婚活女子の心の叫びを聞け! 中国で進む少子化・非婚化の現実を描き出すドキュメンタリー『結婚しない、できない私』

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2025年05月06日 12:01  サイゾーオンライン

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『結婚しない、できない私』(2019年)/アジアンドキュメンタリーズで配信中(https://asiandocs.co.jp/contents/147)

 

<配信ドキュメンタリーで巡る裏アジアツアー> 第八回

 日本の未婚化、晩婚化とそれに伴う出生数の減少は大きな社会問題だが、それはお隣、中国でも同じようだ。その問題にストレートに向き合った作品が、中国を舞台にしたドキュメンタリー『結婚しない、できない私』(2019年/https://asiandocs.co.jp/contents/147)だ。34歳になる弁護士、28歳のラジオ局アナウンサー、36歳の大学准教授という3人の独身女性の婚活ぶりを追っている。

 彼女たちは、結婚相談所、婚活イベント、マッチングアプリなど、さまざまな手段で「理想の男性」を探すが、高学歴で安定した収入があるがゆえに、逆になかなかうまく進まない。感じのいい相手と出会っても親の反対にあったり、価値観が違ったりと、中国における結婚事情を赤裸々に映し出した作品となっている。

 アジアのジェンダー問題に関する作品も多く扱う配信サイト「アジアン・ドキュメンタリーズ」の代表・伴野智氏に、本作の見どころとアジアの社会事情について語ってもらった。

結婚は子どもを産むためのもの?

—喜怒哀楽のはっきりした中国のお国柄もあって、3人の独身女性たちが本音をむき出して婚活に向き合う姿は強烈なインパクトですね。

伴野 非常に見応えがあり、完成度の高いドキュメンタリーです。登場人物たちもみんな魅力的で、よくここまで彼女たちの心情に踏み込んでカメラを回すことができたなと感心してしまいます。ドキュメンタリーサロンでも上映したんですが、「中国でこんな作品が撮られていたとは」と驚きの声が上がっていました。でも、実はこの作品は中国で撮影はしていますが、イスラエル製作のドキュメンタリーなんです。イスラエルの女性監督が撮っています。

—イスラエルの人たちが、なぜ中国の結婚事情に興味を持ったのかが気になります。

伴野 どんな心境でこのドキュメンタリーを撮ったかというと、イスラエルという国は女性を子どもを産むための道具だと見ている傾向があるからだそうです。イスラエルの女性は平均で3人の子どもを産むそうで、先進国の中でずば抜けて出産率が高いんです。イスラエル人が子孫を残そうとする意識が強いのは、第二次世界大戦時のホロコーストの影響だとも言われています。自分たちの遺伝子を残すために、女性は結婚して子どもを産むのが当然だと考えられているわけです。でも、はたして子どもを産むために結婚を強いられること、平均で3人の子どもを産むことが、いいことなのかどうか。その答えを、中国の結婚事情を探ることによって求めようとしたんです。

—自国だけで考えるよりも、他国を知ることで問題がより鮮明に見えてくるわけですね。

伴野 そういうことですね。中国では晩婚化、非婚化が進み、少子化が問題になっており、中国政府も懸命に若者たちの結婚を煽っています。本作は中国の内情を描いたドキュメンタリーですが、日本にも通じるものがあります。中国ではとにかく親のプレッシャーがすごくって、家族同士が本音をぶつけ合う様子は「えっ、そこまで言っちゃうの」という驚きがあります。お互いに遠慮がないんです。そこまでリアルに描いているからこそ、面白いし、いろいろと気づく部分があると思うんです。

親が介入してくる中国の結婚事情

—中国の若い世代が将来を悲観していることは、連載の第2回で紹介した『ファンキータウン 暗黒の光』からも伝わってきました。

伴野 中国は2015年まで続いた政府の「一人っ子政策」のために男女比が偏ったものになっていて、2019年の統計によると、中国全体の人口は女性よりも男性のほうが3000万人も多い。20〜40代の結婚適齢期に限って見ると、男性のほうが1200万人も多いのです。女性が圧倒的に有利ではあるのですが……。

—人民公園には「高身長」「都市在住」「安定した仕事に就いている人」といった、結婚の条件を記した紙が大量に貼り出されていましたが、条件にぴったりな相手は容易には見つからないんですね。

伴野 中国では親が積極的に結婚に関わっていて、親が公園に貼り紙を出しています。日本も昔はそうでした。今でこそ結婚は当事者たちのものと考えられるようになってきましたが、中国では今も「家」と「家」の問題なんです。メンツを大切にする中国社会では、いい家柄の相手と結婚することで、自分たちの「家」の格も上げようと考えているわけです。もちろん、親は老後の世話は誰がしてくれるんだとも言ってきます。当事者だけの問題ではないんです。

—「北京で働いている男じゃないとダメ」とか、地域格差があることも気になりました。

伴野 急激な経済成長の影響で、都市部と農村部のギャップが大きくなりました。中国では、農村生まれの人は農村生まれのままで、戸籍を自由に動かすことができません。そのことも大きな問題になっています。日本でも関西出身者と関東生まれでは相性が……みたいなことを言われたりもしますが、国土が広く、言語も異なる中国ではそれがもっと顕著なのかもしれません。

—高学歴の女性たちが結婚相手に高いスペックを求める一方で、男性側も「女性は従順なほうがいい」などと主張していました。お互いに自分の理想像や高条件を求め、性格や相性などは考えていないようにも感じます。

伴野 「家」と「家」との結婚なので、当人たちの性格や相性は二の次なんでしょうね。大都会在住の公務員や銀行員といった安定した職業に就いている男性が人気なのはわかりますが、条件ばかり挙げるのは問題かもしれません。もっと人間的な触れ合いを大切にし、お互いに魅力を感じるところがあれば付き合ってみて、その医学で理解し合うようにしていかないと結婚は無理じゃないかと僕なんかは思います。婚活サイトで出会った男性も「電化製品を買うときは、ボクの意見に従ってもらう」などと平気で口にしていましたし、ちょっと偏った価値観に染まり過ぎているように見えました。

結婚によって犠牲を強いられてきた女性たち

—3人の独身女性の中でも、農村出身の弁護士がひときわ印象に残ります。仕事をしているときはすごく生き生きとしているのに、田舎に帰省すると既婚者である姉からは「変人」呼ばわりされ、老いた両親も扱いに困っている。婚活先でも、女弁護士ということで「怖そう」と避けられてしまう。彼女が号泣してしまう気持ちがリアルに伝わってきます。

伴野 自分の生き方を貫こうとすると、結婚できなくなってしまう。本当に難しい問題です。彼女とは別の、大学准教授と母親のやり取りの中で、「女性は結婚するときに、諦めなくちゃいけないんだよ」という台詞がありました。中国に限らず、女性たちは常に犠牲を強いられる立場に追いやられているように思えます。中国の伝統や社会事情がそうしている部分も大きいのでしょうが、日本もそうなのかもしれません。中国の方はズケズケと物言う分、そうした問題がよりはっきりと見えてしまうように感じます。

—それにしても、それぞれの家庭の内情に、よくここまで肉迫できたものだと驚きました。親子喧嘩の様子など、本当に生々しく捉えられていました。

伴野 監督はイスラエル人ですが、撮影は普段は自分で監督もしている中国のカメラマンが担当したそうです。基本的にゲリラ的に撮影しているんですが、弁護士女性の実家がある村では、中国人カメラマンが村の偉い人に断りを入れた上で撮影したそうです。中国政府の正式な許可は取らずに、でも地元の権力者の顔をうまく立てながら撮影したわけです。そうした建前と本音の使い分けがうまくいったようです。

—アジアンドキュメンタリーズでは、結婚をテーマにした作品を多く扱っていますね。

伴野 結婚だけでなく、ジェンダー問題を扱った作品は多いですね。この問題はアジア各国で大きな関心を集めていますが、とりわけ中国は『チャイニーズ・クローゼット』(2015年/https://asiandocs.co.jp/contents/3)などいろいろな作品が撮られています。中国はとにかくテーマが豊富で、それはそのまま問題が多いことも表しています。いま、アジアの各国で起きていることは、我々日本人にとって他人事ではなく、自分たちに置き換えて考えることができるものです。ほかの国の結婚問題なんて、日本のテレビや新聞ではあまり報道されませんが、地続きの問題でもあります。視聴者には「中国って面白いなぁ。変わった価値観があるんだなぁ」で終わらせず、ちょっとでも気になる単語や事柄などがあれば自分で調べ、新しい発見につなげてもらえればと思っています。それこそが、ドキュメンタリーを観る醍醐味でもあるのです。

 本作に登場した3人の独身女性たちの中で中心的に描かれていた弁護士は、婚活先で値踏みされ、田舎で暮らす両親からは結婚のプレッシャーを掛けられ、精神的にボロボロになってしまう。そんな彼女が最後にどんな決断をするのか。思いがけない本作の結末をぜひ見届けてほしい。
(文=長野辰次)

『結婚しない、できない私』
(原題:Leftover Women)
2019年製作 製作国/イスラエル
監督/シェシュ・シャラム、ハイラ・メダリア
撮影/シェン・ミ、ファン・ジエン
音楽/チャン・ナン
2019年フィラデルフィア映画祭最優秀長編ドキュメンタリー賞
2019年EBS国際ドキュメンタリーフェスティバル特別審査員賞

「アジアンドキュメンタリーズ」 https://asiandocs.co.jp/

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