写真今年の冬ドラマでは、新しい学園ドラマを提示した『御上先生』(TBS系)が10.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/平均世帯視聴率)で全体トップの視聴率をマーク。
次いで、人気シリーズ『相棒season23』(テレビ朝日系)、消防局の通信指令センターを舞台にした『119 エマージェンシーコール』(フジ系)といった作品が続いた。
また、SNSではバカリズムが脚本を手掛けたSF日常コメディ『ホットスポット』(日本テレビ系)が話題になったほか、社会的弱者である外国人居住者たちの生きざまを深堀りした社会派作品『東京サラダボウル』(NHK)も大きな評価を得た。とはいえ、全体としてはどの作品も低視聴率に終わってしまった。
そんななか、4月からスタートした春ドラマでヒット作は生まれるのだろうか? ドラマに関わる業界人たちが注目している作品、逆に見たくないと思う作品について率直な意見を聞いた。
◆ハツラツとした主人公と個性豊かなキャストが光る『あんぱん』
まずは、キー局でドラマ制作に関わり、現在はフリーランスのプロデューサーを務める50代の男性・A氏に見たい作品を聞いた。
「毎朝楽しく見ているのは連続テレビ小説『あんぱん』(NHK、月曜〜金曜、午前8時〜)ですね。
漫画家のやなせたかしさんがモデルの北村匠海さん演じる柳井嵩と今田美桜さん演じる彼の妻となる朝田のぶを中心とした物語ですが、脚本が秀逸で各キャラクターの個性も際立っていて、これぞ“朝ドラ”といった仕上がり。今後が気になってしょうがないです。
まず、男勝りでハツラツとしたのぶを演じる今田美桜さんの爽快な笑顔とまっすぐなキャラクターはハマり役でしょう。漫画を描くことが好きな嵩を演じる北村匠海さんの朴訥としながらも芯のある役柄も非常にうまい。
序盤で、病死した父・結太郎のことを受け入れられないのぶに、嵩が自身の絵を見せて彼女の悲しみを解放させるシーンは涙なしでは見られませんでした。
また、“ジャムおじさん”にそっくりな阿部サダヲさん演じる屋村や“バタコさん”を彷彿とさせる江口のりこさん演じるのぶの母・羽多子など、アンパンマンのキャラクターをオマージュした登場人物も面白い。
各々の個性が光っていて愛着が沸くように作られているのも見事。さすが数多くのヒット作を作ってきた中園ミホさんの脚本だなと感心しています」
現状では視聴率は15%前後で大ヒットとなってはいないが、良質な作品だけに週を重ねていけば、歴史に残る朝ドラとして評価されていくだろう。
◆心温まる新しい月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』
また、A氏は民放ドラマでも注目している作品も挙げてくれた。
「ベテラン脚本家・岡田恵和さんが手掛ける『続・続・最後から二番目の恋』(フジ系、月曜午後9時〜)です。前作から11年が経って、小泉今日子さん演じる千明も中井貴一さん演じる和平も“アラ還”になったという設定。
それでも二人の距離感やクスッとくる絶妙な掛け合いは健在。決して大きな出来事は起こりませんが、心温まるストーリーに引き込まれています。月9でありながら、ラブストーリーというより“素敵な人生”を垣間見ている気持ちになれますね」
A氏のような50代前後の視聴者に刺さっているかと思ったが、SNSでは若い視聴者からの熱狂的な感想も目立っており、この先視聴率を伸ばしていく可能性がありそうだ。
◆ダークヒーローを演じる阿部寛に食傷ぎみな『キャスター』
その一方で、A氏が「見たくない」と断言する春ドラマも教えてくれた。
「初回を見ましたが、日曜劇場『キャスター』(TBS系、日曜午後9時〜)は面白く感じませんでした。
報道番組を舞台とした、阿部寛さん演じる型破りなキャスター・進藤壮一が社会の闇を暴いていくといったドラマですが、阿部さん演じる進藤が政治家の不正を暴くために不法侵入や無許可の撮影をするシーンがあまりにもリアリティーがなさすぎると呆れてしまいました。
昨今のテレビ局や政治などの問題にフィーチャーする攻めたドラマにしようとしているはずが、詰めが甘いと言わざるを得ない。
また、テンポの良さは感じましたが、次々に展開が変わっていくのでストーリーを飲み込むのに手いっぱい。阿部さんの『ドラゴン桜』の桜木を思わせるダークヒーロー的な役回りも食傷ぎみですね。
第1話の平均世帯視聴率は14.2%で、前クール『御上先生』の初回を超える数字となっていますが、今後は落ちていくのでは……」
豪華キャストをそろえて満を持して放送された日曜劇場だが、『御上先生』のように、問題を丁寧に解決していく作品が欲されているのかもしれない。
◆広瀬アリスのコメディエンヌっぷりが炸裂『なんで私が神説教』
次に、配信ドラマに関わる30代女性プロデューサー・B氏にも赤裸々な感想をもらった。
「個人的に刺さっているのは、学園ドラマ『なんで私が神説教』(日本テレビ系、土曜午後9時〜)です。
やや設定に強引さがあるところや、いじめとイジリといったベタなエピソードは気になりましたが、広瀬アリスさんの説教シーンの痛快さに心を奪われました。
マンガやアニメのように多用されるモノローグ(心の声)も最初は無駄に思えましたが、広瀬さんの顔芸も相まって、くどくなりすぎず絶妙なアクセントになっている。岡崎紗絵さん、野呂佳代さん、伊藤淳史さんといった脇役たちもイイ味を出していますよね」
近年、学園ドラマはハードルが上がりがちだが、広瀬アリスのコメディエンヌっぷりが炸裂すれば、その壁も超えるはずだ。
◆リアルすぎる子育ての現実と演出が不調和な『対岸の家事』
B氏は見たくない作品も教えてくれた。
「今後見ないと思うのは『対岸の家事 〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系、火曜午後10時〜)ですね。
一人娘の育児と家事に奮闘する、多部未華子さん演じる専業主婦・詩穂と周囲の家族たちの交流を描くホームドラマですが、専業主婦やワーキングママの子育てや家事のリアルを切実に描きすぎていて、しんどくなってしまいました。
もちろん、こういうドラマはリアリティーが肝だとは思いますが、もう少しドラマ的な感動シーンや劇的な展開を入れないと、火曜10時枠には合わないかなと……。
多部未華子さん、江口のりこさんの演技が達者なだけに、よりそう感じるのかもしれません。その割には変わった演出で無理やり楽しませようとしているところも気になりました」
ハッピーな気持ちになりたい視聴者が多いTBS・火曜10時枠にはややテーマが重すぎたか……。今後の展開がどうなるか気になるところだ。
◆ブロマンスとグルメが刺さる『ミッドナイト屋台〜ラ・ボンノォ〜』
また、ラブストーリーを数多く手掛ける20代の女性脚本家・C氏にも見たいドラマ、見たくないドラマを聞いた。
「見ていて楽しい作品は、『WEST.』神山智洋さんと『Travis Japan』中村海人さんが出演する『ミッドナイト屋台〜ラ・ボンノォ〜』(東海テレビ・フジテレビ系、土曜午後11時40分〜)です。
神山智洋さん演じるフレンチシェフ・遠海翔太と中村海人さん演じる副住職・方丈輝元がお寺で屋台を切り盛りするグルメドラマですが、兄弟のような会話ややり取りがどれも面白く、“ブロマンス”を感じる良作の深夜ドラマです。
作る料理も卵焼きやチャーハン、ラーメンと普遍的なモノが多く、マネして作りたいと思わせるありそうでなかったグルメドラマになると思っています」
◆“複数恋愛”が受け付けない『彼女がそれも愛と呼ぶなら』
そんなC氏が「見たくない」と思う春ドラマは何なのか?
「『彼女がそれも愛と呼ぶなら』(読売テレビ・日本テレビ系、木曜午後11時59分〜)はもう見なくてよいかなと思っています。
栗山千明さん演じるシングルマザーの伊麻が“複数恋愛”という新しい愛の形に巻き込まれていくというストーリーですが、春ドラマは同じような作品が多い印象で、どれも私は受け入れることができませんでした……。
特に同作は伊麻をはじめ、どのキャラクターにも葛藤が少なく、感情移入できるところがなかった。カメラワークにこだわりは感じましたが見直すことはないかな」
◆とりあえず視聴するのがオススメ
ここまで業界関係者たちが序盤話や初回時点で見たい、見たくないと判断した春ドラマを紹介してきた。
しかし、近年のドラマは中盤からガラリと展開が変わり、ストーリーが面白くなるように作りこまれている作品も多く、現時点での意見を鵜吞みにするのは良くないだろう。
紹介した作品はもちろん、他のドラマも毛嫌いせずにとりあえずは視聴して見てみることをお勧めする。
ライター/木田トウセイ
【木田トウセイ】
テレビドラマとお笑い、野球をこよなく愛するアラサーライター。