加藤シゲアキ、映画監督業でもクリエイティブな才能を発揮 後輩・正門良規をキャスティングした理由とは?

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2025年04月27日 09:10  クランクイン!

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加藤シゲアキ  クランクイン! 写真:松林満美
 NEWSとしての活動はもちろん、ソロとしてもドラマ『あきない世傳 金と銀2』や舞台『エドモン〜「シラノ・ド・ベルジュラック」を書いた男〜』に出演、さらには2012年から開始した作家活動は二度直木賞候補になるなど、幅広いジャンルでその才能を発揮する加藤シゲアキ。この春、2作目の映画監督作『SUNA』が公開される。本作について話を聞くと、映画監督業の面白さや、共にダブル主演を務めたAぇ! group・正門良規の魅力などをたっぷりと語ってくれた。

【写真】多彩な活動で魅了する加藤シゲアキ、撮りおろしショット

◆15分の短編をアートハウス的なものに逃げずエンタメ作品に

 加藤が監督とダブル主演を務めた『SUNA』は、メジャーとインディーズを超えた多彩なクリエイターによる短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season7』の中の1作品。愛知県・東海市の全面協力のもと、砂に起因した奇妙な事件を追う二人の刑事の姿を描くホラー作品だ。

 砂によって窒息死するという奇妙な事件が多発する東海市。人の身体が砂に埋め尽くされるという死因に、本当に人の仕業なのかと怪しむ刑事の狭川(加藤)と遠山(正門)。そんな中、遠山の家に砂が落ちている現象も発生。骸骨や炎に包まれる遠山など不穏な映像が畳み掛けられる中、「あいつら、俺の砂を盗んだんだよ」という謎の男の声。その後も次々に起こる「砂」による窒息死。これは呪いなのか、はたまた誰かの仕業なのか―。

――監督オファーを聞かれた時のお気持ちは?

加藤:驚きました。作家デビュー10周年のときにショートフィルム(『渋谷と1と0と』)を1本撮って、その時もすごく楽しさはありつつ難しさも実感し、いつかまた機会があればこういうこともあるかな?くらいの気持ちでいました。

『MIRRORLIAR FILMS』というプロジェクト自体はプロデューサーに共通の友人がいたので面白い試みだなとひとごとのように聞いていたんですけど、まさか自分のところに話が来るとは思っておらず。1度撮った経験があるので余計に、監督という立場は簡単なことではないと思っていましたし、アイデアが浮かぶかどうか、本当に自分がやりたいかどうか、少し考えさせてほしいとお伝えしたんですけど、結果的にやっていました(笑)。

――『MIRRORLIAR FILMS』というプロジェクトの印象はいかがでしょう。

加藤:官民一体で地域と協力して物を作るという試み自体、映画ってなかなかロケ地を借りることが難しかったりもしますし、そういった部分で地元の方の協力はあればあるほどスムーズに撮影に臨めるだろうと思いました。

また『MIRRORLIAR FILMS』にはさまざまなジャンルの方が映画に参加されるので、そういった部分でもすごく面白いチャレンジだなと思っていました。僕自身アイドルをやりつつ小説を書き始めた時に、文芸界が僕に対して偏見を持たずに歓迎してくれた経験があるので、こういった試みは支持しなくてはいけないと感じましたし、別のジャンルから新しい風を求めるという姿勢は素晴らしいなと思いました。

同時に生半可なものは作れないということは経験して知っているので、これをやって期待に応えられるかどうか、自分自身に対して厳しい視点で向き合わなきゃいけないという思いもありました。

――そんな中、監督とダブル主演を務められた『SUNA』ですが、発想の起点を教えてください。

加藤:ほかの皆さんがどんな作品を作られるか分からなかったですし、ホラーみたいなオカルトスリラーとかそういうものを15分でまっとうに作ろう、アートハウスなほうにあまり逃げないでエンタメ作品を作ろうと考えました。

砂のホラーが面白いんじゃないかと思った理由は、自然物でもあっても、あるべきところじゃない場所にあるとすごく気味が悪い。砂ってどこにでもあるはずなのに、家の中にあったら嫌だし、口の中にあったら当然嫌(笑)。そんなところが面白いなと思ったことがきっかけです。砂かけばばあって本当にいたら嫌だなとか、なんで砂をかけるんだろう?とか思ったり(笑)。小説を書くときもそうなんですけど、なんでだろう?と当たり前を疑ったりするところから始まることが多いです。

刑事2人の物語にしたのも、僕がバディものに興味があったというか。15分でしかできないことをやろうというのが普通なんですけど、僕の中では2時間やるジャンルムービーをトレースした15分にしたかった。15分の短編を作っていくと、アートハウス的になる。それはそれで楽しいんですけど、超エンタメの15分ってできないのかな?と。いろんなパターンを考えたんですけど、ジャンルムービーとしてのバディものがいいなという結論になりました。

◆2作目の監督業 現場での時間配分に難しさ


――東海市のさまざまなロケーションから影響を受けた部分もありますか?

加藤:すごくありますね。シナハン、ロケハン、撮影と3回伺ったのですが、シナハンに行った時点で、第一候補で砂のホラーというイメージがあったんです。でも東海市には砂浜がなくて。東海市は鉄の町なので鉄に振り切って違うアプローチを考えたほうがいいか、でもプロモーションビデオにしたいわけではないからどうしようかなと考えたのですが、ロケ地にもなった生コン工場が協力的だったことでいけるかなと。ロケ地によって撮影が広がっていきましたし、ロケ地に当て書きができたことでなんとなく勝算が見えてきましたね。

――2度目の監督業ですが、どんなところに難しさがありましたか?

加藤:現場での難しさは時間配分ですね。いろいろ思いついてしまって、助監督さんから「加藤さんは思いついちゃうから」と言われたのですが、でも思いついたアイデアが功を奏したのでこれは作り手としてはしょうがない(笑)。思いついたらやらざるを得ないというのがあったので、そのあたりはスタッフに迷惑をかけちゃったなと思うんですけど、それでも明確に下準備をしていたので、柔軟にできたかなと思います。

――前回と違った部分はどこでしょう。

加藤:1作目を撮ったときは、予算削減や自分で芝居を付けられるという時間短縮の観点から一人二役をやったんです。でもそれでは映画を撮ったとは言えないという思いがあって。1作目は絵作りやスタッフとのやり取りに重きをおいていたのですが、2作目がもしあるのだったら、ちゃんと芝居を作ろうと。いろんなキャストに芝居を付けるということ、アクションを付けるということを僕の中でミッションとして臨みました。

あとは、スタッフ、キャストみんなで一つの作品を作る。それは、小説の執筆活動では経験できないことなので、こんなにアプローチが違うんだと新たに発見したことですね。

◆正門良規の“力強さと柔らかさのバランス”が魅力


――正門さんをキャスティングした理由を教えてください。

加藤:短編だとどうしてもワンシチュエーションになりがちなのですが、そういう当たり前の形にしたくなかったんです。そうするとスケジュールがパンパンになる。そうなった時に、キャストとコミュニケーションを取る時間も限られるし、1から関係を構築する時間はないかもしれない。僕を信用してくれてる人じゃないと難しいかもしれないというのがあって、正門は僕の初めて書いた戯曲に出てくれているので、僕の芝居を1回やっているわけですよね。僕の文体を一度体に入れている人だからスムーズにできるだろうという思いがありました。もちろん彼自身に興味もありましたし、一緒にお芝居をしたことはなかったので面白いかなと思いオファーしました。

――正門さんのどんなところに魅力を感じますか?

加藤:もともと力強いやつだなと思っていたんですよ。声や体つきとか力強いんだけど、柔らかさもちょっとあるという独特のバランスがいいなと思いました。普通の人も演じられるし、文系にもいければ体育会的なキャラクターにもいける。そうした器用さが弱みになるケースもあると思うんですけど、彼の場合は独特のバランスで、今それが成熟してきているなという印象があります。

15分の作品だと短い中で変化を表現していかないといけないので、難しいのって役者だと思うんですよね。でも彼は最初から役をつかんでいて、自分が表現すべきアプローチが明確だったので助かりました。

――前回、加藤さんの戯曲『染、色』に出演されていたころからの進化は感じられましたか?

加藤:戯曲に出てくれた時は、役どころもあってか窮屈そうな感じだったんです。もっとのびのびやってほしいなと思うことがあって、そういう話をしたんですよね。でも今回間近で芝居を見て、柔軟さもどんどん習得していました。

今回はホラー的な要素が多いので、顔芸というかどれくらい表現していいか難しかったと思うんですよ。でも、もっとやってくれと言ったときにちゃんとやってくれるんです。どんどんどんどん指示したとおりにやってくれるというのは運動神経がいいんだと思いますし、今後いろいろな監督から愛される役者になっていくんじゃないかなと感じましたね。

――NEWSとしてのアイドル活動、ソロ活動、小説などの創作活動、そして今回の映画監督挑戦と、多岐にわたるジャンルに精力的に臨まれている加藤さんですが、活動を続ける中で上手くいかず落ち込むことはありますか?

加藤:上手くいかないなとか、もっとああしておけばよかったなと落ち込むことはやっぱりあるんですけど、解決できるものだったらなんとかしようとしますが、終わったことや上手くできなかったことは忘れるしかない。そういう時に、いろんな仕事をさせてもらっているので、やることがいっぱいあるんですよね。1つのことばかり考えていられないというのはありがたいなと思います。

ライブとかでうまくいかなくても、その日はすごく悔しいけれど、「帰って原稿を書くか」と次にやることがいっぱいあるから、それに引っ張られすぎず、考える時間がない。それが僕がこうやっていろいろな活動をやってこられている理由なのかなと思います。

(取材・文:佐藤鷹飛 写真:松林満美)

 加藤シゲアキが監督した『SUNA』を含む『MIRRORLIAR FILMS Season7』は、5月9日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映。
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