オンラインカジノに「ブロッキング」が有効ではないと考える“3つの理由”

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2025年05月16日 11:41  ITmedia NEWS

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 今年2月ごろから報道で大きく取り上げられた、芸能人やスポーツ選手によるオンラインカジノ賭博問題。オンラインカジノは、それが合法である国や地域を本拠地としているため、その存在そのものが違法なわけではない。しかし日本からアクセスして有料で賭けを行うことは違法である。このことは多くの報道により、広く認知はされたのかなとは思う。


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 あれから2カ月半あまりが経過し、徐々に被疑者の書類送検が始まったことで、世間的には一段落したような雰囲気が漂っている。しかし実際には目立つ人の検挙が報じられただけで、一般人の関与者の捜査も行われている。実際にそちらのほうが人数が多いわけで、その対策は日本政府や社会全体にとって重要な課題である。


 ギャンブル等への依存症対策は、内閣官房に専門の対策推進本部があり、政府にはギャンブル等依存症対策推進基本計画を策定する義務がある。少なくとも3年ごとに見直しが検討されている。また各都道府県にも、同様の依存症対策推進計画の策定が義務付けられている。


 これと同調する形で、オンラインカジノの対策については、各省庁にもそれぞれ所管する法律上での対応が求められている。総務省では通信行政を所管するということで、ブロッキングを含めた対応の検討会が設置された。第1回目は4月23日、第2回目は4月28日とかなり早いペースで実施されているところだが、筆者は一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事として第2回目に参考人として報告を行った。


 まだ具体的に検討を開始するというより、現段階では各方面からの情報を収集している段階であるが、今回はその第2回で報告されたデータを中心に、オンラインカジノの問題点を整理してみたい。


●疾病としてのギャンブル依存症


 ギャンブル依存症は比較的古くからある疾病であり、その定義や治療法も確立されているところだが、医療機関から見た状況が、国立病院機構 久里浜医療センターから報告された。


 同センターに初診として来院した患者から、主に行っているギャンブルの動向を、パンデミックの前後で比較した資料がある。これによれば、2017年4月から2019年3月までの調査では、パチンコ・パチスロが6割超であり、公営オンラインギャンブルおよび非合法オンラインギャンブルの割合は、合計でも14%程度である。


 一方パンデミック後の22年6月から24年5月までの調査では、公営オンラインギャンブルが最多の40%となり、非合法オンラインギャンブルも19%となっている。オンラインというくくりで見れば、50%を超える。


 合法な公営オンラインギャンブルというものがあるのかと思われるかもしれないが、これは競馬や競艇などの公営競技の投票券を、ネットで買うという行為である。逆にこうした公営ギャンブルを実際に競技場で行う人の割合は、わずか1%程度である。


 これは「依存症として来院した人の割合」なので、実際の投票券購入者の割合ではない。しかしオンライン購入であることが、大きく依存症につながるという傾向は見て取れる。


 もう少し広い調査として、専門医療機関へギャンブル依存症として受診した人の性別、年齢で分類したデータがある。これはオンラインに限らなういギャンブル依存者数という事になるが、男女別に見れば圧倒的に男性が多く、新規受診・入院患者数ともに30代が最多、次いで20代、40代という傾向になっている。


 公益社団法人 「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中 紀子氏からは、同団体から支援を受けているオンラインカジノ経験者にアンケート調査を行った結果が報告された。こちらは調査母数は少ないが、違法なオンラインカジノに限定した調査となっている点で貴重である。


 年齢の内訳としては、30代が合計54%で最多、次いで20代の22%、40代の21%と続き、割合順位は久里浜医療センターの調査とおおむね一致する。


 また登録したオンラインカジノサイト数の調査も興味深い。初回ポイントを狙って複数サイトに登録するということで、1人が非常に多くのサイトとつながる実態が見て取れる。


 またオンラインカジノを始めたきっかけとして、「広告やSNSでみかけたから」「YouTubeや配信サイトで見て興味を持ったから」が2トップとなっており、ネット上の情報に触れたことが大きい。


 深刻なのは、オンラインカジノを始めてから借金するまでの期間の短さだ。実に63.4%の人がオンラインカジノを始めて1カ月以内に借金を始めているという。


 参考までに08年の調査データもあるが、このときはギャンブル開始から借金へ転落するまで7年かかっている。勝負のスピードがこれまでのギャンブルと違いすぎることから、オンラインカジノではいかにあっという間に負けるのかということが浮き彫りになっている。


 借金する先は、親や兄弟などの家族だけでなく、友人なども含まれる。またいわゆる闇金と言われる金融業者からの借り入れは41.1%にも上る。さらにはオンラインカジノを原因としての犯罪行為も46.2%にも上り、その内訳は横領、窃盗・万引きなどの犯罪に続き、口座売買や携帯の転売などの闇バイトにも及ぶ。


●どのような対応が考えられるか


 オンラインカジノの問題は、単にアクセスして課金して遊ぶことが違法、というだけにとどまらない。広告展開やサイトの作り、利用規約、青少年保護の観点など、多数の問題が指摘されている。


 筆者が「Stake」というオンラインカジノサイトの利用規約について調査してみたところ、利用禁止国が列挙してある中に、日本の名前がなかった。また合法である地域からのアクセスの保証は利用者側の責任となっており、違法な国からのアクセスに対しては運営側には責任がないという立て付けになっていた。


 また広告についてはマスメディアではかなり自粛も進んでいるところだが、有象無象のネット動画共有サイトに挿入される広告は依然としてあるようだ。


 オンラインカジノへのアクセスそのものは違法ではなく、また無料で遊んでいるうちはただのオンラインゲームサイトと変わらないので違法ではないという解釈も存在する。しかし実際には無料と有料の境目が明らかでない、あるいは無料をうたいながら最初から有料でしか遊べないといったサイトも存在する。こうした違法サイトへの誘引を促す「広告」についても、違法化の方向で議員立法による議論が進んでいる。


 ここではおおまかに、オンラインカジノに関わる可能性があると筆者が考える法律をまとめてみた。法律の専門家からみればまた違った解釈もあるかもしれないが、その点はご容赦願いたい。


 これ以外には、オンラインカジノでクレジットカードが使えてしまうことに関して、後払い、すなわち借金で掛ける事ができること自体が問題だろうという指摘もあるところだ。これに関しては政府からもクレジット会社へ注意喚起を行っているところだが、実際に決済するのはオンラインカジノとは関係ないように見える、いわゆるトンネル会社を通しているため、なかなか対策が進んでいない。


 また家族がギャンブル依存者本人のクレジットカードの停止を求めても、医師の診断書が無ければ止められないといった事情もあり、このあたりの仕組みがうまくいっていない。なぜ医師の診断書の入手が難しいかというと、ギャンブル依存の本人はただひたすらギャンブルがやりたいだけなので、医者になどかからないからである。ひとたび依存と診断されればギャンブルができなくなるからだ。


 民法における成年後見人制度を利用すれば、指定された第三者が本人の財産の管理が可能だ。だがその条件として、「精神上の障害により判断能力が著しく不十分」と家庭裁判所が判断できなければならず、これにはやはり医師の診断書が大きなポイントとなる。


 青少年保護という観点で見れば、18歳未満の青少年については青少年インターネット環境整備法によって、スマートフォンのフィルタリングが義務化されている。フィルタリングは年齢や学齢ごとにプリセットが設けられているが、そのどれもギャンブルに関してはフィルタリングされており、アクセスすることができなくなっている。従ってオンラインカジノ問題についても、フィルタリングは有効な手段だ。


 加えてオンラインカジノのほとんどはアプリ化されていることから、ペアレンタルコントロールによるアプリインストール制限も有効だ。ただ課題として、保護者がオンラインカジノのアプリ名など知らないという事である。無料のオンラインゲームならと許している保護者もあると思うが、アプリ名を知らなければ制限もかけられない。


 ここでは警察庁が25年1月に公開した調査資料より、オンラインカジノの主要40サイトの一覧を貼っておく。お子さんのスマホに該当するアプリがないか調べる参考にして頂きたい。


●オンラインカジノに「ブロッキング」が有効ではない3つの理由


 総務省の検討会では、オンラインカジノに対してブロッキングするべきかということも含めた検討が行われている。


 過去ブロッキングが実施されたのは、11年の児童ポルノ規制に関わるものだけで、18年に海賊版サイトである「漫画村」らに対しての実施が検討されたが、その前に漫画村が閉鎖されたため、実施されなかった。


 そもそも国や政府がISPに対してブロッキングを指示することは、憲法に規定された「通信の秘密」や「検閲の禁止」に抵触する。児童ポルノの時には、人権保護のための緊急避難措置であるという立て付けで憲法違反を回避した。


 漫画村の際は、政府が指示するのではなくISP事業者が自主的にやります、という立て付けにすることで憲法違反を回避しようとした。しかしそんなマヤカシが通用するとは思えず、裁判すればおそらく国が負ける。また全てのISPが自主的に実行するとも思えないので、実施したって穴だらけである。


 オンラインカジノに対して、緊急避難が使えるかどうかは多分に政治判断であり、筆者には判断できない。またISPが自主的に、という立て付けも、ISPやブロッキングリストを提供する団体が裁判によって違法行為となる可能性があることから、積極的にやる方向にはないだろう。


 しかしこうした立て付けの問題とはまた別に、ブロッキングが有効でないと思われる3つの理由がある。


 1つ目は、2011年からずっと児童ポルノに関してはブロッキングをやり続けているが、それに効果があったのか誰も観測していないということだ。そもそも何をどう測定すれば効果ありと判定できるのか、その条件すら定かでない。つまりこっちから一方的にのぞけないようにフタをしただけなので、フタの向こう側でそれが効いてるのかどうか、分からないのである。


 2つ目の理由は、ブロッキングを実施すると、それを回避するためにミラーサイトが山のように発生して、究極のモグラたたき状態になるということだ。ミラーサイトが林立すればそれだけアクセスもまた容易になってしまうので、抑制するつもりが、かえって逆効果になりかねない。


 3つ目の理由は、ブロッキングに対しての回避方法がすでに研究され尽くしているという事である。ブロッキングは今から15年も前に実施されたもので、方法論も変わっていない。このため、VPNを使って回避できることは、ちょっとネットワークに詳しい人なら知るところとなっている。


 自分でオンラインカジノにつながるVPNを探すのは面倒だが、今はSNSなどで簡単に情報が手に入る。またほとんどのオンラインカジノはアプリ化しており、アプリにVPN機能を持たせることで、利用者は何も考えずにブロッキングを回避できる状況になるという最悪のシナリオを、軽視すべきではない。


 つまり憲法違反を覚悟でエイヤッと実施しても、効いてない、あるいはさらに状況が悪くなった、ということになり得る。それよりも上記にまとめたように、サイトの作りや表示、広告が問題だらけであり、まずはそこからガンガンに対策を打つという、政府の強い姿勢をオンラインカジノ運営者に見せるべきである。


 特に景品表示法は、サイト運営者が日本企業でなくても、日本語で日本人向けに運用していれば適用できるという、強い法律である。サイトに対しての利用契約が無効化できれば、負けても資金回収はできない。日本人をいくら相手にしてもお金が入ってこないという仕組みを徹底することだ。


 恐らく25年度内には、オンラインカジノ関連の対策がまとまるだろう。各省庁も懸命にやっているところだが、懸念すべきはあまりにもメディアがこの問題に対して無関心ということである。第2回の検討会も、オンラインでは多少居たのかもしれないが、会場での取材傍聴はゼロだ。これはあんまりだろう。


 筆者は今後も引き続き、この問題と検討会の内容を取材していきたい。



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