“フライパンに張り付かない”ギョーザの開発秘話…味の素が行った驚きの施策。“上手に焼く方法”も伝授してもらった

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2025年05月11日 09:30  日刊SPA!

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インタビューに応じてくれた味の素冷凍食品株式会社 マーケティング本部 戦略コミュニケーション部の今村史佳さん
今年3月、Xで『なにが「油なしで焼ける!」だよ。ふざけやがって』という、フライパンに皮が張り付いた焼き餃子の画像付きのポストがたちまちバズった。そのポスト自体ではメーカー名が言及されていなかったものの、投稿に反応した別のユーザーがリプ欄を加味して「味の素の餃子に対する国民の信頼感がすごい」とつぶやき、一躍、Xで「味の素の餃子」がトレンド入りした。
さらに、騒動は波及する。冷凍食品の「ギョーザ」を取り扱う味の素冷凍食品株式会社の公式Xアカウント「ギョーザ好き社員【公式】」が反応。同社が取り組む一大プロジェクト「冷凍餃子フライパンチャレンジ」に再び、スポットが当てられた。

1972年の販売開始から50年以上、同社による「ギョーザ」への並々ならぬ情熱とは。商品開発史、家庭でも試したい「ギョーザ」の上手な焼き方などを、同社のマーケティング本部 戦略コミュニケーション部の今村史佳さんに聞いてみた。

◆ユーザーの投稿をきっかけに企業が動いた

――今年3月の『なにが「油なしで焼ける!」だよ。ふざけやがって』のポストをきっかけとした一連の騒動は、把握されていましたか?

今村史佳さん(以下、今村さん):はい。元になったポストに「これ、また味の素?」と、ユーザーの方々が盛り上がっていらっしゃったのも拝見しました。ただ、弊社と言及されていなかったので静観していましたが、別のユーザーさんが「味の素の餃子に対する国民の信頼感がすごい」と反応されていたこともあり、公式からもリアクションをしました。じつは、過去にも似た投稿をきっかけに、製品改良に取り組んだこともあったんです。

◆「ギョーザ」が張り付いたフライパンを募集

――過去の取り組みについて、教えていただきたいです。

今村さん:2023年5月に、Twitter(当時)で「味の素(冷凍食品)の冷凍ギョーザがフライパンに張り付いた」という画像付きのツイートが投稿されました。弊社としては誰でも失敗なく焼ける製品だと自信を持っていましたが、どのようなフライパンだとこんなに張り付くのだろうと疑問に思いました。そして名指しされている以上は「無視できない」と当時のTwitter担当者が上長に相談。投稿された方に「よろしければ、フライパンを見せていただけませんか?」とコメントしました。それが、「冷凍餃子フライパンチャレンジ」プロジェクトの原点です。

――当時、ネットではだいぶ騒がれたそうですね。

今村さん:はい、様々な反応があり「味の素、そこまでやるの!?」と驚く方もいました。きっかけとなったユーザーの方からはフライパンを送っていただけなかったのですが、弊社としては検証の必要性を感じ、研究所にあるフライパンで検証を重ね、「大さじ1杯程度の油を引く」、「弱火で10分蒸し焼きする」のいずれかで張り付きが改善できると確認しました。ただ、弊社にあったフライパンでは、各家庭での状況を完全には再現できません。そこで、2023年6月にSNSや公式サイトで、パッケージ通りの手順で焼いても弊社「ギョーザ」が張り付いた経験があるフライパンを募集しました。

◆「3520個のフライパン」が開発陣を後押し

――企業魂を揺さぶられたプロジェクトで、集まったフライパンの総数は?

今村さん:全国から3520個のフライパンを送っていただきました。届いたフライパンの数も想定外でしたが、さらに弊社の取り組みに共感してくださった方々から激励のお言葉やフライパンとの思い出などを綴った、お手紙やメッセージをたくさんいただき、メンバー一同大変感動しました。フライパンメーカーの方は「1〜2年が買い替えどき」とお聞きしていたのですが、なかには「親が上京祝いで買ってくれた8年以上も使っているフライパンです」というフライパンも。実際はそれ以上の長い期間、愛着を持ってフライパンを使っている人が多いと分かったのは、新たな気づきでした。

◆“張り付きフライパン”で検証を行った結果…

――具体的な「冷凍餃子フライパンチャレンジ」の成果は?

今村さん:皆さまのおかげでフライパンに張り付きづらい「ギョーザ」にリニューアルしました。お客様が送ってくださった3520個のフライパンのうち、ランダムに選んだ500個以上のフライパンで何度も「ギョーザ」を焼くなど検証を重ね、当社独自技術「羽根の素」の改良を行っています。2024年春からさらにリニューアルをした2025年春では、「1袋(12 個)完全に張りついてしまうフライパン」で調理検証したところ、その内の9割以上のフライパンで「ギョーザ」の張りつき改善効果が確認できました。まだまだ完全ではありませんが、一人でも多くの方に「ギョーザ」がキレイに焼けた時の楽しさや感動をご体験いただきたいです。

また、全国から寄せられたフライパンの約9割がアルミ製だったことに着目して、フライパンを再生する取り組みも行いました。新潟県で創業70年以上を誇るアルミ製品メーカーの杉山金属さん、キッチンウェアのクリエイターチームである4w1hさんのご協力をいただき、今春「冷凍餃子フライパンチャレンジから生まれたフライパン」として生まれ変わりました。

これらの取り組みは、弊社の公式サイトや公式noteでも進捗を報告しています。

◆上手に焼くうえで大切な要素は…

――じつは、過去に「ギョーザ」の皮が焦げ付いた経験があって……。パッケージの手順どおりに焼いているのに、失敗する原因は何でしょうか?

今村さん:弊社の「ギョーザ」は焼き面に水と油を含む「羽根の素」が付いていまして、それが加熱時に溶け出すため、油・水なしで調理できる設計になっています。ただ、使い込まれたフライパンでは張り付く場合もあるので、不安でしたら少量の油を引くのがおすすめです。フライパンは「目玉焼きが張り付いたら替えどき」と言われますが、冷凍餃子も例外ではありません。

また、調理中の火加減も重要です。弊社では「ギョーザ」のパッケージの裏面で「中火」と写真付きで案内していますが、一般的なイメージの「中火」と実際の火力にはズレがあるかもしれません。本来の中火は「火の先端がフライパンの底に当たる程度」で十分なんです。また、IHコンロでは中心部が加熱されやすい傾向があるため、焼き加減がガスコンロと比べて少し難しいかもしれません。

◆50回以上の改良を重ね、もちろん今でも進化中

――料理好きで鉄製のフライパンを愛用される方もいますが「ギョーザ」を焼いても問題ありませんか?

今村さん:はい。弊社でも鉄製のフライパンを愛用する社員はいまして、日常的に油をなじませて使っていればキレイに焼けると思います。ただ、鉄製のフライパンは熱の伝わり方や厚みがそれぞれ違いますので、ある程度の技術とコツが必要かもしれません。

――上手に焼けば皮がパリパリで食感もたのしく、ご飯に合います。味についても、こだわりがあるんでしょうか?

今村さん:販売開始から50年以上にわたって「永久改良」の言葉を胸に、50回以上の改良を重ねてきました。例えば、羽根は少ない個数でもキレイに広がるように設計しており、現在も改良を続けています。味、風味、食感などを決める素材にもとことんこだわって、食卓のおかずとして「ご飯に合う王道の味付け」です。醤油やお酢、ラー油などの「餃子のタレ」がなくても、パクパクと食べすすめていただけるように、ベースの味をしっかり付けていますが、肉のうま味、野菜の香りや甘みも味わっていただけるように、微調整を繰り返し「バランスの取れたレシピ」を常にめざしています。

――そのままでも十分においしいですが、メーカーとしておすすめしたい「こだわりの食べ方」も教えてください。

今村さん:大葉やエゴマで包むと、口当たりがさっぱりします。紅ショウガと大根おろしをすって、合わせて食べるのもおすすめです。社内では、焼いた「ギョーザ」をご飯に乗せて、ミョウガやショウガといった薬味と合わせて食べる「お茶漬け」も人気があります。私個人としては、焼くときにチーズをかける「チーズギョーザ」もおすすめです。パリパリの羽根と、とろっとチーズのクリーミーさがよく合いますし、「ギョーザ」の半分はチーズをかけて、半分はそのまま焼けば、1袋で2種類の味を楽しめます。

◆売れている商品でもリニューアルを敢行

――販売開始から50年以上の「ギョーザ」ですが、歴史が長いですね。

今村さん:冷凍食品事業への参入は1972年で、当時の製品は「ギョーザ」や「シュウマイ」、「コロッケ」などの12品でした。そこから様々な製品の開発を続け、長らく主力製品だった「エビシューマイ」を「ギョーザ」が追い抜いたのは、2003年ごろからです。世の中の働き方の変化により、食卓のメインディッシュとして「ギョーザ」が受け入れられるようになったのが大きな要因だとみています。

――油なし、水なしで焼ける製品が生まれたのはいつでしたか?

今村さん:油なしで焼ける「ギョーザ」が生まれたのは1997年で、油と水なしで焼けるようになったのは2012年でした。当時、社内では「十分に売れているのに変える必要があるのか」という声もあったそうです。ただ、生活者の実態と向き合い、より多くの方に愛される「ギョーザ」へ進化させるためにはリニューアルが必要だという開発担当者の熱意によってリニューアルに至ったと聞いています。

◆パッケージ刷新で「AJINOMOTO」を前面に

――今日もどこかの食卓を彩る企業として、今後の展望も伺いたいです。

今村さん:じつは、2025年春の「ギョーザ」のリニューアルで、はじめてギョーザのロゴと一緒に“AJINOMOTO”の表記を入れました。“味の素”は社名でもありますが、調味料の商品名でもあります。誤認を避けるためにも、従来より配列表記できない味の素グループ内のルールがあります。

ただ、冷凍食品コーナーではメーカー同士で「餃子競争」が激しくなっています。そこで、ブランドの識別性を高めるために“AJINOMOTO”を表記できることになりました。弊社としては、世界中の人びとに「餃子で笑顔になってもらう」の思いで、これからも活動を続けてまいります。

<取材・文/カネコシュウヘイ>

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