アマゾン「Kuiper」はスターリンクを競合とみていない?真逆の展開戦略

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2025年04月23日 18:20  Business Journal

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アマゾンの公式サイトより

●この記事のポイント
・米アマゾンは衛星通信サービス「Project Kuiper」の通信衛星の本格的な打ち上げを開始すると発表
・すでにSpace Xの「Starlink(スターリンク)」が6000基以上の通信衛星を運営して世界中でサービスを展開
・アマゾンはAWSとのシームレスな連携などで企業がKuiperを使うことを想定か


 米アマゾンは4月2日、衛星通信サービス「Project Kuiper(プロジェクト・カイパー)」の通信衛星の本格的な打ち上げを開始すると発表した。Kuiperは、世界中で高速かつ信頼性の高いインターネットを提供することを目指すプロジェクト。年内に通信サービスの提供を開始し、3200基以上の衛星を運用する予定だが、同市場ではすでにイーロン・マスク氏がCEOを務めるSpace Xの「Starlink(スターリンク)」が6000基以上の通信衛星を運営して世界中でサービスを展開。日本でもKDDIがスマートフォンで直接、スタートリンクを利用できる「au Starlink Direct」を今月に開始して注目されている。Kuiperはスターリンクと何が違うのか。また、Kuiperはスターリンクのシェアを逆転するほどの存在になる可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。


●目次



AWSとのシームレスなつながり
IoTシステムに組み込んでいくことなどを想定か

 アマゾンは2019年にKuiperを立ち上げることを発表し、23年にプロトタイプ衛星を打ち上げ。今回、初の通信衛星はユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)のアトラスVロケットによって打ち上げられ、高度450キロメートルの地球周回軌道に27基の衛星を配備することが予定されている。


 モバイル衛星通信サービスは世界的に市場が拡大しており、23年時点の55億6000万ドル規模から30年までに86億3000万ドルに成長すると予測されている(「Fortune Business Insights」調査による)。海外の大手企業が注力しており、M&Aも活発化しているが、同市場で大きな存在感を示しているのがスターリンクだ。2020年、米EV(電気自動車)大手テスラCEOのマスク氏が率いるスペースXが参入を表明し、日本では22年にサービス提供を開始。その革新的な技術は注目されるべきもので、従来の衛星通信サービスが地上約3万6000kmの静止衛星を利用するのに対し、その約65分の1の距離にある低軌道周回衛星を利用。現在、衛星通信網としては世界最大規模となっている。


AWSとのシームレスなつながり

 アマゾンのKuiperはスターリンクと何が違うのか。IoTやAIを中心に企業へ新技術導入のコンサルティングを行うメディアスケッチ代表取締役の伊本貴士氏はいう。


「アマゾンはクラウドサービスのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)を運営しており、AWSとシームレスにつながり統合して管理できるという点を強みとして打ち出すことで、差別化を図っていくと考えられます。個人利用というより企業がビジネスとして利用することを想定しているのではないでしょうか。衛星の数という点ではスターリンクも今後増やしていきますし、通信方式などに大きな違いはないので、Kuiperのほうが通信速度が劇的に早かったり、安定するということは、現在確認できる情報を見る限りはないと思われます。


 あえて違う点を挙げるとすれば、Kuiperの衛星は高度が590km、610km、630kmと三層あり、一方でスターリンクは現時点では550kmという高度しか利用していません。ただ、これによって利用者にとっては何か大きな違いが生じるわけではないでしょう。


 衛星の信頼性という面で注目される点が、太陽フレアの影響です。太陽の動きが活発化し、太陽フレアによるノイズの影響が問題視されており、スターリンクもアマゾンも赤外線レーザーなどを使って、衛星間で100Gbpsぐらいの通信を行ってデータ交換しながら、多少ノイズが発生しても大丈夫なように対策していますが、そのあたりの対策をアマゾンがどこまでやるかという点は注目されます」


IoTシステムに組み込んでいくことなどを想定か

 では、Kuiperの本格運用開始が、世界の通信衛星サービス市場に何か影響を与える可能性というのは考えられるのか。


「スターリンクが一般ユーザの利用を想定しているのに対し、アマゾンは企業がKuiperをIoTシステムに組み込んでいくことなどを想定しているのでしょう。アマゾンは明言していませんが、やはりAWSとのシームレスな連携などで企業が使うことを想定して、個人から大企業まで広く使えるように価格を3つに分けていると考えられます。まだサービス価格は発表されていませんが、最上位のプランは1Gbpsぐらいの速度を実現するとみられており、値段は高く設定されるでしょうから、大企業による大規模なIoTサービスでの利用が想定されます。


 そして基本的には屋外、それも街中ではなく辺境の地など衛星通信しか届かないような場所で使用されることが前提であり、例えばジャングルでの建設工事で車両の状況をリアルタイムに把握したり、集めたデータをAWS上で稼働するシステムで統合管理するというようなイメージを想定していると思われます。そうなると衛星アンテナが複数必要となってくるので、スターリンクと同じぐらい、もしくはそれ以下の価格を目標として考えているという情報は出ています。ですので、アマゾンとしては、スターリンクのシェアを逆転するかどうかはあまり意識しておらず、ターゲットが違うので棲み分けられると考えているのではないでしょうか」(伊本氏)


 Kuiperとスターリンクの戦略には違いがあるという。


「アマゾンは他社との連携を得意としており、NTTやスカパーJSATグループ、ボーダフォンなどとの提携を模索しているという情報も出ていますが、他社と提携した上で、多くの企業に導入してもらうという方向性を模索しているのだと推察されます。『つながるようになったので、あとは皆さん使ってください』というスターリンクとは戦略がまったく異なり、AWSと衛星通信を使えば地球上のどこに行ってもシームレスにつながり、ビッグデータを使ったIoTのシステムが使えますといったようなことを前面に打ち出してくるのではないでしょうか」(伊本氏)


(文=Business Journal編集部、協力=伊本貴士/メディアスケッチ代表取締役)



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