
テレビ界には常にトレンドがあるが、BS放送で静かに進行しているのが「おじさん芸人番組」の大増殖。YouTubeやTikTokの影響か、昨今の地上波の番組はとにかくハイテンポだが、その疲れを癒やすかのように、おじさん芸人がBSの番組表を占拠。いずれもユルい内容の番組ばかりで、地上波とは全く別の時間が流れている。
「BSは昔からマニアックな番組が多く、『おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR, NO LIFE!』(BS日テレ)、『ヒロシのぼっちキャンプ』(BS-TBS)、玉袋筋太郎の『町中華で飲ろうぜ』(同)などの老舗がありますが、ここ3〜4年で番組数が一気に増加。サンドウィッチマン伊達、バナナマン日村、博多華丸・大吉、ドランクドラゴン塚地、ケンコバ、カンニング竹山、ずん飯尾などがそれぞれニッチなテーマの番組を持っており、この春にも伊集院光、オードリー春日の番組がスタートしました」(テレビ情報サイト記者)
そうしたなか、新たなトレンドは園芸や農業がテーマの番組だ。このジャンルはかねてより『趣味の園芸』『明るい農村』などNHKの独擅場だったが、BSで次々と農業やガーデニングの番組が誕生しているのである。
「BSのおじさん芸人番組はグルメや酒に街ブラを掛け合わせたものばかりで、手詰まり感はありました。しかし、『梅沢富美男と東野幸治のまんぷく農家メシ!』(NHK BS。すでに終了)、『工藤阿須加が行く 農業始めちゃいました』(BS朝日)など、芸能人の名前を冠した農業番組が誕生すると、昨年秋には有吉弘行が『夢が咲く 有吉園芸』(BS朝日)でこのジャンルに参入し、今年は財前直見、黒谷友香の番組がスタート。一大勢力になりつつあります」(同上)
|
|
地上波でも『ザ!鉄腕!DASH!!』『満天☆青空レストラン』(日本テレビ系)『相葉マナブ』『食彩の王国』(テレビ朝日系)など、農業や農家を取り上げる番組はあるが、それらは収穫がメイン。種まき段階からじっくり紹介するのはBSの番組ならではだが、こうした“土番組”はなぜ一気に増えたのか。制作会社関係者が、まずは制作側の事情を打ち明ける。
「ロケは基本的に1カ所で、1日か2日カメラを回せば1カ月分ぐらいの撮れ高も可能。カメラはせいぜい2台で音声は1人、衣装も自前なら、単価はかなり安く抑えることができます。スポンサーが集まりやすいのもメリットです。番組の最中に流れるCMは、全農、JA、花や野菜の種、健康食品、腰痛やヒザ痛などの薬、白髪染め……といった具合。ターゲットの顔が見えやすいと、スポンサーも広告を打ちやすいですよね。
タレントにしても、たとえギャラは安くてもその収録はかなり気楽。しかも後々CMやイベントなどで起用されたり、本を出したりといった期待がありますし、こういった番組に出れば好感度は上がります。BSは低予算な分、視聴率もうるさくないので、すでに自身の黄金期を越え、知名度と実力のあるタレントが好きなことをやらせてもらえる場所として集まっている印象です」
BSは「趣味の世界に向いている」
元テレビ朝日プロデューサーの鎮目博道氏は「そもそも地上波が総合誌だとしたら、専門誌であるBSは趣味の世界に向いている」としたうえで、土いじり番組というトレンドについて「“誰しもが疲れている”という時代背景は無視できない」と指摘する。
「趣味は趣味でも、推し活だと裏切られたり、ペットは世話が大変だったり亡くなったりするなどこちらの感情が揺さぶられるなかで、土いじりは基本的に心を平穏にできる趣味。自分次第でちゃんと結果が出ますし、天候のせいなどでうまくいかなくても“仕方ない”と思えます。いわば究極の育成系ゲームなんですよね。
|
|
土いじりというと、昔はシニアが暇だからやるといったイメージがありますが、今はむしろ日頃忙しい人が “心を無にする時間”としての需要があるのは確かでしょう。それでなくても情報過多の今、みんななんとなく疲れていて、編み物や釣りなど一人で向き合える趣味が見直されています。そうしたなかで野菜や果物を育てるとなれば、家計の助けにもなりますよね」
そんな土いじりをわざわざ番組にするのも、BSだからこそなせる技だ。鎮目氏が続ける。
「種まきから土を扱っていく様子って、ぼーっと見ていて成立しますよね。これが料理番組だとそうはいきません。手順や材料など、ある程度集中してメモをとったりしながら見ることになる。能動的に情報をとらないといけないものです。一方で土いじりは、タレント側も土をいじりながら、栽培系の話はもちろん、料理や日常生活など、ゆるいトークを繰り広げられます。自然に向き合うマインドを共感しつつ、タレントのトークを楽しめる。人気になるのも頷けます」
MCに起用されるタレントたちにも共通項があるという。
「ゴリゴリ意識が高いというよりは、ある程度活躍した人が土いじりによって自分をリセットする姿を見せることで共感を呼ぶんじゃないでしょうか。有吉さんはその最たる例かなと思います」
|
|
今はYouTubeやTikTokなど、「好きなテーマの動画を見たい」ニーズが高い時代。地上波では「一体誰向けなのか」という番組が増殖しては低視聴率にあえぐループとなっているが、テーマに振り切り、手練れのタレントがMCを務めるBSこそが今どきの視聴習慣にフィットするのかもしれない。
(取材・文=木村之男)