写真 俳優の中村アンさん(37歳)が、香川照之さん主演のWOWOW「連続ドラマW 災」に出演しました。
香川さんが人に“災い”をもたらすある“男”を6役で演じ分けるという怪演を披露するサイコ・サスペンスで、その異色作で中村さんは、些細なことまで調べないと気が済まない仕事中毒の神奈川県警捜査一課の刑事・堂本翠役を演じます。
中村さん自身、「バリキャリの役柄が多かった。そういう役をいただくということは、わたし自身がそういう要素があったからなんだって(笑)」とこれまでの軌跡を述懐。しかし、35歳を過ぎたあたりから生き方を変えたと言います。仕事と人生など、現在の心境を聞きました。
◆「わたしたちは災いと隣り合わせで生きている」
――物語の展開を考えると多くを語れない作品かと思いますが、まず台本を受け取ったとき、どのような感想を抱きましたか?
中村アン(以下、中村):奇妙な物語ですが、他人ごとではない感じがしました。わたしたちは災いと隣り合わせで生きているなと感じていて、それが原因で人間関係、恋愛など、何かがガタガタ崩れていく様を見ていると、生きていくこと自体が尊く、大切にしたいものだと思えるんです。当たり前にあると思っていたことも、もしかしたら明日、崩れるかもしれないですよね。
――<世界が注目する監督集団・5月が仕掛ける異色のサイコ・サスペンス>ということで、本作は監督・脚本・編集を関友太郎さん、平瀬謙太朗さんの体制で作られている点も面白いですよね。
中村:脚本には、関監督の実体験も含まれているそうで、関監督が大切な方を亡くされたとき、自分はなぜ生きているのかと葛藤されたそうです。人は突然大切な人を失ったとき、受け止めきれない感情があったりしますよね。
わたし自身もようやくお会いできた方が翌日に亡くなった経験があります。電話で連絡をもらって知ったのですが、人って本当に驚いたときって声が出ないものなんですね。受け入れるのに時間がかかる、なんとも言えない感情。そんなリアルな感情の描写がこの作品にはあると思います。
◆仕事だけでなく人生のことも考えていきたい
――仕事中毒の神奈川県警捜査一課の刑事・堂本翠という役には、どのような印象を持ちましたか?
中村:仕事中毒の刑事で、執着がすごい女性なんです。人は理由なく死なないと思っているので、その理由をずっと探していて、周囲の人間たちに引かれています。でも本当に仕事が大好きなので、そこはわたし自身も共感ができました。周囲が見えなくなるところも共感できて、愛することができた役でした。
――ご自身に近い部分がある?
中村:そうですね(笑)。ある痕跡だけを追いかけているまっすぐなところがあるのですが、わたしも理由を知りたいタイプで、仕事ではよく「なぜ?」と思うことが多いです。20代は仕事さえ充実していればいいと思って駆け抜けて来たところもあるので、あんまり無理なく演じることができました。ただ、これまでは仕事の山を追いかけてきたけれど、この先は仕事だけでなく少しずつ人生のことも考えていこうと思うようになりました。
――本作、みなさんにはどういうふうに楽しんでもらいたいでしょうか?
中村:この作品は、観てくださる方の受け取り方で変わると言いますか、本当に自由な作品だと思います。演じた堂本は「人は理由なく死なない」と言うのですが、そんなことはないと言う人もいるように、いろいろな人のいろいろな意見があると思うんです。
この作品は観てくださる人の感情で楽しめるようになっています。なので、その余白を楽しみつつ、観た人同士で意見を交換したくなる作品ではないかと思います。ぜひ楽しんでほしいです。
◆バリキャリの役柄が多かった
――仕事ばかりの毎日にならないようにと気をつけたいと言われていましたが、このドラマ出演がなければ気づかなかった視点でしたか?
中村:今回の作品のキャラクター発表の記事などを目にしたときに「あ、わたしもだ!」って、改めて自分もそうかなと思ったんです。「ストイックだね」とよく言われるのですが、作品にまっすぐ向き合っているだけで、自分自身にはそういう自覚があまりないんです(笑)。
20代の頃は活動をする上で自分をもっと知ってもらうために、仕事を一番に考えて歩んでいたなあと、この作品と出会って思いました。振り返ってみると、そういう(仕事人間の)役柄が多かったですね。海上保安庁、空港の管制官、外務省、医者……バリキャリの役柄が多かった(笑)。自分自身のことは意外とわかっていなかったけれど、そういう役をいただくということは、わたし自身にそういう要素があったからなのかもと、ふと気づきました。
――数々の作品の中での中村さんの印象的だったキャラクターは、ご自身が役を引き寄せていた感覚なんですね。
中村:そうですね。なんとなくですが、そう感じることもあります。わたし自身も自分が共感できる役柄を演じたいと思っているので、そういう引き寄せは自然にあったのかもしれません。
◆気づいたら「仕事しかしていないぞ」は、ちょっと寂しい
――その気づきを踏まえて、今はどうバランスを取っているのですか?
中村:仕事を一番に考え優先してきたので、35歳あたりからですかね。自分と向き合う時間もできて、趣味などもないので、仕事以外も楽しんでいかなければ、と思うようになりました。遅いのかもしれませんが(笑)、そういうことをなんとなく感じ始めたのには、年齢だけでなく、コロナ禍の影響もあったかもしれないです。
部屋の中で楽しむ、家の中を見渡す、自炊をする……。基本的なことにようやく目を向け始めた。それまでは働いて帰って寝て、たまに遊ぶくらいでしたが、重きを置いているところが変わってきた感じはします。気づいたら「仕事しかしていないぞ」は、ちょっと寂しいなみたいな。
――コロナ禍に関係なく、きちんと日常を送ることでお芝居が楽しくなってきたと感じる俳優の方は少なくないですよね。
中村:そうなんですよね。そういうインタビュー記事をよく拝見していると、ようやくわたしもそういうことがわかるようになったなと思います。お芝居を始めて10年くらい経ち、メリハリがあったほうがいいとようやく感じます。忙しいとよくわからなくなって、日常のありがたみを感じられないままになる。ちゃんと意味を理解して丁寧に日常を送ると、そのありがたみも、お芝居の楽しさもわかるような気がしています。
――俳優としては今後、どういう作品に挑戦したいですか?
中村:自由度が高く、今回のような作品に出逢えていけたら嬉しいです。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/塚本桃>
【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。