トランプ米大統領(右)の傍らでジェスチャーを交えて話すイーロン・マスク氏(左)=2月11日、ワシントン(AFP時事) 第2次トランプ米政権が発足して29日で100日。耳目を集め続けるのがトランプ大統領の側近で実業家のイーロン・マスク氏だ。電気自動車大手テスラの最高経営責任者(CEO)を務める傍ら、行政の無駄を省く新組織「政府効率化省(DOGE)」を率い、職員の大量解雇など行革の旗振り役を担う。だが、「世界一の富豪」が進める容赦ないリストラは、社会に大きな波紋を引き起こしている。
◇「マスクこそ切れ」
「切るのは医療保険ではなく、マスクだ」「マスク、われわれの職に手を出すな」。東部メリーランド州ボルティモアで今月初めに行われた抗議集会は、マスク氏とDOGEを批判するプラカードであふれていた。
「行政の効率化を望むなら、まずは職員に業務の改善方法を尋ねればいいのに、いきなり解雇に出た」。集会に参加した政府職員のポール・アサベデさん(33)はそう憤る。人権関連の職務に携わるが、「業務はほぼ凍結され、同僚の多くが不法に解雇された。(失職は)多くの人にとって死活問題だ」と批判した。
特に、退職勧奨などを電子メールで行う手法に職員らの反発は強い。文化施設勤務のネメカ・オンジェムさん(37)は、「退役軍人省の施設で看護師をしている母親がメールを受け取った」と明かす。「看護師は忙しいのに、ばかげている。将来がとても不安だ」と語った。
政権発足間もない2月、マスク氏は会合で「雑草は根から抜かなければ、簡単にまた生えてくる。多くの省庁を完全に削減しなければならない」と、政府職員らを「雑草」呼ばわり。また、ホワイトハウスの大統領執務室で、トランプ氏の傍らに立ち「財政赤字に手を打たなければ、国が破綻する」と、リストラを正当化した。
マスク氏は浮沈の激しいシリコンバレーで、同僚らとの摩擦をいとわず、厳しいコスト削減などを推し進めて成功した起業家だ。SNSで政府支出を「詐欺」などと一方的に主張する姿勢に、「スーパーマンのように飛んできて、至る所の無駄を指摘した」(米納税者団体首脳)と、英雄視する声も上がる。
保守系の米非営利組織「政府の浪費に反対する市民の会」のトーマス・シャッツ代表は、企業経営者の視点が行革に持ち込まれるのは1980年代のレーガン政権以来だと強調。「それ以降で最も成功する事例になる」と期待を寄せた。
DOGEは4月27日時点で、資産売却や契約見直し、不適切支払いの削減などを通じ、計1600億ドル(約23兆円)を切り詰めたとしている。シャッツ氏は「順調に進んでいる」と評価するが、この数字に関しては財政専門家らの間で「それほど大きくない」との見方が根強い。
◇影響力衰えも
マスク氏とDOGEの強引な人減らしを巡っては、閣僚らとのあつれきがたびたび報じられ、影響力の低下も垣間見える。調査会社ユーガブの最新の世論調査では、マスク氏の支持率は39%にとどまる一方、不支持率は55%に上った。
テスラの広告塔でもあるマスク氏の不人気を背景に、同社の新車販売は急減。業績立て直しのため、マスク氏は政府活動の時間を「5月から大幅に減らす」と表明することを余儀なくされた。
「われわれの抗議が結実した。声を上げ続ける必要がある」。アサベデさんはマスク氏の影響力後退に意を強くした。(ボルティモア=米東部メリーランド州=時事)。

政府機関縮小や職員の大量解雇に抗議する集会=4日、米東部メリーランド州ボルティモア

米非営利組織「政府の浪費に反対する市民の会」のトーマス・シャッツ代表=1日、ワシントン