共働き家庭・専業主婦・シニアのひとり暮らし…セットから見える家族の形――美術デザイナーが語る各家庭の“生活感”

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2025年04月29日 12:34  TBS NEWS DIG

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日本にはおよそ5000万世帯が存在し、それぞれの家庭には異なる価値観やライフスタイルがある。核家族、共働き世帯、単身世帯、三世代同居など、多様な家庭の形が存在する中、日々を過ごす部屋にも個性が生まれる。

【写真をみる】子育て世帯のリアルを反映!安全対策と空間づくり

ここでは火曜ドラマ『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』(TBS系)の美術デザインを担当する安藤帆南氏に取材を敢行。登場する各家庭が持つ雰囲気や特徴を表現するために、どのようにデザインし、どのような意図が込められているのか話を聞いた。

“色”が生み出す家庭の個性――収入・価値観・生活スタイルを反映

制作段階で決まったのは、それぞれの家庭を象徴するテーマカラーの設定だったという。本作に登場するのは、2歳の娘の育児と家事に奮闘する主人公の専業主婦・村上詩穂(多部未華子)と、仕事と育児の両立で毎日てんてこ舞いの2児のママ・長野礼子(江口のりこ)、そして慣れない育児に奮闘する育休中のエリート官僚パパ・中谷達也(ディーン・フジオカ)と、多種多様な一般家庭。

安藤氏は「村上家は水色やピンク、青みのあるカラーを基調とし、長野家は黄色やオレンジなどの暖色系、中谷家はモノクロで高級感のある雰囲気、そして詩穂の専業主婦の先輩・坂上知美(田中美佐子)が暮らす坂上家は、癒やしを感じるグリーンをイメージしてセットを組んでいきました」と語る。

村上家と長野家は同じマンションの隣室に住んでいるが、収入や生活スタイルの違いを表現するために、安藤氏はセットの細部に差をつけたという。「村上家は、生活感がありながらも整った空間を意識し、どこかスローな時間が流れているような雰囲気を持たせました。特にインテリアは派手さを抑えつつ温かみのある色調を取り入れ、壁紙は白を基調とした、一見すると幸福度の高い家庭のような空間になっています」。

また村上家は倹約した生活を送る設定もあることから、「リサイクルショップで夫婦が1つひとつそろえたようなレトロな家具を配置し、時間をかけて部屋を作っていったような生活の痕跡を感じさせるデザインにしました」と裏話も。

一方、長野家は共働きで安定した収入がある家庭らしく、リノベーションされたおしゃれな部屋が特徴だ。「礼子の“こうありたい”という美意識のもとに選ばれたであろう家具を配置しています。その中で子どものおもちゃが散乱していることで、理想と現実のギャップが見えるようにしました。1日の生活のスピードも意識し、アイテムのレイアウトにもせわしない雰囲気を盛り込み、壁の色にも変化をつけることで、村上家との差別化を図りました」。

中谷家は実在する高級感のある物件をベースに、モノクロ調の家具を配置し、収入の高さを表現。「子どもの成長を考慮したグッズをそろえ、支援センターのキッズスペースぐらい充実させることで、子どもに重きを置いている家庭であることを伝えたいと考えました」と、完璧主義な親を意識したレイアウトになっている。

坂上家はどこか懐かしさを感じる空間を意識。「坂上さんが手作りしたアイテムやアンティーク調の家具を多く取り入れ、長く大切に使われたものが積み重なってできた温かみのある家を目指しました。特に庭や室内の植物の配置にはこだわり、アジサイを含めたグリーンを多く取り入れることで“生きづいている”空間を演出しました」と教えてくれた。

子育て世帯のリアルを反映!安全対策と空間づくり

子どもがいる家庭を意識した工夫も随所に見られる。特に長野家では、テーブルの角にクッションをつけたり、キッチン前にベビーゲートを設置したりと、目に見える形で安全対策を施されている。さらに、安藤氏は「普段、マンションのセットでは小上がりを作ることがよくあるのですが、今回はなるべく段差をなくし、子どもがつまずかないようフラットな空間を意識しました」と、子どもが多い撮影現場ならではの配慮も。

こうしたアイデアは、安藤氏が実際に小さな子どもがいる知り合いの家庭を訪問し、親たちから話を聞くことで生まれた。「村上家は、専業主婦の詩穂が常に子どもを見ていられる環境であることから安全対策はそこまで厳しくしませんでした。一方で、長野家は忙しい共働き家庭のため、子どもから目を離してしまう時間もあると思ったんです。なので、子どもを守るため安全対策のアイテムを多めに取り入れました」と、子育て世帯の生の声を大切に、リアルな家庭の雰囲気を再現している。

安藤氏に本作ならではのこだわりを尋ねてみた。「坂上さんがアジサイが好きな設定なので、私が見つけたアジサイのパッチワークを坂上家に取り入れています。坂上さんはアジサイだけでなく、花もこまめに手入れするキャラクターなので、庭の植物なども変わっていたりします」と植木装飾の担当とも協力して設計しているという。

さらに植木装飾担当との連携は村上家でも。「食卓の横に置いてある豆苗は話ごとに成長度合いが変わっていて、切られていたら“食べられたんだな”と思ってもらえたら(笑)」とこまやかな変化も意識。そういった生活の積み重ねが感じられるポイントは他にも多く存在する。また詩穂の娘・苺(永井花奈)の名前にかけて、イチゴグッズも村上家には多数存在する。これらは登場人物のキャラクターをより深く表現するための工夫の一環だ。

作品のキーアイテムである主人公が好きなアジサイは、植物としてだけでなく、そのカラーがセット全体や衣装などにもさりげなく取り入れられている。

家事と仕事の両立に対する安藤氏のリアルな思い

セットを手掛けた安藤氏自身も、本作のテーマに深く共感している。特に家事と仕事の両立に奮闘する礼子の姿は、自身の未来にも重なる部分があり、強く印象に残ったという。「仕事の忙しさに波がある職種なので、家事と仕事を両立できるのか不安を持っていたんです。この作品と出合って、今は当事者ではないけれど、自分も礼子さんのように“負”という穴に落ちてしまうのではないかと考えさせられました。それと同時に詩穂さんのような人が周りにいてくれたら心強いのにと感じています」と本音も。

本作では、生活スタイルが異なる家庭の姿が描かれ、それぞれの視点で共感できる部分がある。主人公が自分の家庭だけでなく、周囲の人々を巻き込んで助け合う温かさに惹かれたと語る安藤氏。部屋を彩るカラーや小物、家具にも、登場人物らしさや家族の歴史がにじみ出ているのがわかる。皆さんのご家庭には、どんな“らしさ”が詰まっているだろうか? 近所のお宅を訪問する感覚で本作を見るのも面白いかもしれない。

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