宇垣美里さん 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:韓国。法の網の目をすりぬけた悪人たちが連続して殺されます。この連続殺人事件の捜査にあたる凶悪犯罪捜査班の刑事たちでしたが、犯人はあざ笑うかのように、次の標的を名指しする予告をネット上に公開します…。
熱血ベテラン刑事役を『ソウルの春』『新しき世界』のファン・ジョンミン、正義感あふれる新人刑事をドラマ『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』で知られ『徹子の部屋』にも出演したチョン・へインがつとめます。他にドラマ『梨泰院クラス』でいけ好かない会長二世役が印象的なアン・ボヒョンも出演。
韓国で観客動員数5週連続1位のヒット作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)
◆ぽんこつながらやる時はやる面々に会える喜び!
新作が上映されたらとにもかくにも絶対に映画館に駆け付けると心に決めている監督が幾人かいる。
そのうちの一人が、『モガディシュ 脱出までの14日間』や『密輸 1970』のリュ・スンワン監督だ。キレッキレのアクションや、シリアスとコメディの絶妙なバランスが持ち味で、大ヒットとなった『ベテラン』9年ぶりの続編となる今作でも、その手腕はいかんなく発揮されている。
法で裁かれなかった悪人たちが次々と粛清(しゅくせい)される連続殺人事件が発生。不条理な司法制度に憤っていた世間では、善悪を見極めることのできる伝説上の生き物になぞらえ、犯人を“ヘチ”と呼び、もてはやすようになる。
ベテラン刑事ソ・ドチョルと凶悪犯罪捜査班のメンバーは新たに新人刑事パク・ソヌを仲間に迎え、ヘチの捜査を開始する。
冒頭の闇カジノ摘発シーンからオフビートな笑いは健在。軽快な音楽と共に繰り広げられる華麗かつどこかまぬけなアクションに即座に心を掴(つか)まれた。
あのぽんこつながらやる時はやる、チームの面々にまた会える喜びといったら! 今作だけでも十分楽しめるものの、前作から引き継がれる仲間たちの空気感や、再登場となる悪役の存在など、前作とセットで見るとより楽しむことができる。
◆見てるこちらが痛い!と声あげる迫力
特筆すべきはやはりアクション。人でごった返したクリスマスの観光地でのパルクールを用いた逃走劇は圧巻。
真意を隠した格闘シーンは見ているこちらが思わず痛い!と声をあげてしまうほどの迫力で、零(こぼ)れる狂気が末恐ろしい。雨降りしきる屋上でのくんずほぐれつのな大乱闘は迸(ほとばし)る一滴一滴までもが美しく、もはや官能的ですらある。
勘の良い人なら比較的早いタイミングで事件の真相には気づけるものの、先の読めない展開にハラハラ。
真実かどうかを無視して大衆を煽る配信者や、やりきれぬ不均衡、私刑の是非など社会風刺的な要素を盛り込み、善悪の入り交じる混沌(こんとん)とした現代社会における悪とは何か、正義とは何か、といった答えのない問いを投げかける。
思わずぐらりと倫理観が揺らぎそうになったところに響くのが、ドチョルの愚直なまでにまっすぐな姿勢だ。人を殺すな! 当たり前のことを、当たり前に泥臭く訴え続ける姿にぐっと来た。名優ファン・ジョンミンをこれでもかというほどに堪能できる。
エンドロールの最後まで見どころあり。どうぞ最後まで見届けて。
『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』
監督:リュ・スンワン 脚本:リュ・スンワン、イ・ウォンジェ 出演:ファン・ジョンミン、チョン・へイン、アン・ボヒョン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、オ・デファン、キム・シフ、シン・スンファン 配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス Ⓒ 2024 CJ ENM Co., Ltd., Filmmakers R&K ALL RIGHTS RESERVED 4月11日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー レイティング:G 118分
<文/宇垣美里>
【宇垣美里】
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。