中島裕翔&岡本健一が親子役に 演出の上村聡史と3人で語る舞台「みんな鳥になって」【インタビュー】

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2025年05月05日 08:10  エンタメOVO

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岡本健一、中島裕翔(岡本・中島ともにヘアメーク:FUJIU JIMI/スタイリスト:ゴウダアツコ)、上村聡史 (C)エンタメOVO

 世田谷パブリックシアターで上村聡史が演出したワジディ・ムワワド作品は、2014年の「炎 アンサンディ」に始まり、その後「岸 リトラル」「森 フォレ」と続き、「みんな鳥になって」はその4作目にあたる。その作品に出演するのが中島裕翔と岡本健一である。本作は、イスラエルとパレスチナの民族問題という高い壁に直面する人々の逃れられない辛い現実と、だからこそ抱く未来への夢が、ムワワドならではの迫力と美しさに満ちたせりふでつづられている。ベルリン出身のユダヤ系ドイツ人の青年エイタンを演じる中島、エイタンの父ダヴィッドを演じる岡本、演出の上村に本作の魅力や役柄について聞いた。




本作の上演が決まった経緯を教えてください。

上村 本作はムワワドが2016年にパリ・国立コリーヌ劇場の芸術監督に就任した時に創作した作品です。彼は一度フランスに亡命しましたが、その後滞在許可の更新を拒否されて、カナダに移住しました。そのような経緯を経て再びフランスに招かれ芸術監督に就任した第1作目がこの「みんな鳥になって」であり、パリで創作活動を始めるというムワワドの強い決意を感じました。その決意というのは、寓意性が強かった前3作に比べて、本作に「イスラエル」という固有名詞がはっきり出されているような点にその意思を強く感じます。

岡本 この作品を日本で上演しようと思いついた時には、まさにガザの問題に象徴されるような混とんとした今の世界情勢が展開されるとは予想もしていなかったんですよね?

上村 驚いています。もともと、くすぶっていた地域ではありますが、白井晃芸術監督と上演を決めたときは、対立が今のように目に見える時期ではありませんでした。

中島さんはムワワド作品に初出演、岡本さんは前3作に出演されていますが、本作の台本を読んだ感想は?

中島 日本人にはなじみのないことばかりですが、今、まさに世界のどこかで起こっていることに関心を向けて、そこにフォーカスしていくことはすごく大事なことだと思いました。実際にリアリティーがあるワードや場所がたくさん出てきて、そういう事態に日々身を置いている人々がいるということを考えると、これをどう自分事にしていけるかというところが一つの大きな課題だと思っています。

岡本 以前までのムワワド作品よりもリアルに感じています。共演者も決まり息子役を演じる裕翔のことを考えると、それぞれのイメージもつかみやすかったです。自分が演じる役にしても、こういう考えを持っているのかなと思いながら物語を読み進めましたが、最後のほうはあまりにも衝撃が強すぎて、おえつ状態になるというか、読むのにかなり苦労しました。それでも、読み物ではなく、舞台で上演するために書かれている作品ですから、どのような稽古になって、舞台上でどのようになるのかと思うと、すごくワクワクします。

−中島さんが出演することについて、上村さんはどのようなところに期待していますか。

上村 中島さんが出演されていた舞台「WILD」を拝見したときに、とても潔い表現をされていると感じたのですが、その潔さの中に光も影もあり、色彩がとても豊かで印象深いものがありました。中島さんが演じるエイタンという役は、作家が今を生きる上で、自身とオーバーラップするような決意を込めた役だと考えています。家族のことを思いながらも、自分自身がどう生きていくべきかということを最終的に決断していく役なので、そうした作家の願いのようなものをエイタンを通して表現していかなければいけない。中島さんがこの役で表現される光と影のようなものを通して、そうした作家のメッセージを伝えていきたいという思いがあります。

中島 舞台「WILD」は僕の初舞台でした。出演者が3人で、セリフの応酬がかなりあって、ずっと1人でしゃべっているような強烈な舞台で、引き出しも少なく、もがいていた自分を見て、そのように感じてくださったことはすごくありがたいと思っています。そのことがこのエイタンという役にも通ずることがあるとおっしゃっていましたし、アイデンティティーや、自分を構成するものに縛られていくのか、あるいはそこから解放されていくのかという、見てくださる方が感じる疑問をストレートにぶつける人物がエイタンだと考えていますので、そういうところを真っすぐに演じることができればと思っています。

−本作には長ぜりふも結構あります。

中島 本当に口の中が切れるのではないかと思うくらいの長ぜりふです(笑)。エイタンだけでなく、他の方の役もすごくしゃべっている印象で、それがある種のワクワクにもなります。どういうふうにこれをつなげていくのか相手のせりふにどう反応していくのかというのはすごく楽しみでもありながら怖いです。とにかく、せりふの多さで口内炎ができそうです(笑)。

−上村さんとして、岡本さんに期待することは?

上村 健一さんとはもう10本目ぐらいのお付き合いなので、特にないのですが(笑)。

岡本 あはは(笑)。

上村 ダヴィッドは少しヒール役のような印象からスタートしていくのですが、彼もやはり犠牲者です。振り幅のかなり大きい強烈な役どころになってくると思っています。そこを健一さんと一緒にリアリティーを持って作っていけたらいいですね。とても楽しみです。

岡本 今は台本に書かれている宗教、人種などのルーツについて自分なりに探っている最中ですが、それらの問題がより身近に存在しているヨーロッパでよく上演したなと改めて思います。その過激さと言いますか、パンクなところにものすごく引かれます。そういうものを、裕翔と一緒に届けられるというのはすごく楽しみです。

−中島さんと岡本さんの2人で親子を演じることについて感じることは?

中島 こういう作品でお仕事を一緒にさせていただくのは初めてなのですが、おうちにもよく遊びに行っていましたし、ずっと知っている間柄ですから(笑)。

岡本 本当にパパと呼ばれていました(笑)。だから今でも、パパ目線ですごく大きくなったなと思いますし、かっこよくなったなと思うこともあります(笑)。

中島 (笑)。ずっと見守ってくれている感じはしています。

岡本 そういう意味では、裕翔と僕の関係性を知っている人が見ると、いい意味で裏切られるかも。でもそこには違う世界を感じられる面白さがきっとあると思います。

−現段階で、上村さんはどのような演出を考えていますか。

上村 演出者として、劇世界というのは戯曲だけではなく、対俳優、対劇場空間、対時代、対社会といろいろな条件を加味して演出プランを練り出しています。今回と言いますか、この作家の時にいつも気を付けていることですが、できるだけストイックに、できるだけシンプルに、余計な雑味のあることはしないと決めているので、そうした演出になると思っています。

−中島さんは、上村さんの稽古は初めてとなりますが、事前に聞いておきたいことはありますか。

中島 ちゃんとお話をするというのはこの場が初めてなので…。ただ、変に身構えすぎることもなく、自分を解放できるところを持って、恥を捨て眺めればと思っています。だから、稽古でもまれる時にはもまれたいですし、このすごいキャスト陣の中で、自分も一員となって一緒に作るという存在意義のようなものを見いだすことができればうれしいです。

−上村さんとの稽古について、岡本さんから中島さんへアドバイスはありますか。

岡本 今回、上村さんがどのように稽古を進めるのかまだ全くわからないですからね(笑)。言えることは一つ。本当に風邪はひかないようにしてほしいです。

中島 それは本当に大事なことですよね。舞台の公演を最後まで走り切るというのは、わりと奇跡に近いかもしれないと最近は思うようになりました。

岡本 せりふの量は、どんなに長くても誰でも覚えられるので大丈夫です。あとは健康的にいてほしいですし、ちょっとおいしいもの差し入れしてほしいです(笑)。

(取材・文・写真/櫻井宏充)

 舞台「みんな鳥になって」は、6月28日〜7月21日に都内・世田谷パブリックシアターのほか、兵庫、愛知、岡山、福岡で上演。


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