『あんぱん』第20回 作劇のアラが一気に噴出した第4週、あんぱんが「無神経」の象徴に

0

2025年04月25日 17:01  サイゾーオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーオンライン

今田美桜(写真:サイゾー)

 蘭子(河合優実)が艶やかなもんで、登場すると画面がパッと映えるんですよね。今日は冒頭から笑顔で駆けてくる蘭子さん、気持ちのいいスタートだなと思ったんです。

『あんぱん』小手先の上手さを楽しむべき?

 そしたらその蘭子が「学費も免除やし、寮に入ってくれたら云々」などと言い出す。まあ説明セリフなわけですが、そうなの? と思っちゃうよねえ。

 寮に入るだなんて初めて聞いたし、学費免除っていうことは特待生? 学費が免除になる制度があることは語られていたけど、あのバカだったのぶ(今田美桜)がほかの受験生を軒並みゴボウ抜きにして学費免除の特待生を勝ち取ったということ? そんなことある?

 と思って後で調べたら、戦前の女子師範学校は学費無料の全寮制なんだそうですね。そのへんは受験が決まったときにナレーションでもいいから説明しといてくれればよかったのに。制度として無料だったら「免除」じゃないじゃん。

 加えて、お友達のうさ子(志田彩良)がのぶに黙って師範学校を受けていて、合格していたという後出しもひどいもんです。「のぶに感化された」ってうさ子は言うけど、嫁入りモチベ高めの女の子が、釜じい(吉田鋼太郎)いわく「嫁の貰い手がなくなる」という先生という進路を選ぶ動機としてあまりに弱すぎる。「感化された」って。「たまるかー!」じゃないんだよ。

 そんで当時の入試の合格発表って今みたいにインターネッツでパソコンをクリック、ブラウザ更新とかじゃないですよねえ。この日この時間に掲示板で発表します、というものだよねえ。当然、その時間にのぶとうさ子はあの掲示板の前にいたんだよねえ。うさ子はのぶがそこにいることを知ってるんだよねえ。のぶが掲示板を見て喜ぶ姿を見たはずだよねえ。

 そのときに駆け寄れよ。掲示板の前で抱き合えよ。

うさ「のぶちゃん、うちも受けてた!」
のぶ「たまるかー!」
うさ「そんで受かってた!」
のぶ「たたたたまるかー!」

 ならギリ通らんでもないけど、当日シカトして帰って、後日うれしそうに報告に来るというのはお話として破綻していますよ。

 だいたいさ、のぶが先生になるという進路だって、こっちは無理くり飲み込んでいるわけです。

 急にパン食い競争マン(カッちゃん中尉な)が現れて、急に朝田家にラジオが空から降ってきて、ラジオ体操してたら「先生になりたい!(ピコーン!)」というわけのわからないものだったわけで、まあいいよ、のぶちゃんが小っちゃいとき可愛かったことは知っているから、のぶちゃんがそうしたいならそうすればいいよと思っていたけど、その夢のスタートとなる師範学校での生活への舞台仕立てがこうもメタメタですと、どうにも「とはいえ来週も楽しみです」とは言えませんよ。

 というわけでNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』第20回、振り返りましょう。

あんぱんが「無神経」の象徴に

 首尾よく合格を勝ち得たのぶちゃん、嵩(北村匠海)が受験に落ちてお通夜状態の柳井家にヤムおじ(阿部サダヲ)を連れ立って、あんぱんを届けに来ました。どうも宅配の注文が入ったわけではなく、勝手に来たらしい。

「うちの家族は、うれしいときもしんどいときも、あんぱん食べるがです」

 知らねーよ。おめーんとこの家族がなんぼのもんだよ。柳井の家にはチキンソテーだってライスカレーだって尾頭付きの立派な鯛だって完璧に調理してくれるスーパーシェフ・おしんがいるんだよ。好きなもん食わせろよ。

 幼少期から、どんな展開もあんぱんに結び付ける作劇を無神経だと薄々感じてきたわけですが、ここにきてあんぱんそのものが無神経の象徴になってしまっている。それを食った日に、嵩は試験に落ちたんだぜ。何が「合格」だよ、ウソじゃねーか。

 そう思ってたら美しき登美子(松嶋菜々子)の筋違いな八つ当たりが発動。流れで、登美子は柳井の家を出ていくことになりました。

 なんで? どこ行くの?

「1年なんて、待てないわ」

 なんで?

「2人ともこのお腹を痛めて産んだ子なのにねえ」

 何が言いたい?

 そもそもおまえ、何しに来たんだ? こっちも顔面が美しすぎて画面が映えるから許容してきましたけど、この人が嵩に与えたのは受験失敗による挫折感と戸籍の取り寄せによる孤独の再確認だけでした。

 嵩が受験に落ちたから、また捨ててどこかへ行ってしまう。こんなの、千代子(戸田菜穂)の立場からしたら発狂するほどブチ切れてもおかしくないですよ。馬乗りになって殴りつけるべきですよ。登美子はガードポジションから三角締めを狙いますよ。そういうシーンが見たかった。いや、せめて。

またそれですかぁ

 また「なんのために生きてる」からの、また線路。ニャアおじ(竹野内豊)の狼狽ぶりが見られたのは眼福ではありましたけれども、嵩にも共感しづらいところでしたねえ。

「もがけ」と言われて心を打たれた様子がありましたけど、受験に落ちたらすぐさま1年浪人して再受験を目指すと決定している。本当は医者になりたいわけじゃないのに、早々にそう決断している。もがけ、もがけよ嵩。こんなときこそ絵を描きたいという衝動と対峙しなさいよ。ママのために受験する、ママがいなくなったから線路で寝る、ガキかよ。せっかくの「美しい夜明けぜよ」のシーンも、「何時に寝始めて何時間寝てたんだ」という疑問に打ち消されてしまいますよ。

 なんかこう、一気に出た感じがしますね。今までなんとかかんとか誤魔化してきた作劇の雑さ、強引さが、ここに至って一気に押し寄せてきた。作家のやりたいことと、史実と、アンパンマンからの引用と、そういう要素が融合しないまま個別に、順繰りに画面に現れては打ち消されていった。

 イヤだなぁ、こんな原稿書く毎日に戻りたくないなぁ。なんとか持ち直してくれ、頼むよ。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

どらまっ子AKIちゃん朝ドラ『あんぱん』全話レビュー

『おむすび』最終回もダメダメ

    ニュース設定