企業の情報システム部門(情シス)というと、従業員のPC調達ばかりに目が行きがちだが、社用スマートフォンの調達も重要な仕事のうちの1つだ。企業によって選定する機種は多岐にわたるが、iPhoneを主に採用している企業にとって、2025年は衝撃的な1年といえよう。
今まで社用スマホとしておなじみだった最廉価モデルの「iPhone SE(第3世代)」が終売となったからだ。代わりとして2025年2月に「iPhone 16e」が発売されたが、本体価格が上昇し、調達コストも大幅に増加した。
●iPhoneの最廉価モデルの調達コストが約59%増加
iPhone SE(第3世代)はストレージ容量が64GB/128GB/256GBというラインアップを取りそろえており、特に64GBモデルは税込みで6万2800円と非常に安価で社用スマホとしてはピッタリだった。
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しかし、記事執筆時点で最廉価モデルとなったiPhone 16eの128GBモデルは税込みで9万9800円と、実に3万7000円も価格が上昇し、iPhone SE(第3世代)の64GBモデル比で、約59%のコスト増となった(筆者よる簡易的な試算。大量導入などによる細かな変動は無視するものとする)。
仮に同じストレージ容量(128GB)で比較しても、iPhone SE(第3世代)の128GBモデルは税込み6万9800円なので、3万円のコスト増となる。
昨今の為替レートやAI関連の機能拡充により、各社SaaS製品のライセンスコストが増加している中、社用スマホの調達コストが増加するのは非常につらいところだ。
しかし、対策として社用スマホを安価なAndroidスマホにリプレースするとなると、管理運用面の変更や従業員への教育コストがかさむため、大鉈を振るうのも難しいのが正直なところ。
それであれば「調達コストが増えた分のメリットが得られるかどうかで判断してみよう」と考え、筆者の個人スマホをiPhone 16eに機種変更し、社用スマホとしてiPhone 16eは適しているのかどうかチェックしてみた。
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社用スマホの調達を今後どうするか悩んでいる情シスの方や、決裁権者の方の参考になれば幸いだ。
●iPhone 16eの外観をチェック!
iPhone 16eは、iPhone 13やiPhone 14と同じく、画面上部にノッチ(切り欠き)のある狭ベゼルの6.1型ディスプレイを採用しており、iPhone SE(第3世代)と比較して、表示領域が格段に広くなった。一度に表示されるコンテンツ量が増えている。
ただし、本体サイズを比較すると、iPhone SE(第3世代)は約67.3(幅)×138.4(奥行き)×7.3(高さ)mmとコンパクトな本体だったが、iPhone 16eは約71.5(幅)×146.7(奥行き)×7.8(高さ)mmと一回り大きくなっている。
また、iPhone SE(第3世代)ではTouch ID(指紋認証)が搭載されたホームボタンが採用されていたが、iPhone 16eではホームボタンが廃止され、代わりにFace ID(顔認証)カメラが搭載された。
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iPhone Xでホームボタンが廃止された際は賛否両論だったが、今では顔認証による画面ロック解除も十分に市民権を得ているため、社用スマホとして採用したとしても問題はないと考えられる。
●充電ポートはUSB Type-Cへ進化するも、MagSafeには対応せず
iPhone SE(第3世代)は充電にApple独自のLightningケーブルを利用する必要があった。最近の社用PCはUSB Type-Cで充電するタイプも増えてきたため、社用PCと社用スマホを持ち運ぶ際に、それぞれ別々のケーブルを持ち運ぶ必要があった。
しかし、社用スマホの充電もUSB Type-Cで済むようになると、持ち運ぶケーブルの数を減らせることや、消耗品の管理の観点からも効率化が図れるので地味にうれしいポイントだ。
その反面、マグネットでワイヤレス充電器やスタンドにセットできるMagSafeが非搭載となっている。iPhone SE(第3世代)もMagSafeに対応していなかったため支障は無いはずだが、ITリテラシーが低い従業員は「新しいiPhoneであればMagSafeが使える」と勘違いする恐れがあるため、あらかじめ周知しておきたいところ。
●廉価版ながら、最新「A18 SoC」で高いパフォーマンスを発揮
iPhone SE(第3世代)が発売された当初、搭載されているSoC(プロセッサ)はiPhone 13と同じ「A15 Bionic」が採用されていた。iPhone SE(第3世代)が発売された当初は、iPhone 13と同様に快適動作すると感じられたが、2025年時点ではやや動作に引っ掛かりを感じるようになってしまった。
ではiPhone 16eはどうかというと、iPhone 16に搭載されている「A18 SoC」のGPUコアを1つ無効化した物が採用されており、グラフィックパフォーマンス以外はiPhone 16と同等のパフォーマンスを発揮する。
試しにiPhone 15 Proを利用していた頃から遊んでいるブルーアーカイブやポケモンGOをプレイしてみたが、GPUコアを1コア無効化したからといって、目に見えたパフォーマンス低下は見受けられなかった。
比較的処理の重たいゲームがこれだけ快適に動作するのであれば、(そもそもゲームには使わない)社用スマホとして、性能の制限を何ら気にする必要はないと言っても過言ではない。
もう1つ大きなポイントとして、iPhone 16eがApple Intelligenceに対応している点が挙げられる。Apple Intelligenceのハードウェア要件として、メモリ搭載量8GBを求めていることから、iPhone 16eもiPhone 16と同じく8GBメモリを搭載している。
搭載されるメモリが増えることで、パフォーマンスの向上だけでなく、将来のiOSアップデートを適用しても、快適に動作することが見込まれる。より長い期間利用できる期待が高まっているということは、社用スマホとしてもiPhone SE(第3世代)以上に最適なモデルだと考えられる。
●驚異的な省電力性能
3nmプロセスルールで設計されたA18 SoCを搭載したiPhone 16eは、高いエネルギー効率を実現しており、iPhone SE(第3世代)と比較して最大40%のパフォーマンス向上を実現しながら、最大11時間長くビデオ再生できる脅威のバッテリー持ちを発揮する。
iPhone 16eの省電力性能はA18 SoCだけでなく、Apple自社設計モデムの「Apple C1」も省電力性能向上の一端を担っているという。Apple C1はApple自社設計によりiOSとの最適化が強化されており、待機電力を極力減らせるような仕組みが取られている。
確かにApple Siliconを搭載したMacBook Proは待機電力の消費が非常に小さくなっているものの、スマホの場合はそううまくいくのかとと正直訝しんでいたのだが、いざiPhone 16eをメインスマホとして利用してみると、その消費電力性能の高さには舌を巻く結果となった。
筆者がiPhone 15 Proを利用していた際の充電スタイルは、就寝前に充電ケーブルを接続し、起床後に充電ケーブルを外して持ち運び、日中は充電せずに利用するというもの。
会社のSlackや個人用のLINE、Gmailなどの通知をONにして、昼休みや終業後の余暇にSNSや、インターネットブラウジングをするといった使い方をすると、就寝時にはバッテリー容量が20%を下回っており、休日においては就寝時にはバッテリー容量が5%を下回っていた。
この利用スタイルは変えずにiPhone 16eを利用したあと、バッテリーレポートを確認した結果が上図だがよく見てほしい。
グラフの始まりである深夜3時の時点で、既にバッテリー残量が80%を下回っていることが見て取れる。そう、iPhone 16eを最後に充電したのは木曜日の晩のことだ。
金曜日の朝に起床して日中は仕事に取り組み、昼休みや終業後の余暇にSNSやインターネットブラウジング、ポケモンGOをプレイしてそのまま就寝し、土曜日に外出して帰宅後就寝前に充電を開始した。
なんとiPhone 16eは筆者の利用スタイルであれば、2日に1回の充電で済んでしまうという驚きの結果が得られた。
金曜日は日中仕事をしていることもあって、iPhone 16eを触っている時間が少なく、待機状態(画面ロック状態)にしていることがほとんどだったため、約20%程度しかバッテリー残量が減っていないことを見ると、iPhone 16eに搭載されたApple C1の待機時消費電力の低さが際立つ。
筆者も経験があるが、社用スマホを持っていると充電を忘れる事が多々あり、いざ使いたいときには電源が切れてしまっている、という場面によく遭遇していた。しかし、iPhone 16eであれば、1日放置してバッテリー残量がゼロになってしまった、という場面に陥らなくなるため、従業員としても安心して利用できる。
●情報の外部漏えいの心配なく生成AI機能が利用できるApple Intelligenceに対応
iPhone 16eは、Appleの生成AI機能「Apple Intelligence」に対応しており、「作文ツール」を使ったWebサイトの要約や、書いたメールの校正、会議の内容を録音して文字起こしをする、といった業務効率を格段に向上できる使い方が可能だ。
業務で生成AIを利用する場合、入力したデータが学習されてしまい、社内の情報が外部に漏えいするリスクを抱えており、入力したデータの学習をオプトアウトするために有償のサービスを契約する必要がある。
しかし、Apple Intelligenceを介して入力されたデータは、iPhone 16e内のNPUと強力なプライバシー保護が施された「Apple Private Cloud Compute(PCC)」上で処理される。
PCCは、ユーザーのデータをユーザー自身のリクエストを実行するためにのみ使用され、データは保存されない。さらに、PCCに送信されたデータはユーザー自身しかアクセスできず、Appleを含む第三者は一切アクセスできないようになっている。
PCCの仕組みはmacOSのApple Intelligenceの制御を検討された方であれば、聞き覚えがあるかと思うが、もちろんiOSでもPCCの強固なプライバシー保護は健在だ。
ただし、Apple Intelligenceの「ChatGPT拡張」については注意が必要だ。Apple Intelligenceは機能のさらなる拡充を実現するため、ChatGPTと連携できる「ChatGPT」拡張機能が備わっている。
ChatGPTは組織向け有料プランのTeam、Enterpriseプランであれば、ChatGPTで入力したデータはモデル学習に利用されないようになっているが、無償アカウントはその限りではない。
ChatGPT拡張機能は、ログインできるアカウントの制御までは現状できないため、従業員が個人のChatGPTアカウントでサインインすると社外にデータが漏えいするリスクをはらんでいる。
「ChatGPT拡張」を制限するのであれば、Microsoft IntuneやJamfなどのMDMを利用して、Apple IntelligenceのRestrictionペイロードを使って制御するか、Apple Configurator 2を使ってRestrictionペイロードを仕込んだ構成プロファイルのインストールが必要になる。
Microsoft Intuneを例に挙げると「外部インテリジェンス統合のサインインを許可する」を「無効」に、「外部インテリジェンス統合を許可する」を「無効」に設定することで、ChatGPT拡張機能の利用をブロックできる。
もしくは「Allowed External Intelligence Workspace IDs」にて、自社で契約しているChatGPT TeamもしくはEnterpriseで作成した「Workspace ID」を指定することで、自社のChatGPT環境にのみログインを許可する設定を強制できるようになる。
Apple Intelligenceの登場によって、従業員の業務効率を格段に向上させられる可能性を秘めている反面、プライバシー保護についてケアする項目が増えるデメリットもあるため、手放しには喜べないものの、これを機会にMDMの導入を検討するきっかけにしてみるのも1つの手だ。
●iPhone SE(第3世代)との価格差を埋めるメリットが感じられる1台
iPhone 16eは社用スマホの定番だったiPhone SE(第3世代)に変わるのか、実機を利用しながら情シス目線で評価してきたが、驚異的なバッテリーの駆動時間の長さと、Apple Intelligenceを利用できることを考えると、少なくとも筆者はiPhone SE(第3世代)との価格差3万7,000円のギャップを十分に埋められる機種だと感じた。
社用スマホにiPhone 16eを採用する際は調達コストだけでなく、自社にとって付加価値に対してコストメリットが得られるかどうかを選定基準に挙げてみるとよそさそうだ。
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