
NHKのドラマといえば、すぐに浮かぶのが大河ドラマと“朝ドラ”こと連続テレビ小説だが、それ以外にも『ドラマ10』や土曜ドラマ、海外ドラマの枠がある。
もともとニュースやドキュメンタリー、教育番組のイメージが強いNHKは、ドラマの数は民放1局に比べても圧倒的に少ない。しかし、テレビ誌のライターによると、
「数が少ない分、1本、1本がじっくり練りこまれ、丁寧に作られているように感じます。1本当たりの製作費もかけられますから、出来のいいドラマが生まれています。視聴者もそれに気づいたのか、最近は“NHKのドラマは民放のドラマと一味違っていて、よく考えられていて面白い”という声を聞くようになりました」
“乱造”を避けることで、“高品質”になっているのではないかという。
ジャニーズ問題以降、方向性の変化
ネット上の反応も、大河や朝ドラに関するものが多いのは依然と変わらないが、最近は、ほかのNHKドラマに対する書き込みも増えている。その背景について、NHK関係者はこう話す。
|
|
「シンプルに、NHKのドラマを見る人が増えたからです。昔から良い作品を作っていたのですが、大河や朝ドラ以外はなかなか注目されず、メインストリームに上がることがなかった。ひと昔前は視聴率に捉われないで、自分たちの作りたい番組を作る傾向がありました。“それがNHKなんだ”なんて変なプライドもありましたが、そんなことを言っていられる時代じゃなくなりました。
受信料などの問題もあり、NHKに対して批難の声も増え、中には“NHKなんていらない”という人までいますから。若者だけでなく、テレビを見ない人が増えた今、“見てもらえる番組を作らねば”という思いが強くなったと言えるでしょう」
さらに、あの“事件”も影響しているという。
「『ジャニーズ問題』では、NHKもいろいろ批難されました。検証番組を作りはしましたが評判は悪く、“NHKの報道は何をやっているんだ”“腰が引けてるじゃないか”と、批難の声は止みませんでした。そこで気骨のあるスタッフが、“せめて面白いドラマを作って、みんなに見てもらえるようにしよう”と、そんな機運が高まったんです」(同・NHK関係者)
その上で、「若者よりは、“テレビっ子”世代だった人たち、それもドラマをよく見る女性層をターゲットにしてドラマを作ろう、という方向性になったようです」(前出・テレビ誌ライター)
|
|
NHKドラマは「実生活に近い内容」が人気
確かに、最近のNHKドラマは女性ウケしそうなドラマが多い。しかも放送時間は、主婦が家事を終えて落ち着いたころ、あるいは帰宅してひと息ついたころという割と遅い時間帯。子どもも寝てしまうか、自分の部屋に行き、落ち着いてテレビを見ることができる時間だ。
その結果が表れたのか、注目度が高く人気となっているドラマが、毎週火曜日のドラマ10シリーズで現在放送されている『しあわせは食べて寝て待て』だ。タイトルからして“のんびり感”が漂っているが、原作は水凪トリ氏の人気同名漫画。
週4日のパートで質素に暮らす38歳・独身の麦巻さとこが主人公で、NHKの公式サイトではドラマについて《健康、仕事、マンション、将来設計… 色々なくした主人公がマイナスから始まった暮らしの中で手に入れたのは―。(中略)地味だけど身体においしそうな薬膳ご飯とたおやかな団地の人間関係を通して、 心身を取り戻していくさとこは、身近にあった自分次第のしあわせに気づいていく。 お粥(かゆ)のように、おなかの底からじんわりと温かくなる物語が始まります》と紹介されている。
さとこを演じるのは、朝ドラ『虎に翼』に出演して注目を集めた桜井ユキ。《地味だけど身体においしそうな薬膳ご飯》と公式サイトにあるが、ドラマの内容も地味だ。しかし、このドラマがなぜか人気で、NHKプラスでの同時・見逃し配信では、2020年4月以降に配信された全ドラマの中で最高視聴数を記録した。特に大きな事件や事故、腰が抜けてしまうような出来事もなく、パートで働く女性の平凡な日常が描かれたこのドラマが、どうして人気なのか。
「昨年、ギャラクシー賞を受賞したNHK BSの『団地のふたり』も評判になりましたが、“団地モノ”は人気があるんです。また、最近は週刊誌などで食品ロスや生活習慣病の予防など“食”に関する記事が多く見られ、注目を浴びています。“団地”と“食”は現在のトレンドでもあるんですね」(制作会社関係者、以下同)
|
|
さらに、
「女性が主人公というと、主人公が刑事や弁護士、医者など庶民が憧れる専門職に就いていて、目覚ましい活躍をする……そこまでいかなくても、男性より仕事ができるOLとか熱血教師、ドジな看護師など、何かしら仕事をしている“キャリアウーマン”のドラマが多く、それはそれで痛快さがあっていいと思います。
ただ、やはり現実離れしていることもあり、最近はもっと実生活に近い内容で“そう、そう、こんなことあるよね”と共感しながら、ゆったりした穏やかな気持ちで見ることができるドラマが人気です。“仕事が大事”から“日常の生活、自分の幸せが大事”と、ライフスタイルが変わってきたことの現れじゃないでしょうか。民放でも、なんてことのないストーリーのTBS系『対岸の家事』やフジテレビ系『続・続・最後から二番目の恋』がウケています。それと『しあわせ〜』はキャストがいい。むやみに人気アイドルを起用していないし、演技に定評のある俳優たちで安心して見ていられます」
世相を反映したドラマはヒットしやすいと言われているが、今の時代に求められているのは“ヒーロー”ではなく心の“平穏”のようだ――。