写真/産経新聞社MLB・大谷翔平は5月10日、ダイヤモンドバックスとの対戦に1番DHで先発出場し、今季12号となるソロホームランを決めた。第一子の誕生に付き添うために一時離脱し、4月に試合復帰した後は不振気味で、チームメイトが「彼だって人間だ」とコメントしたことが注目されていた(以下、ジャーナリスト・森田浩之氏による寄稿)。
◆4月は不調が囁かれたが…忘れてはいけないのは大谷も「神」ではないこと
大谷翔平は「スランプ」だったのか? 4月下旬、ドジャース・大谷のバットから快音が消えた。妻の出産に立ち会うために入った「父親リスト」から復帰した後、4試合で16打数2安打という不振。打率は2割6分まで下降した。
SNSには状態を気遣う声が目立ち、メディアは「不調」「スランプ」という言葉を避けながらも、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督が「少し大振りになっている」とコメントしたことを伝えていた。
だが、5月に入って成績はV字回復。毎試合のようにヒットを放ち、本塁打もすっかり量産モードに入った。
今回の「プチスランプ騒ぎ」は、大谷翔平という存在の大きさを改めて浮き彫りにした。大谷が調子を落としている期間に、チームメイトのムーキー・ベッツはこう語った。
「彼だって人間だ。僕らはみんな、彼が何か残念なことをするわけがないという状況に慣れすぎているのだと思う」
この言葉は忘れずにいるべきだ。大谷だって、子供の誕生という人生の一大事を経験すれば、ストレスもたまるし疲れも出る。少しばかり調子を落としても不思議はない。
◆大谷の“6月”にがぜん集まる注目
とりわけ日本人にとって、大谷の存在はもはや生活に溶け込んでいる。街を歩けば、コンビニのおにぎりから化粧品まで、あらゆる分野の広告に登場している大谷の写真が目に入る。出場試合は全て中継され、満員の通勤電車で携帯端末を使って見る人も多い。
´23年のWBCでは、戦後日本の価値観を覆すような名言を残した。アメリカとの決勝を前にチームメイトに語った「(アメリカに)憧れるのをやめましょう」という言葉だ。
これほど日本の空気をつくり出すアスリートが数日でも調子を崩せば、自分の体調も悪くなったように思う人も出てきそうだ。だが、大谷も神ではない。それを忘れずにいれば、彼の活躍をよりバランスよく見られるだろう。
もうじき大谷の得意な6月がやって来る。昨年6月の本塁打数は12本、一昨年は15本だ。悩むこともある一人の人間としての、大谷の打棒が炸裂することに期待したい。
【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など