金萬福さん 伝説の『浅草橋ヤング洋品店』(テレビ東京系)でひときわ大きな存在感を示した、料理人・金萬福のインタビュー。
前編では生死に関わるほど過酷だった同番組のロケについて振り返ってもらったが、後編では番組内で築かれた交友関係について聞き出したいと思う。
腕に覚えのある芸人らがしのぎを削る『浅ヤン』だったが、そんななかで金が特に育んでいたのは盟友・江頭2:50との友情。加えて、演出家・テリー伊藤と二人三脚で歩んだ日々、多くの芸能人との知られざる親交が今の金を形作っている。
今回、あきらかになるのは金が直面した成功と挫折、そして彼が大切にする友情と家族愛だ。
◆玉袋筋太郎の店に飲みに行った
――『浅ヤン』の共演者とは、今もお付き合いがあるんですか?
金:2〜3週間くらい前に玉ちゃん(浅草キッドの玉袋筋太郎)のお店に飲みに行ったですよ。
高須さん(『浅ヤン』のディレクターだった高須信行氏)は博士(浅草キッドの水道橋博士)と一緒にYouTubeをやってるじゃん。まだやってるかは、わかんないけど。
――今、浅草キッドの2人は関係が少し微妙なところがありますよね。
金:そ〜う。玉ちゃんのお店に飲みに行ったけど、ほかのお客さんはたぶん2人の仲を知らないと思う。でも、みんなにそれは言えないね(笑)。
◆エガちゃんとは今でも仲良し
――キッド以外で、当時の出演者で仲が良かった人はいますか?
金:いっぱいいるけど、エガちゃん。
――金さんは、江頭さんのYouTubeチャンネル「エガちゃんねる」に何度か出られていますよね。
金:出てますね。今でもたまに、プライベートでごはんを一緒に食べに行くんですよ。
――江頭さんはよく、「胸の大きい女の子の画像が金さんからいっぱい送られてくる」と言っています(笑)。
金:エガちゃんは顔よりも胸が大きい子が好きだから、送ってます。彼に頼まれたから。ハハハハ! 僕の友だちがいろいろ探して、見つかったらエガちゃんに送りますよ。
――「エガちゃんねる」で見ましたけど、10人くらいの女性の画像を続けざまにLINEで送ってましたね(笑)。
金:たぶん、もっとあるよ(笑)。いろいろ探した。ハハハハ!
――金さんとエガちゃんの2人で、よく大人のお店にも行っていたという話も聞きました。
金:行ってましたねえ。エガちゃんにお店を教えてもらったの。彼、本当にああいう感じが大好き。
――本当に仲良しですね(笑)。ちなみに、『浅ヤン』の総合演出だったテリー伊藤さんにはどういう印象がありますか?
金:今、すごい優しいよね。でも、昔は怖かったよぉ。テレビ界で有名。ADさん、みんな言ってたですよ。「本当に怖い!」って。みんな、そういうイメージが強かったよ。僕もあのときはそうだったと思う。
――『浅ヤン』の伝説で、午前のロケにいたADが午後にはいなくなっていたという話をよく聞きます(笑)。
金:ありました! 途中で逃げちゃうんですよ。車で渋谷の交差点で停まっていると、ADさんがドアをバーっと開けて逃げちゃうんですよ。
――信号待ちのときに逃げちゃうんですか(笑)。
金:そう。給料も一切いらなくて、逃げちゃうから。何人かのADがそうやっていなくなった。1〜2人だけじゃなくて、何人が逃げちゃった。よくあった。いや、今は全然違うよ? 今のテリーさんは本当に優しい。たぶん、年とったから優しくなったんじゃない?
◆周さんの料理より僕のほうがうまい
――『浅ヤン』にはたくさんの料理人が出演していましたが、カメラが回っていないときに金さんは「僕の料理が1番うまい」「周(富徳)さんより絶対、僕のほうがうまいよ」と言っていたと聞いたことがあります。やはり、そういうプライドは強かった?
金:もちろん。中華料理は、やっぱり香港がトップです。周さんは日本の中華だから、僕のほうが周さんよりうまいのは当たり前よ。
――日本育ちの周さんではなく、中華の本場・香港で仕事していた金さんの料理のほうがおいしいと。
金:僕、本当の料理人だから。23〜24歳くらいで、香港の「鳳凰酒楼」で料理長やってるんですよ。結構、早いですよ。
――その頃、周りは年上の料理人ばかりじゃないですか?
金:700〜800人くらいのお客さんが入るでっかいレストランで、料理人が26人。自分より年上の人たちがいっぱいいるなかで1番上だったから、みんな言うこと聞かないです。めっちゃめちゃ、やりにくいですよぉ。人生で一番やりにくかった
――そう考えると、超エリートですね。ごぼう抜きでトップに立っちゃったわけですし、来日後は新横浜プリンスホテルの総料理長です。
金:その頃のプリンスホテルは厳しくて、テレビとかCM、雑誌とかに出るのは禁止。だから、「新横浜プリンスホテルの総料理長・金萬福」ってテレビで言えないんです。でも、やっぱりテレビに出ていることがバレちゃったですよ(笑)
それで、事務所に呼ばれました。「金さんがずっと料理長をやりたかったら、外での仕事は一切やめてください」って。だから、テリー(伊藤)さんに相談したら、テリーさんが「もう、やめてください。一緒にお店をつくりましょうよ。もっと、いい生活になるよ」って。それで、中目黒の「烤金(かおきん)」ができました。
◆全盛期の年収は…新横浜プリンスホテルの5倍
――テリーさんが代表の制作会社「ロコモーション」と金さんでオープンした中華料理店ですね! 金さんはテレビにもよく出ていたし、「烤金」は好調だったし、当時の収入はすごかったんじゃないですか?
金:本とかCMとかいろいろやったし、あの頃はイベントのギャラもすごかったです。だから、一番稼いだ年は5000万円くらいじゃない?
――1年間で5000万円! 新横浜プリンスホテルにいた頃は、そこまで稼いでないですよね?
金:いやあ、全然。そのときは1000万くらい。だから、5倍ですよ。
――テリーさんから「もう、やめちゃいないよ」と言われたけど、本当にやめてよかったんですね。
金:うん、やめてよかったですよ。「やめて一緒にお店やったら、いい生活になるよ」って、やっぱり当たり。テリーさんの言うこと、間違いじゃない。嘘つかない。
――「烤金」、めちゃくちゃ流行ってましたもん。
金:すこい並んでましたよぉ。月の売上は3300万円ぐらいで、毎日100万円以上です。
――店長は高橋がなりさんでしたね。
金:そうだね、最初の店長は高橋がなりさん。頭いいね、高橋さん。ビジネスがうまい! お客さんの呼び方とかサービスとか、いろいろうまいですよ。彼がやめてから何人か店長になったけど、高橋さんと比べたら全然だめ。今、もしがなりさんがなにかやりたいんだったら、僕は一緒にやりたいですよ。
◆海老マヨを日本に持ってきたのは…
――あと、これは噂なんですが、海老マヨを開発したのって金さんなんですか?
金:いや、もともと香港に海老マヨはあったですよ。それを日本に最初に持ってきたのは、たぶん僕です。30数年前、『浅ヤン』のときに持ってきて、周さんに「これをやりたい」って言って。だけど、テレビで最初にやったのは周さん。だから、みんなのイメージだと「周さんが始めた料理」になっているかもしれない。
――周さんが開発したというイメージになっているけれど、本当は金さんが日本に持ってきたんですね。
金:そうなんです。最初にテレビで見たら、みんな「この人がつくった」というイメージになるじゃない? 実際は僕が最初です。
――その辺、周さんはずる賢いですね(笑)。
金:ハハハハ! 周さん、売れてたからしょうがないね(笑)。
◆詐欺に遭い、稼いだ貯金は借金に変わったしまった
――後に「烤金」は閉店しますが、それ以降も金さんはお店を出したんですか?
金:やってましたねえ。亡くなっちゃったけど崎陽軒の元料理長と、料理人じゃない中華街の人と、3人で赤坂でお店をやったですよ。でも、その内の料理人じゃない人がお金をチュルチュルやって、そのお店はやめた。
――チュルチュルというのは?
金:お金、売上とか全部抜いてた。詐欺。あと、「烤金」にいたときも友だちが「一緒にお店やりましょう」って。その彼のせいで、お金が超大変になった。
――騙されたんですか?
金:騙された。最初、僕は600万円くらい払って一軒やって。そこから5軒になったですよ。僕が関わっているのは、最初の1軒だけ。でも、ほかの店が頼んだお肉とか仕入れのお金も全部、僕のお店が払うシステムだったですよ。でも、その4軒は僕は全然関係ない。
――ほかの4軒の利益は金さんのところに入ってこない?
金:全然、関係ない。それやってたら絶対に赤字になるよ。だから、毎月お金持っていかれて。
――えーっ、ひどいですね。
金:ひどい。いやあ、彼はめちゃめちゃ大変よ。「烤金」をやめた後は赤坂のお店で3000万くらいの赤字ができて、貯金が全部なくなって借金500万円になった。
――「烤金」ではめちゃくちゃ儲かっていたし、そのときに蓄えた貯金はすごかったはずですよね?
金:そのとき、貯金すごいよ。ただ、いろいろあったから。いやあ、お金目当ての友だちは危ないよ〜。
◆安いお金でお腹いっぱいになるお店を出したい
金:そこからは宇都宮の東武ホテルグランデで料理長を15年間やって、その後は赤坂と川口で「王牌(ワンパイ)」というお店で働いていたけど、昨年12月ぐらいにそこもやめたばかり。
――なぜ、やめたんですか?
金:疲れちゃったよ〜、本当に! 働く時間が長いし、忙しいのはいいけど人が足りない。
――「エガちゃんねる」で見ましたが、ずっと働いてましたよね(笑)。
金:そうなんですよぉ。毎日、12〜3時間ぐらいですよ。それで「1回、香港帰ろうかな」と言って「じゃあ、帰ってきたら戻ってください」ってずっと待ってるみたいだけど、僕は戻りたくないな。疲れるもん(笑)! 最近はやっと休みになったから、いろんな友だちと「一緒にお店をやりたい」って打ち合わせ中ですよ。
――今まで金さんが働いていたお店は、どちらかというと高級なレストランが多い印象です。
金:うん。でも、もっと安いお店をやりたかった。一般の人が簡単に入れる、お金がかからないでお腹いっぱいになるお店。
――ということは、次に出すのは安いお店ですか?
金:たくさん、打ち合わせをしている人がいるんですよ。高級なお店をやりたい人とも打ち合わせ中だし、安いお店をやりたい人とも打ち合わせ中。ほかにも、「お店に毎日は来ないでいいから、金さんに顧問をお願いしたいです」って銀座のお店からオファーがあったけど、それは断っちゃった。
――周りに指示を出すだけのポジションは、あまりやりたくない?
金:やっぱりちっちゃいお店に自分が立って、毎日お客さんに挨拶して……というのが好きね。
――せっかく金さんのお店に行くんだったら、お客さんも金さんの料理が食べたいですからね。
金:そういう人、多いね。1年くらい前、テリーさんが「お店やりましょう」「もっと安い、香港の屋台みたいな感じでやりましょう」って言ってくれたけど、最近は全然連絡して来ないからたぶんやらないと思う(笑)。
◆「やたらとボウリングをする」噂は本当か
――金さんは忙しい仕事の合間、どんな趣味で息抜きをしているんですか? 「金さんはやたらとボウリングをする」という噂を聞いたことがありますが。
金:昔、ボウリングやってました。『浅ヤン』の頃は毎週3〜4回くらい。新宿のボウリング場に行っちゃうんですよ。1回行くと、だいたい8時間くらい。必ず10ゲーム以上はやる。
――なんで、そんなにやってたんですか?
金:ボウリングをやる友だちがいっぱいいたから。みんな、●●●●●●してゲームやってた。
――ハハハハハ! ●●●しているからおもしろくて、そんなに何度もやったんですか(笑)。
金:おもしろいじゃん、真剣にやるからね(笑)。昔はボウリングもやったし、ダーツもやったですよ。タレントをやめた加勢大周は、ダーツがうまかったです。
――加勢大周? ああ、新加勢大周ですね。坂本一生さん。
金:坂本一生じゃなくて、加勢大周。
――えっ、あの加勢大周!?
金:そう。結構、仲よかったですよ。彼、めっちゃめちゃうまいんです。今は全然連絡取ってないけど、当時はよく遊んでた。
――へえーっ。全然、知らなかった。
金:うまい、彼。芸人さんとタレントさんと俳優さんで集まって、みんなで●●●●●●●●●●●してダーツやる。
――加勢大周とそんなふうにダーツで遊んでたんですか(笑)。
金:そう。ほとんど、加勢大周の勝ちです。彼は強い! 強いよ〜、本当にうまい。
◆知られざる中森明菜との関係
――交友関係といえば、金さんのウィキペディアを見ると「好きなタレント・中森明菜」と書いてあります。
金:中森明菜、「烤金」によく来てたんです。彼女のお父さん、実家の埼玉県で中華料理屋やってたじゃん。
――それで、明菜さんはよく「烤金」に来てたんですよね。
金:そうだねえ。だから、いろいろ話も合うじゃん。
――昔の好きなタレントは中森明菜でしたが、今の好きなタレントは誰ですか?
金:テレビを見てて結構好きなのは、Snow Manの目黒蓮。最近、ドラマとか映画とか出てるじゃない? カッコいい。
――目黒蓮ですか!? 意外ですね(笑)。驚きの情報です。
金:ハハハハ! ドラマ見てるからね。
◆知られざるおぎやはぎとの親交
――今も、『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)や『ラヴィット!』(TBS系)のゲストとして金さんを見る機会はありますが、テレビやラジオには今後もどんどん出ていきたいですか?
金:それはもちろん。お店もやりたいけど、そういう仕事もやりたい。
――気になってたんですが、金さんはおぎやはぎと仲がいいんでしょうか? 昔、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)で、矢作さん(おぎやはぎの矢作兼)が“金萬福直伝のチャーハン”をつくっていました。
金:ああ、仲いい(笑)。彼たちが売れる前からずっと。僕、2人のラジオ(TBSラジオ『おぎやはぎのメガネびいき』)も、たまに出てました。おぎやはぎが売れる前はイベントに連れて行って、僕がお料理やって彼たちが司会をやったり。ずーっと大昔から。
――へえー! 金さんとおぎやはぎの関係を知らない人は、たぶん多いと思います。ところで、この先も日本で活動し続ける気持ちはお強いですか?
金:お店や仕事は日本でずーっとやる気持ちですよ。香港には遊びか、家族や友だちと会う目的で行くくらい。
◆香港に住む家族は全員成功者「僕よりお金持ってる」
――香港にご家族を残し、単身赴任の状態が30年くらい続いているんですよね?
金:最初は、日本で仕事して2〜3年くらいで戻るつもりだったです。でも、『浅ヤン』やったら、もうやめられないですよ。いろいろ、いい仕事あるじゃん。
――だって、『浅ヤン』の金さんの出番はドンドン増えていきましたからね(笑)。香港にはお子さんも残しているんですよね?
金:息子と娘がいる。子どもたちはもう大きくて、仕事してるんですよ。今、日本円は安いから僕より給料いいかもしれない。
――聞くところによると、金さんの奥様は某家具会社のお偉いさんらしいですね。
金:結構、偉いです。だから、給料は僕よりも全然いい。
――あと、息子さんも奥様と同じ家具の会社で働いているとか?
金:同じ。支店はいっぱいあって、息子は同じグループの違うお店でマネージャーをやってる。店長。
――息子さんもお偉いさんなんですね! 家族全員、成功されているわけですか。
金:みんな、僕よりお金持ってるよ。だから、昔は家族に仕送りしていたけど、今はみんな「いらない」って。ハハハハハ! 今、日本円は本当に安い。困っちゃうね(笑)。
◆香港に帰らず、日本で活動し続ける理由
――金さんが香港に帰ろうと思わないのは、なにか理由があるんでしょうか?
金:やっぱり、仕事したいですよ。今、香港に帰っても一緒に仕事できる人はゼロ。日本では一緒にできる人がわかってるから。
――もう、日本のほうが友だちや人脈が多いということですね。最後に、金さんの目標を教えてください。
金:楽しいお店をやって、芸能の仕事もやって。でも、お店でそんな大変な仕事はやりたくない(笑)。僕、もう70歳だから。毎日、12〜13時間くらい仕事するのは、本当に疲れるよ。
――去年までは、そういう生活でしたからね。
金:そうなんですよ。仕事が終わって、家に帰ったら深夜1時くらい。それから少しテレビ見て、お風呂入って、寝る時間は3時ね。で、起きるのは9時くらいだから、ほとんど寝不足だった。
でも、僕はどんな大変な仕事だとわかってても一生懸命やる。だから、疲れちゃう(笑)。
――わかりました。次のお店ができたら、ぜひ食べに行きたいんで楽しみにしています。
金:ぜひ、ぜひ! 時間があれば、よろしくお願いします。お店できたら、ぜひ食べに来てください。
<取材・文/寺西ジャジューカ>