいきたいです。
今は商店とレンタカー屋のアルバイトで生計を立てていて、農業は周囲に教えてもらいながら少しやり始めている段階なのですが、徐々に農業にウエートを置いていければと考えています。
<取材・文/浜田哲男>
【浜田哲男】
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界を経て起業。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ・ニュース系メディアで連載企画・編集・取材・執筆に携わる。X(旧Twitter):@buhinton