
緒方孝市インタビュー 前編
広島の投手陣について
34試合を消化した時点で17勝16敗1分け、リーグ3位につけている広島。チーム防御率はリーグ2位の2.43(2025年5月12日時点、以下同)だが、投手陣はどんな状態なのか。走・攻・守三拍子揃った名選手として長らく広島で活躍し、監督として球団初のリーグ3連覇を成し遂げた緒方孝市氏に印象を聞いた。
【チームで"守りの強さ"を発揮】
――広島のここまでの戦いぶりをどう見ていますか?
緒方孝市(以下:緒方) いい時もあれば悪い時もありますね。7連敗もありましたが、今のところセ・リーグ6球団の差がそこまで開いているわけではありません。傾向として、どのチームにも連勝・連敗があることが、差が開いていないひとつの要因だと思います。
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――打線は課題とされていますが、一方でチーム防御率2.43とリーグ2位の投手陣は奮闘しています。
緒方 広島の強みは投手陣の力です。昨季の9月初めの頃まで首位にいたのも、投手陣の力を含む"守りの強さ"が大きかったんです。今季は開幕から、先発投手が試合を壊した試合がほぼありません。床田寛樹は7試合すべて、森下暢仁は7試合中6試合、大瀬良大地は6試合中5試合でクオリティスタート(QS/先発投手が6回以上を投げ、自責点3以内に抑える)を達成していますしね。
それと、特筆すべきは二遊間の守備です。今季、ショートのレギュラーを完全に自分のものにする意気込みでシーズンに臨んでいる矢野雅哉、ベテランの菊池涼介は、失点を防ぐような守備が毎試合のように見られますし、あのふたりの守備は本当に投手を助けています。
――守備の面では、二俣翔一選手の存在も大きいですね。
緒方 主に守ることが多い外野の守備に加え、サードやセカンド、ファーストと、どのポジションも高いレベルでこなしますし、ユーティリティプレーヤーというのが彼の強みです。監督としても使いやすい選手なんですよね。
バントの際にファウルが顔面に直撃し、(前歯を8本損傷、口内を8針縫う)大ケガをしてしまった不運もありましたが、それでも翌日から試合に出ています。ボールが当たったのは顔面ですし、体へのダメージだけじゃなく、精神的なダメージもあったと思うんです。まだ打席に立つ際の恐怖心もあるはずですが、「このチャンスを絶対にものにするんだ」といった気持ちが強いんでしょうね。
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――先発投手陣では、ここまで3勝を挙げている森翔平投手の存在も大きいですね。
緒方 森はいいピッチングをして戦力になっていますね。先発投手陣では、まず「九里亜蓮が抜けた穴をいかに埋めるか」が課題でした。二軍も含め、玉村昇悟、ジョハン・ドミンゲス、常廣羽也斗ら候補がいるなかで、今の段階では森が出てきてくれています。
彼は自分のピッチングスタイルを確立してきていますね。オープン戦である程度の結果が出て、手応えを感じたなかでシーズンが開幕し、しっかりと結果につながった。マウンドで自信を持って投げているように見えますし、試合を作ることができています。ここまでは期待どおりの働きぶりじゃないですか。
【今後のキーマンとなる投手は?】
―― 一方、リリーフ陣はどう見ていますか?
緒方 開幕してから数試合、リリーフ陣が失点してしまう試合が何試合かあったのですが、戦力は揃っています。右肘の手術明けで不安があった栗林良吏も開幕から勝ちパターンで投げることができていますし、島内颯太郎やテイラー・ハーン、塹江敦哉、森浦大輔ら勝ちパターンで起用できるメンバーが揃っていますね。
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ドラフト3位ルーキーの岡本駿も、オープン戦から引き続き内容のあるピッチングをしていますし、層の厚いリリーフ陣に食い込んできています。
――投手陣は今のところ踏ん張っていますが、シーズンは長いですし、夏場に向けて疲労も蓄積されていくかと思います。
緒方 先ほど話に出た森に関しては、過去にシーズンを通して投げたことがないピッチャーなので、今までに体感したことがない疲れを感じるかもしれません。相手チームも研究してくるでしょうから、ひと筋縄ではいかなくなります。
当然、打たれれば微調整は必要になってきますが、そこで自分が取り組んできたことを大きく変えることはせず、自信を持って今のピッチングスタイルを磨いていってほしいです。
――今後の投手陣のキーマンを挙げるとすれば?
緒方 大瀬良や床田、森下あたりは、チームとしてやってくれないと困る投手です。それ以外からキーマンになってほしい投手を挙げるとなると、常廣やアドゥワ誠はすごく見てみたい部分もありますし、彼らが先発ローテーションの争いに加わってくるようになると、チームに対する期待値も上がります。
ただ、課題は打線です。直近ではヒットが多く出ている試合もありますが、やはり"水物"ですから。昨季も言われていたことですが、いかに点を取ってピッチャーをラクにしてあげられるか。ピッチャーもずっと抑え続けることは無理ですし、点を取ってあげなければ我慢しきれなくなります。夏場に入ればピッチャーの疲労度は色濃くなりますし、打線がいかに援護できるかがポイントですね。
(後編:カープ打線を分析 4番・末包昇大の活躍、「いい意味で競い合っている」若手の奮闘はポジティブ要素>>)
【プロフィール】
緒方孝市(おがた・こういち)
1968年生まれ、佐賀県鳥栖市出身。1986年に広島東洋カープからドラフト3位で指名され入団。2008年まで主に外野手として活躍し、盗塁王のタイトルを3度、ゴールデングラブ賞を5年連続で受賞した。2009年に現役を引退後、コーチとして後進の指導。2015年に監督に就任すると、2016年から18年にかけてチームを球団史上初の三連覇に導いた。2019年に退任後、野球評論家などで活躍中。