聞こえる児童と、ろうの児童の学びたい気持ちや権利は同じ――。聴覚障害のある子どもが学校で適切な学習環境を求めて行政を相手取った訴訟の控訴審で、原告の中学3年の女子生徒が13日に札幌高裁の法廷に立ち、手話で自身の置かれた境遇や思いを訴えた。
この訴訟は、主要な手話の一つ「日本手話」を母語として育った女子生徒と別の男子児童が、北海道札幌聾(ろう)学校で日本手話による授業を受けられず、憲法で認められている「等しく教育を受ける権利」を侵害されたなどとして、2人が道に計1100万円の損害賠償を求めている。
原告側は、日本手話がほとんどできない教諭が担任となり、文法体系が日本手話と大きく異なる「日本語対応手話」による授業で意思疎通ができなくなったなどと訴えている。
2024年5月の1審・札幌地裁判決は「日本語対応手話や動画、イラストなどのコミュニケーション方法を活用することで一定水準の授業を提供できる」などとして、訴えを退けた。
「日本手話は私のアイデンティティー。最も理解しやすく、自分らしさを表現できる」。13日に札幌高裁(斎藤清文裁判長)で開かれた口頭弁論で、14歳の女子生徒が意見陳述を始めた。日本手話を使い、口頭の通訳を介して裁判官らに内容を伝えた。
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女子生徒は生まれつき聴覚障害があり、同校に通学。提訴時は小学6年で、現在は中学3年になった。
女子生徒は「小学5年になり、担任の先生が退職して学校を去ってからは、日本手話で学べる環境が減り、先生や友達も(意思疎通に)音声を使うことが増えた」と説明した。
クラスメートよりも自身の聴力が低いことを踏まえて「自由に話せる雰囲気から変わったように感じ、居場所がなくなったと感じるようになった」と話し、校内で心理的な孤立を深めていたと主張した。
「みんなが何を言っているのか……」
さらに小学6年時を振り返り「みんなが何を言っているのかほとんど分からなかった。先生が伝えたいことが分からない、私の伝えたいことが伝わらないということは授業だけでなく、修学旅行や卒業式の準備などの話し合いでもあり、すれ違いが多くて苦しく、つらかった」と語った。
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女子生徒は、授業について行けずに孤独感に襲われたとし、意見陳述を終えると安心したように両親とほほ笑んだ。
本人の意向で法廷に立ったという女子生徒は、閉廷後の記者会見で「意見や気持ちを裁判長に伝えることができて安心している。ろうの子供が分かりやすい言語で学べる環境を確認し、今の様子を変えてほしい」と話した。
道側は「教育関係法令で『日本手話で学習を受ける権利』を具体的に記した規定はない」などと主張し、控訴棄却を求めている。
控訴審はこの日で結審し、判決は9月に言い渡される予定。【谷口拓未】
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