「ルールや規則を守れない者にロクな人間はいない/教師である父に幼い頃からそう教わってきた」
両親の望むレールの上を歩いて来た女子高生の主人公が出会ったのは、校則とは異なる制服を着た上級生。2人の出会いを描いた漫画『線路に転がるアダムのリンゴ』がpixivで投稿された。
対照的な2人は会話を重ね、お互いの距離を縮めていく。そんななか主人公は上級生になぜ校則とは異なる生き方をするのか問う。その回答から、ルールを守って生きてきた主人公はなにを思ったのかーー。
本作を創作したきっかけ、対照的な2人の生徒に存在する背景など、作者・染野ユウさんに話を聞いた。(あんどうまこと)
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ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
染野ユウ(以下、染野):「告白」をテーマにした短編漫画のコンテストに応募しようと思ったことがきっかけです。
どのような作品を描こうと考えるなか、派手な恰好をした男の子の喉元を、大人しい女の子が触っているというシーンが頭に浮かんできて、そこから物語をつくりました。
ーー主人公の女の子は両親の望むレールの上を歩こうとする人物でした。
染野:私自身も母の引いたレールを歩いてきた人間であり、自分のやりたいことを行うことが許されませんでした。漫画家を目指すことも母の望む人生ではなく、自分でも選ばれた人しかなれない職業だと思っていました。
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そんななか2年程前からpixivに漫画を投稿するようになったのですが、そのきっかけは母が亡くなったからです。母が亡くなってから自分の歩むレールが消えてしまい、自分の進むべき方向がわからなくなってしまいました。
どこを目指せばいいかわからず、どう生きていけばいいのかと苦しむなか、ある時すごく「悔しい」と思ったのです。母の引いたレールの上を歩き、母の思う生き方ができず否定されてつづけてきたけれど、こんな人生で終わるのは悔しいーー。
それから漫画家になりたかった夢を思い出して、漫画を描くこと、親ではなく自分の引いたレールを歩むことをはじめました。そんな思いが主人公に投影されているのだと思います。
ーー藤咲は自分の引いたレールを歩く人物として描かれていました。
染野:藤咲は主人公と対照的な人物にすることを意識しました。金髪でピアスをつけていたり、一重の主人公とは異なり二重でパッチリとした目にしたり。
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そのなかでも彼は愛されて育ってきた人であることをイメージしました。藤咲は無条件で愛されてきたこども時代を過ごしてきて、その経験が人と違うことをできる原動力や勇気になっているのだと思います。
ーー周りに対して安心しているからこそ、人と違うことができる。
染野:そうですね。主人公は親の規範やしつけといった「ムチ」を受け入れなければ「飴」をもらえなかった女の子であり、条件付きの愛情を頼りに生きてきた。対して藤咲は口の中にいつも「飴」が入っているような人物であり、愛されてきたからこそ人に「飴」、もとい「愛」を与えることができるのだと思います。
ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンは?
染野:主人公が笑う終盤のシーンです。このときは主人公が久々に笑えた瞬間だったのではないかと思いながら描いた表情なので、彼女の顔を描きながら自分でも安心し、笑顔になれて「よかったね」と思いました。
ーー藤咲先輩は主人公に対してどのような感情を抱いていた?
染野:最初はただ後輩が怪我をしているから保健室へ連れて行こうという感じだったと思います。ただ主人公が笑っている姿を見て「かわいいな」「好きだな」という気持ちを抱いたのだと思います。
もしも本作の続きを描くとしたら、2人は恋仲になっていくことを想定していました。本作の時点で好意的な気持ちはお互いに抱いているのかと。
ーー漫画を描きつづけてきた2年間をどのように振り返っている?
染野:自分はずっと漫画を描きたかったんだと気づき、もっと早く本格的に漫画を描いていればと思っています。もう漫画を描いていなかった頃の自分には戻れません。
漫画家になれるかはわかりませんが、もしも漫画家になれなくても、この先ずっと漫画を描きつづけていくのだと思います。漫画を描くことは自分にとってレールであり、方位磁石でもある、生活の一部として欠かすことのできないものです。
ーー今後の活動について教えてください。
染野:これからも漫画賞やコンテストなどに作品を応募したいです。また本を作ることが憧れだったので、同人誌や電子書籍も作ってみたいと思います。pixivでは新しいシリーズ作品の連載もはじめたいですね。少しずつでも創作活動を続けていきたいです。
(文・取材=あんどうまこと)
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