ブエミの決断はル・マン後に/代役候補は中山雄一?/50号車フェラーリの敗因etc.【WECスパ決勝後Topics】

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2025年05月13日 07:00  AUTOSPORT web

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2025年WEC第3戦トタルエナジーズ・スパ・フランコルシャン6時間レースのスタート(ハイパーカークラス)
 5月10日、ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットでWEC世界耐久選手権第3戦の決勝が行われ、フェラーリAFコルセの51号車フェラーリ499Pが、終盤までもつれた6時間レースで総合優勝を果たした。

 山間部特有の天候の急変と局地的なコンディション変化などを指す"スパ・ウエザー”とは無縁の週末を終えたサーキットから、ル・マンの前哨戦となった今大会の決勝レースにまつわる各種トピックをお届けする。

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 スパ6時間レースでのフェラーリ499Pの勝利はWECシリーズ通算6勝目であり、イタリアのメーカーはこれをカタールでのシーズン開幕戦以来、シーズン2度目のワン・ツー・フィニッシュで飾った。LMGT3クラスでのAFコルセの勝利は、フェラーリが初めて両クラスを制覇したことを意味する。

 ジェームス・カラドは全クラス合算でWEC通算15勝目、アレッサンドロ・ピエール・グイディは同14勝目、アントニオ・ジョビナッツィは3勝目を挙げた。同一トリオによる連続総合優勝は、2023年にモンツァと富士で2連勝を飾った小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス組(7号車トヨタGR010ハイブリッド)以来となる。

​ 51号車フェラーリの3名は、ドライバーズランキングで姉妹車50号車499Pを駆るアントニオ・フォコ、ニクラス・ニールセン、ミゲル・モリーナに18ポイント差をつけてトップに立っている。一方、AFコルセのロバート・クビサ/フィル・ハンソン/イェ・イーフェイは、スパで黄色い83号車フェラーリがターボ交換を必要とするエンジントラブルに見舞われポイント獲得を逃したにもかかわらず、36ポイント差で依然として3位につけている。

 なお、83号車はガレージでの修復後にレースに復帰し39周遅れで完走。順位確定に必要な距離の70%をクリアした。これによりトランスミッションのトラブルでレース序盤にリタイアした99号車ポルシェ963(プロトン・コンペティション)を抑え、FIAハイパーカー・ワールドカップでは最高ポイントを獲得した。


■なぜ50号車フェラーリは敗れたのか

 フェラーリのレース&テストチームマネージャーであるジュリアーノ・サルヴィは、予選で499Pがライバルに大きく差をつけたことを「冗談」と表現したが、フリープラクティスの結果を踏まえると、決勝ではより接戦になるだろうと予想していた。「FP2ではキャデラック、アルピーヌ、BMWといったマシンが非常に強力であることが分かった。そして、まさにそのとおりになった」とサルヴィは記者団に語った。「確かにアルピーヌは非常に速かったし、その他のマシンにはそれぞれレース中に問題があった」

 サルヴィは、51号車と50号車の戦略は、それぞれのクルーが自ら選択したものだと付け加えた。ピエール・グイディ(51号車)は最終盤のスティントで大きくリードを築き、ニールセン(50号車)は追加ピットストップを避けるために積極的な燃料セーブを選択した。「その時点では明確な最適解はなかった。両方のクルーが異なる方向に進んだたため、私の仕事は楽だった。だからコイントスをする必要はなかったよ」と彼は語った。

 50号車が最後のピットストップでドライバー交代を決断し、フォコからニールセンにバトンタッチした理由について、サルヴィは、昨年のル・マン24時間レースでチームが勝利を収めるのに貢献したデンマーク人ドライバーの省燃費能力に起因すると述べた。しかし、ニールセンの通常より2周多い27周のスティントは、「後から考えれば最善の方法ではなかった」と認めた。彼さらに、50号車は2台のフェラーリの中で「おそらく」総合的に速かったものの、「戦略が最適ではなかったため、結果的に後方の順位に終わった」と付け加えた。


■ブエミが欠場する可能性

 セバスチャン・ブエミは、ブレンドン・ハートレーと平川亮とともに8号車トヨタGR010ハイブリッド(トヨタ・ガズー・レーシング)を駆り、グリッド15番手から4位に浮上したことに喜びを隠せない様子だった。

「我々はメーカーの中で6番目か7番目だった。つまり、本来なら12位から14位の間に入るべきだった。だから4位でフィニッシュできたのは、正直に言って勝利のように感じる」とスイス人ドライバーは語った。「フェラーリ(51号車)ラップタイムと僕のベストラップを比較すると1.5秒遅かった。自分たちの成果を誇りに思うよ」

 ブエミはレース前、Sportscar365の取材に対し、WEC第5戦サンパウロ6時間レースとフォーミュラEのベルリンE-Prixのどちらを優先するかをまだ決めていないと語った。彼は電動フォーミュラ・シリーズのモナコ・ラウンドで優勝した直後にスパに乗り込んできた。「ル・マンに挑戦して、それから判断する」と彼は語った。


■BMWもピットレーンで順位操作

 チームWRTの代表であるヴァンサン・ボッセは、15号車BMW MハイブリッドV8がピットレーンとフルコースイエローで受けた2度のドライブスルーペナルティは関連があると示唆し、次のように述べた。「ピットリミッターの不適切な操作により、バーチャルセーフティカー(のリミッター)が解除されたと思われる。ドライバー交代時に何らかの操作が行われ、これが今回の問題とペナルティにつながったと考えている」

 注目すべきは、スパでミシュランのソフト・コンパウンドタイヤをコンスタントに使用していたのは、BMWの2台のみだったことだ。「これは我々の分析、テスト、その他あらゆることを踏まえたうえでの判断だった。悪い判断ではなかったと思う」と同氏は語った。

 スチュワードは、フェラーリがセーフティカー出動中にピットレーンで行ったスワップと同様のことをBMWが行ったとして15号車に警告を与えた。ブルテンによると、ケビン・マグヌッセンが操縦するマシンは、車検場の前で数秒間停止した後、ふたたびファストレーンに戻ったという。スチュワードは調査の結果、この操作は20号車が15号車の前方作業エリアを通過せずにピットストップを行うためのものだったと結論付けた。


■マグヌッセンのヒヤリシーン

 マグヌッセンはレース序盤、LMGT3のトラフィックを避けるためにケメルストレートの芝生に飛び出した際に恐怖を感じ、後に「あそこはグリップがあまりないね」とジョークを飛ばした。

 彼はこう付け加えた。「2台のGTカーを避けてコース脇の芝生に飛び出したが、何も失っていない。僕は生き残らなければならなかった。2台のGTカーが横並びになったのは、僕がまさに追い抜こうとしたタイミングで、行き場がなくなってしまった。アクセルから足を離してトラックに戻ろうとしたが幸運にもポジションは下がらなかった」

 一方、姉妹車の20号車BMWはレース終盤にブレーキトラブルに見舞われ、最終的にリタイアを強いられた。BMW Mモータースポーツディレクターのアンドレアス・ルースはSportscar365に対し次のように説明している。

「ロビン(・フラインス)はブレーキの踏み込みがロングになったと言っていた。直接問題が確認できなかったため、安全上の理由からマシンを止めることにした。いずれにせよ、スローパンクチャーのせいですでに後退していた。レースに戻るのはリスクが大きすぎると判断した。マシンは非常に力強いパフォーマンスを発揮していただけに残念だった」


■ル・マンに向けたテスト計画

 キャデラック・ハーツ・チーム・JOTAのアレックス・リンは、12号車キャデラックVシリーズ.Rがスタート順位と同じ5位でレースを終えることができ、満足していると述べた。「キャデラック・ハーツ・チームJOTAとして、初めてまともにレースができたと感じている。今日、シーズンを好調にスタートできたことを誇りに思うよ」

 JOTAスポーツの共同創設者であるサム・ヒグネットは、来週ポール・リカールで行われる、ミシュランタイヤテストを含むグループテストに向けたキャデラックのテスト計画を説明した。「レースカーにはル・マン24時間レースで使用するギアボックスとサスペンションなどのコンポーネントが装着され、これらのコンポーネントで100km走行することを目標としている。まず2台とも最大100kmのロールアウトを行いレースへの適合性を確認するつもりだ。3台目のマシンはテストカーで、初日(タイヤテスト前)にパフォーマンステストを実施する」

 ポール・リカールでのテスト2日目に参加しない唯一のハイパーカーメーカーはプジョーで、彼らはこれの代わりに5月20日にモンツァで1日だけテストを行う。アストンマーティンも、ヴァルキリーのル・マン初参戦に向けて5月19日と20日の2日間、同じくモンツァでのテストを予定している。

 ポルシェ・モータースポーツの責任者であるトーマス・ローデンバッハは、2台のファクトリー・ポルシェ963が9位と12位に終わったレースの後、フラストレーションを隠せない様子だった。ドイツのブランドの予選での競争力の欠如は、レースにも引き継がれたためだ。

 ローデンバッハは次のようにコメントした。「端的に言って、より良い結果を得るための条件が整っていなかったことを認めなければならない。いつものように、特に次にル・マン24時間レースが控えていることを考えると、その理由を分析していくことになる。しかし、組織外でも対策を講じる必要があると考えている。このレース結果がすべてを物語っている」


■「時間の無駄」とバッサリ

 アレッシオ・ロベラのLMGT3での優勝は全クラスを通じてWEC通算7勝目、スパではAFコルセ所属の2021年と2023年に続き3勝目となった。一方、サイモン・マンとフランソワ・エリオは、昨年バーレーンでロベラとともに優勝して以来の2勝目を挙げた。

 TFスポーツのダニエル・ジュンカデラ、ジョニー・エドガー、ベン・キーティングのトリオは、スパで13位に終わったにもかかわらずLMGT3ドライバーズランキングでわずかなリードを維持している。

 スパでの33号車シボレー・コルベットZ06 GT3.Rの競争力不足について、キーティングはスティント後の公式コメントで容赦なく語った。「これはレースではないと言えるだろう。コースを走りながら誰かのミスを待っているようなものだ。ここにいるのは時間の無駄だと感じる。それくらい本当に腹が立っているんだ」

 ラズバン・ウンブラレスク、クレメンス・シュミット、ホセ-マリア・ロペスの87号車レクサスRC F GT3は燃料ポンプのトラブルで戦列を去り、LMGT3クラスでは31号車BMW M4 GT3(ザ・ベント・チームWRT)と95号車マクラーレン720S GT3エボ(ユナイテッド・オートスポーツ)続くリタイアとなった。


■中山雄一が候補のひとりに

 トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ(TGR-E)のテクニカルディレクターであるデイビッド・フルーリーは、スパ・フランコルシャンでWECデビューを果たした中山雄一が、昨年のようにトヨタ・ハイパーカー・チームでロペスが必要になった場合、“ペチート”の代役候補になる可能性があると述べた。仮にそうなった場合についてフルーリーは、アコーディスASPチームでのロペスの穴を埋めるためにエステバン・マッソンをVDSパニスのLMP2エントリーから外す可能性を否定した。

 LMGT3で4位に入った77号車フォード・マスタングGT3(プロトン・コンペティション)のベン・タックは、ポールポジションからオープニングステージをリードした78号車レクサスのアーノルド・ロバンやAFコルセ54号車のフランチェスコ・カステラッチ、そしてプロトンのチームメイトであるステファノ・ガットゥーゾ(88号車フォード)を抑え、ファン投票で選出される『グッドイヤー・ウイングフット・アワード』を受賞した。

 主催者発表によると、WECスパの3日間の観客数は9万8874人だった。これは2024年の8万8180人を超え、ル・マンを除くシリーズ戦でのWEC記録を更新する数字となっている。

 シーズンの序盤3戦を終えた各チームの動きはル・マン24時間レースの準備に移っている。この伝統の一戦に向けては6月14〜15日のレース本番に先立ち、6月8日にサルト・サーキットでテストデーが開催される予定だ。

[オートスポーツweb 2025年05月13日]

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