アセットマネジメントOne代表取締役社長の杉原規之氏(写真)に今後の事業展望について聞いた。 アセットマネジメントOneは2025年3月末に、リタイアメントビジネスの分野で米国において実績のあるティー・ロウ・プライス・ジャパンと協働することを発表した。第一弾として確定拠出年金(DC)の代表的な運用商品であるターゲット・イヤーファンドを共同で提供する。ティー・ロウ・プライスはアクティブ型のターゲット・イヤーファンドの受託残高が世界最大の実績がある。この提携も含め、アセットマネジメントOneはリタイアメントビジネスへの取組みを強化している。アセットマネジメントOne代表取締役社長の杉原規之氏(写真)に今後の事業展望について聞いた。
――ティー・ロウ・プライスと協働してリタイアメントビジネスを強化していくという発表がありました。第一弾としてターゲット・イヤーファンドを共同で開発して提供しますが、ティー・ロウ・プライスとの連携はどこまで拡大する見通しですか?
リタイアメントビジネスは運用会社にとって非常に重要なビジネスであると思っています。近年の米国の調査によると、米国民の3分の2の方が「初めて投資信託を購入したのは企業型DC(確定拠出年金)である401kがきっかけだった」というのです。米国では1980年代に401kが始まって、それと並行してIRA(個人退職勘定)の制度が整備されていったことで長期投資が根付いたといわれます。その当時から40年が経過して401kが多くの国民にとって投資の入り口として機能しています。米国に20年遅れてスタートした日本のDC制度(2001年創設)も、遠からず米国のような状況になっていくのではないかと考えています。
ティー・ロウ・プライス社はターゲット・イヤーファンドの第一人者のような立場にある会社です。その会社と日本の投資家の方々に向けてターゲット・イヤーファンドを協働し提供することによって、国内では未だに利用者が少ないターゲット・イヤーファンドの魅力について、改めて情報提供等を通じて普及に努めたいと考えています。このターゲット・イヤーファンドの販売はみずほ銀行と第一生命保険が担当します。米国で401kのデフォルト商品として多くの投資家が利用している商品をより多くの方々に使っていただけるように届けたいと思っています。
ティー・ロウ・プライス社との協働について、次にどんな取組みをするかは現時点では具体的に決まっておりません。ただ、ティー・ロウ・プライス社は米国において、401kの運営管理機関としても230万人の加入者の運用情報を管理しているという実績があり、さまざまな知見を蓄積されています。第一歩としてターゲット・イヤーファンドで協働し、今後も更に対話を深めていくことで次への展開も見えてくると思います。
――運用会社として商品提供以外の分野でもリタイアメントビジネスに踏み込む考えですか?
米国では運用会社が401kの運営管理機関の業務や投資アドバイスなどもできるような制度になっていますが、日本では運用会社は商品の提供にとどまり、運営管理機関、記録管理機関など複数の機関が関わって制度提供を行う制度になっています。私どもの役割は、質の高い商品を提供し、しっかり運用していくことが重要ですので、そこにしっかり軸足を置いてやっていきます。ただ、運用情報の提供の仕方などの分野において私どもにできることはまだ多くあると思います。そこは、運営管理機関業務を行っているみずほ銀行、第一生命保険など関係機関と協力して進めていきます。総合金融グループとしてグループ力が生きる分野ですので、ここは私どもの使命の一つと思っています。
ティー・ロウ・プライス社と一緒に取り組むターゲット・イヤーファンドは、米国では適格デフォルト商品として多くの加入者に使われていて、長期の資産形成に不可欠な商品として認められています。日本で普及が進んでいないのは、商品の紹介や運用情報の提供の仕方などに何か足りないところがあったのかもしれません。改めて、情報提供に努めターゲット・イヤーファンドを多くの投資家のみなさまに一選択肢として知っていただきたいと思っています。
――リタイアメントビジネスにおける当面の目標は?
米国では年金資産の運用は単品から組み合わせになり、汎用商品からカスタマイズされた商品にシフトされつつあります。加入者ひとりひとりのライフスタイルやゴールイメージに合わせて最適なポートフォリオを組んで提供するのがDC提供者の努めになってきています。我が国でも、そういったパーソナライズ化を可能とするサービスの提供を競っていくことになるでしょう。
日本も米国と同じようにDCを通じた長期の資産形成がこれから徐々に根付いていくことになるかと思います。米国では事業主が従業員に対して断続的な投資教育を実施することに加えて、公的年金やその他の資産も含めた一元管理の仕組みを提供することが当たり前になっています。いずれ日本でも、資産の一元管理が当たり前の時代がやってくると思います。そのような未来を見据え、運営管理機関、記録管理機関、運用会社などが一体となって事業主サポートや加入者サポートを行う体制に整えていくことが重要だと考えています。
現在、DB(確定給付企業年金)の分野では、OCIO(アウトソースト・チーフ・インベストメント・オフィサー)という考え方が浸透してきています。年金資産の運用方針の策定や投資実行、運用のモニタリングなどを外部の専門家に委託するサービスです。これと同じような発想が将来的には個人のDCにまで広がる可能性があります。その時に、運用ソリューションの提供者として、資産配分を決定するツールやソリューションの提供、また、ポートフォリオを作るためのアセットクラスごとの運用商品などを提供していきたいと考えています。そして、アセットマネジメントOneがDB、DCを含めたリタイアメントビジネスの分野で欠かせない運用会社として期待される役割を果たし、みなさまに評価いただける存在になっていきたいと考えています。
――国策として資産運用立国の実現をめざしていますが、その実現のために貴社の取り組みは?
運用会社は、投資家と投資先企業をつなぐ重要な立ち位置に存在しています。資産運用立国実現に向けて当社はインベストメントチェーンにおける運用会社としての役割を果たし、我が国の経済成長を「投資の力」でつなげていきたいと思っています。
たとえば、良質な長期投資機会として長期投資商品のラインナップを拡充して投資家に届けること。リタイアメントビジネスやポートフォリオ・ソリューションを提供していくこと。そして、資産運用の情報発信を継続的に行っていくことなど、投資家への貢献に向けた取組みの一方で、投資先企業に対しては、リサーチ力の強化やスチュワードシップ活動を通じて企業価値向上の後押しをすることで結果として得られるリターンがあり、投資先企業から得たリターンは、運用商品を通じて投資家の方々に還元されます。
投資家のみなさまと投資先企業をつなぐ、言わばドライバーのような役割を持つ我々運用会社が、広義の「運用力」を強化することにより、インベストメントチェーン全体の拡大をけん引することが可能になることでしょう。運用に経営資源を集中し、広義の「運用力」を強化することが資産運用立国実現に向けた貢献につながることを見据え、「投資の力で未来をはぐくむ」社会の実現に向けて全力で取組んでいきたいと思っています。