1970年万博きっかけに普及した回転寿司、半世紀を経てお披露目された135mの巨大レーンへの想いとは?

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2025年04月25日 08:50  ORICON NEWS

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くら寿司 大阪・関西万博店(画像提供:くら寿司株式会社)
 1970年開催の万博をきっかけに普及し、今や日本を代表する食文化の1つになった回転寿司。4月13日に開幕した大阪・関西万博には、大阪に本拠地を構える大手回転寿司チェーンのくら寿司が出店。世界70の国・地域の各国料理のほか、"未来の寿司ネタ"など万博特別メニューがくら寿司史上最長の回転レーンに乗せて提供される。日本が誇るユニークな飲食業態である回転寿司を世界に、そして未来へと発信する想いを同社に聞いた。

【写真】くら寿司万博店、世界70の国・地域のメニューや店内の様子など

■約500もの試作品をすべてボツに…寿司ではなく各国の代表料理へと方向転換

 国内約550店舗のほか、アメリカ、台湾、中国本土で展開する大手回転寿司チェーン・くら寿司。その「大阪・関西万博店」には135メートルの巨大な回転レーンが設置。万博参加国の中から、70の国・地域の代表料理が流れてくる万博特別メニューに注目が集まっている。

 生春巻き(ベトナム)や月餅(中国)など日本でもお馴染みの各国料理のほか、シャルティバルシチャイ(リトアニア共和国)、ココンダ(フィジー共和国)、ペスカド・コン・ココ(ドミニカ共和国)など、名前を聞いただけでは想像がつかないような料理も満載。それゆえ、開発にはかなりの苦労があったようだ。

「出店を決めた当初は、参加国の代表料理を表現したお寿司を万博特別メニューとして企画していました。シャリの上のネタやトッピングで各国を表現するイメージで、実際に483商品の試作もしていたんです。ところが味は美味しいものの、シャリとの相性を優先すると、本場らしさが損なわれる。回転寿司ならではの"選ぶ楽しさ"という点で、よりインパクトのある商品を提供したいという結論となり、お寿司での提供を一旦白紙に戻しました。」(くら寿司 広報部・小坂博之さん/以下同)

 そこから、お寿司ではなく、サイドメニューとして「本場の味にこだわった各国の代表料理の開発」へと方向転換したという。

「各国に複数の代表料理がある中、メニューとして選定する上で最も重視したのが回転レーンで寿司カバーに入れて提供できること、また冷めても美味しく召し上がっていただける商品であることで、熱々だからこそ美味しい料理などは対象外としました。またどの店舗でも安定した美味しさを提供できることも回転寿司チェーンの使命ですので、調理が複雑すぎないことも選定ポイントの1つでした」

 今回、世界各国のメニューが70種類用意されているが、商品開発の時点では開発メンバーが食べたことも見たこともない料理が約50種類あり、半分以上は未体験の味だったという。中華やイタリアンであれば、日本国内でもさまざまな場所で食べることができるが、未体験の味を完成させるため、身近ではない国の料理にはどんなものがあるのか調査から始め、『地球の歩き方』や各国のレシピ本などを読み漁った。本場の味の再現にこだわるべく、商品開発には国内にある約25カ国の大使館にも協力を仰いだという。

「大使館のキッチンでシェフに直々に教えて頂いた、コロンビア共和国の『パパクリオージャ オガオソース』など、より本場の味に近づけるため、大使をはじめ職員の皆様にもご試食いただき、アドバイスもいただきました。このように各国の方々と密にコミュニケーションを取る中で、日本に駐在されている大使の方でも回転寿司をご存知ない方が多いことも実感しました。くら寿司にお連れしたところ、『こんなに楽しくて新鮮な飲食体験は初めてだ!』と驚いていた方もいたほどです」

■独自の食文化を形成した“お寿司”に固執しない、守り続けるのは「回転寿司スタイル」

 今やすっかり日本人の食文化に定着した回転寿司。1970年開催の大阪万博で紹介されるやいなや、それまで高級で敷居の高いイメージの強かった寿司を手軽かつリーズナブルに味わえることや、提供スタイルのユニークさからたちまち日本全国に普及した。

「とはいえ、当時の回転寿司のメインターゲットはサラリーマンなどのおひとりさまでした。回転レーンを取り囲むように座席が設けられた店舗設計が、ファミリーやグループのお客さまにはなかなかくつろぎの空間を提供できなかったのです。我々は、もっと多くの人に回転寿司を楽しんでもらいたい。そう考えて、ファミリーレストランにあるようなボックス席を導入しました」

 現在では一般的となっているボックス席を、回転寿司チェーンでいち早く導入したのがくら寿司だった。また、当時回転寿司の商品では考えられなかったラーメンの提供など、サイドメニューの充実を図ったのも、より幅広い層のお客様にご来店いただける店舗を目指したからだという。

「グループでの来店を想定すると、中には生のお魚が苦手な方がいらっしゃるかもしれません。しかし、そもそも回転寿司の良さは、個々の好きなメニューを選べること。だったらお寿司に固執する必要はないという考えから、サイドメニューを多様化していきました」

 こうした時代に合わせたアップデートの一方で、くら寿司の特筆すべき点は”回転寿司"スタイルにこだわり続けていること。

「今や大手の回転寿司チェーンで、回転レーンに乗って流れてくる商品から自由にピックアップできる、文字通りの回転寿司の体験ができるのはくら寿司だけです。多くのチェーンがコロナなどを経て、オーダー注文オンリーに切り替える中、くら寿司では飛沫感染を防ぎつつ、鮮度もしっかり守る抗菌寿司カバー「鮮度くん」が導入されていたことで、今も回転寿司のスタイルを守り続けることが出来ています。

私たちは、回転レーンとオーダー注文をウィンドウショッピングとネットショッピングに例えたりもするのですが、やはり自分で見て選ぶウィンドウショッピング=回転レーンには唯一無二の選ぶ楽しさがあると思います」

 もちろん、くら寿司でもオーダー注文はできる。しかし知らなかったメニューとの出会いや、次に何が流れてくるかというワクワク感は、日本が世界に誇る飲食業態である回転寿司ならではだ。あらゆる回転寿司チェーンの中で、世界から多く人が集まる万博にくら寿司が出店する意味は大きいと言えるだろう。

■“海の厄介者”を寿司ネタに…低利用魚を活用する魚食文化の未来

 くら寿司では各国料理のほかにも、"未来の寿司ネタ"とも言うべき万博特別メニューを提供する。その1つがキャベツニザダイだ。ニザダイは、海藻が主食であることから身に独特のにおいがあり、市場であまり取り引きされない低利用魚。磯焼けの原因にもなるとして駆除対象にもなっている海の厄介者だ。

「ニザダイが敬遠されていた理由がニオイでした。そこで話題となっていたウニのキャベツ養殖をヒントに、弊社の仕入れ担当者がキャベツを与えてみたところ、ニオイが軽減できたばかりか、ニザダイ本来の良質な脂のりや身質が際立ち、驚くほど美味しくなったのです」

 そもそも、なぜくら寿司が養殖に乗り出したのか。そこには安全で美味しく、そしてリーズナブルなメニューを持続可能的に提供する、回転寿司チェーンとしての使命感があった。

「近年、日本独自の食文化だった寿司が世界中で人気となり、それに伴いマグロやサーモンといった人気の魚種の仕入れ価格が値上がりしています。また各国が魚を乱獲することにより、海洋資源の枯渇や生態系の破壊といった問題も懸念されています。弊社は、2010年の天然魚プロジェクトをはじめ、2021年には、養殖業を基盤とする100%子会社「KURAおさかファーム」を設立し、日本で初めて国際基準を満たしたオーガニック水産物となるオーガニックはまちを生産するなど、未来につながる漁業創生の取り組みを推進しています。ニザダイをはじめとする国産の低利用魚の活用や、高付加価値な食材の開発などを通して、環境保全、リーズナブルでおいしいメニューの提供、そして漁業者のみなさんとの共存共栄という"三方良し"を目指しています」

 なおキャベツニザダイはくら寿司全店舗への安定した供給量の課題からレギュラー商品としては提供していないが、未来の回転寿司では定番メニューになるかもしれない。万博会場に足を運んだ際には、ぜひ魚食文化の未来を味わってみてほしい。

(取材・文/児玉澄子)

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