
東京・目黒川沿いにある『焼鶏あきら』。ハイボール片手に楽しげに話すのは、作家・燃え殻さん(51)とBE:FIRSTのLEOさん(26)。異色の組み合わせに見えるが、二人のファンの間では“親友”として知られている。
親友としての出会いはラジオ
「うまっ! 燃え殻さん、軟骨も食べる派ですか?」、手羽先にかぶりついたLEOさんが聞くと、「ん? 食べない派(笑)」と、燃え殻さん。
LEO(以下、L)「俺、食べる派なんです」
燃え殻(以下、燃)「若いから歯が丈夫なんだな」
気負わないやりとりが、二人の仲を物語る。メインの鶏すきやきの鍋が運ばれてくると、「お〜!」と歓声がそろい、息もぴったりだ。出会いは3年前。燃え殻さんのラジオ番組にLEOさんがゲスト出演したのがきっかけだった。
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L「最初は俺の片思い。燃え殻さんの小説のファンだったので。思い切ってオンエア中にLINE交換してもらって、それ以降、時々飲みに行く仲になったんです」
記者が「さぞ、おしゃれな店で……」と口にすると、すかさず「おしゃれな店? いや、全然、って俺が言うのもなんですが(笑)」とLEOさんが横目で笑いかける。
燃「まあ、おしゃれじゃない、僕の行きつけのゴールデン街の安心できる飲み屋です。LEO君とは倍くらい年が離れてるけど、共通点を見つけたくなるような人で、実際、すごくいっぱいあったんです」
L「そうっすね。ふだん人に言わない、傷ついた話とかも燃え殻さんにはできたし」
燃「LEO君の話に、『俺だって、こんなに深い傷があるぞ』って謎に張り合ったり(笑)」
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L「気づいたら7時間もぶっ通しで飲んでました」
燃「今日も昼から飲み始めちゃったから、今夜も長くなりそうだなあ(笑)」
新刊『この味もまたいつか恋しくなる』の感想
L「新刊、読ませてもらいました。2日で読み切っちゃうほど、すごい浸透力の高いエッセイでした」
燃「ありがとう。以前、阿川佐和子さんと対談したとき、『自分が興味のない、例えば“レタス”っていうテーマでも、10本書けるのがプロ』って聞いたんだけど、今回一冊にまとめた『週刊女性』の連載は、まさにレタスでした」
L「レタスですか」
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燃「僕はサッポロ一番のラーメンでも気がすんじゃう人間なのに、テーマが『食』で。こんな人間が、食にまつわることをどう料理して書くか、プロとして試されたように思います。でも、食をキーワードに人との思い出を描くことで僕らしさが出せたなぁと。エッセイなんだけど、短編小説のような作品に仕上がったと感じています」
L「燃え殻さんの書くものって『しゃべってる』ような温度感なんです。友達と『今日、こんなことがあったんだ』『えっ、マジ!』っていう、あの感じ。もともと本が苦手だった俺が、初めて読めたのが燃え殻さんの小説だったんですけど、コンビニのおにぎりみたいに身近な目線で書いてくれてるから、すーっと心に届くんですよね」
燃「僕自身、あまり本を読んでこなかったから、読みやすさは工夫してます。自分が書けない漢字はひらがなにしたり、音読してみて引っかかるところを直したり。できる限りノイズがない、ストレスを感じない状態で読んでもらえるように。今、TikTokとかエンタメがあふれてるけど、負けないくらいに面白くてサクッと読めて、読まなかった自分より、読んだ自分のほうがいいなと思えるものになればなって」
L「俺、ファンや友達に燃え殻さんの本をすすめるとき、この本のここが好きって具体的に言わないんです。人によって刺さる部分は違うから、先入観なしで読んでほしくて。俺自身、たまたま本屋で手に取って、真っ白な状態で読んで、燃え殻さんの本に影響を受けたので」
燃「親子みたいに年齢差あるけど、僕もLEO君にすごく影響を受けてる。最初に飲んだのは3年くらい前?」
L「BE:FIRSTを結成して、ファーストアルバムが出たばかりのころですね」
燃「LEO君、『東京ドームに立ちたい』って熱く夢を語ってたけど、僕は簡単じゃないだろうなって思ってた。夢で終わっちゃう人がほとんどだから。でも2年後、本当にドームに立ってた。僕がLEO君のすごさを感じるのは、夢を実現しただけでなく、メジャーになったことで取り巻く環境が激変したはずなのに、まったく変わらないところ。調子に乗ったり、偉ぶることもなく、意地でも変わらないの(笑)」
L「俺、今も普通に地元の友達と会ってるし、小、中学校のころ、野球部だったから、事務所でバット振ってます!」
燃「事務所で!?(笑)出会った当時、僕は小説がNetflixで映画化されたり、J―WAVEでラジオ番組を持ったり、驚くほどいい波が来て、有頂天になってた。法事の席で、意味もなく親戚のおじさんに自慢したり(笑)。もともとテレビの下請け会社で過酷に働いて、40過ぎて、たまたま物書きになった人間だからね。取り巻く環境が変わって、自分のテンションがわからなくなってたんです。そんなとき、LEO君と知り合って、一気にスターの階段を駆け上がっても、周りの人を大切にしながら、ブレずに自分の音楽をやっていく姿を目の当たりにして、スゲー勉強になったんだよなあ」
L「あくまでも人気があるのはBE:FIRSTの歌で、自分が人気者とか思ってないからですかね。BE:FIRSTに入って幸せな時間は増えたけど、それでも悩んだり、もがいたり、世の中のトーンが少し落ちて見えるときがあります。そんなとき、燃え殻さんの『運命は過去形がよく似合う』って言葉を思い出します。今、つらくても、その時間には意味があって、何年かたったら笑って話せる過去になる。俺、この言葉が大好きなんです」
粋な祖父を思い出す味
燃「今回の対談、テーマが『食』なんだけど、LEO君の思い出の味は?」
L「思い出の味ですか──、納豆卵かな」
燃「納豆卵?」
L「納豆に生卵を混ぜて、ご飯にかけるやつ。子どものころ、母方のじいちゃんが、遊びに行くたび、必ず作ってくれたんです」
燃「どんなおじいちゃんなの?」
L「すごく厳しかったですね。よく怒られたから。でも俺は、じいちゃんが大好きで、じいちゃんが好きなものは俺も好きになってました。野球もそうだし、焼き芋とか干し芋なんかも。今も、メンバーが『ハンバーガー食べたい』って言うとき、俺、『干し芋食べたいなあ』って思っちゃう」
燃「LEO君が干し芋かあ(笑)」
L「うちは両親が共働きだったので、俺が熱を出したときとか、じいちゃんが世話してくれたんです。子どもだからじっと寝ていられなくて。起き出すと、怒られて。じいちゃんが昼寝してる間に、こそっと遊んだり、トムとジェリーみたいでした。今はひ孫もいて、デレデレです。俺のときとずいぶん違うって文句言ったら、『おまえは言えばわかる子だから』って。なんか、そういう言葉を素直に受け取れるんですよね。俺の基盤になった人だと思います」
燃「LEO君のまっとうなおじいちゃんの話のあとでなんだけど、うちの父方の祖父は職業不定だったんです。もう亡くなってますけど」
L「そうなんすね」
燃「おばあちゃんが自宅で一杯飲み屋をやって生計を立てて、おじいちゃんは茶の間で野球見てるような人でね。子どものころ、『天ぷらうどん食いに行こう』って近所の店に連れてってもらったことがあるんだけど、食べながら『絶対誰にも言うなよ』って何度も念を押すわけ」
L「なんで秘密なんですか?」
燃「まったくわかんない(笑)。でも、そういう会話と一緒に、天ぷらうどんとじいちゃんが強烈に記憶に刻まれたりするんだよね。なぜかおしゃれで、僕と公園に行くときも、『どの帽子にするか』って、待ちくたびれるほどこだわったりして。いつだったか、喫茶店に入ったら、『あら』なんておじいちゃんと同年代の女の人が声をかけてきて、おじいちゃん『ああ』なんて手を軽くあげて照れてるの。子ども心に、怪しい!って思いましたね」
L「モテたんですね」
燃「そうだと思う。働かないし、やる気もないし、“ま、いっか”みたいなマインドで生きてるのに。でも、おばあちゃんは、おじいちゃんのことが好きで、僕も、ああなったらヤバいぞって思いながらも憧れてた」
L「なんか、わかる気がします」
燃「本の中で、駄菓子屋のおじさんが出てくるんだけど、その人を例に『立派な大人のフリがうまい人間と、うまくフリができない人間がいる』って話を書いたんだよね。僕を救ってくれたのも、立派な大人より、むしろ、おじいちゃんや駄菓子屋のおじさんみたいなダメな大人だった。
僕、大槻ケンヂさんや中島らもさんの作品が好きで読んでたんだけど、ダサいところを見せられることで安心できたというか。『俺、こんなに偉いんだぞ』とかじゃなくて、『ゴメン、俺、この年になってもわかんない。おまえわかんなくても恥ずかしくないぞ』って言われてるようで。まねごとでもいいから、僕もそういう大人でありたいと思ってる節があるかも」
L「燃え殻さんと最初に会ったころ、実は俺、見えない壁にぶちあたってたんです。でも、話してるうちに、あ、こっちにドアがあるなって気づかせてもらえて。燃え殻さんが、立派な大人のフリをしなかったからだと思います」
おふくろの味
L「おふくろの味って、特に意識したことないけど、あえて言うなら手羽元ですかね。BE:FIRSTになって初めて実家に帰ったときも、『何食べたい?』って聞かれて、『手羽元』って即答しました。甘辛く煮てあって、うまいんです」
燃「僕は手作りじゃないんだけど、マ・マーのパスタソースかな。こないだコンビニで見かけて、久々に食ったらうまくて。俺のおふくろの味、コンビニで買えるなって」
L「缶詰とかのミートソースですか?」
燃「うん。子ども時代に毎晩、パスタソースを温めて、妹と二人で食べてたの。母親が、僕の家庭教師代を稼ぐために夜までスーパーのパートをしてたから。ある晩、僕がパスタソースを鍋ごとひっくり返して妹と泣いてたら、帰ってきた母親が、叱るどころか僕らを抱きしめてオイオイ泣いてね」
L「お母さんが……」
燃「母は我慢強い人なので、文句ひとつ言わなかったけど、疲れていたし、寂しかったんだと思う。今、母はあまり体調がよくないんだけど、久しぶりに食べたパスタソースがおいしかったのは、そんな思い出ごと味わえたからかもしれない」
L「うちの家族は、燃え殻さんちと反対で、意見をぶつけ合うっていうか、いつも討論しまくってます」
燃「熱いね!(笑)」
L「もう、煮えたぎってますよ(笑)。例えば、テレビで事件や政治のニュースをやってると、どうしたらいいか、家族でメチャ意見を言い合うんです。うちの食卓で討論しても、世界は何も変わらないのに。そんな家族なので、以前、実家に遊びに来た(メンバーの)SOTAやMANATOにも、『LEO君がたくさんいる』って言われました(苦笑)」
燃「アハハハハ」
L「俺が自分の意見を言うように育ったのは、間違いなく、両親の影響ですね」
燃「僕もそうだけど、LEO君の歌の世界も『正解がない商売』だから、自分の正解を言い張るしかないところがあって。LEO君はブレずに自分の正解を持ってるけど、それだけじゃなくて、このとおり、礼儀正しくて、まっすぐな人だから、周りからも愛されてる。4月から始まったワールドツアーも、ファンの人たちだけじゃなく、僕らが行きつけの飲み屋のマスターやママさんまで、『まずはロンドン!』とかってチケットを買って、もう親戚みたいに楽しみにしてる」
L「ありがたいです」
燃「LEO君は、自分が正解と思うことに、『それ、正解だよ』って言ってくれる人を増やしていくんです。そういうところ、僕はLEO君から教えられた気がします」
L「親からはまだまだ子ども扱いされてますけどね。この間もワールドツアーの前に、顔でも見せとくかって実家に帰ったんです。親にちょっと近況を話したら、説教が始まって大ゲンカ」
燃「ワールドツアーと親子ゲンカが同じ土俵に乗るところがLEO君らしい(笑)」
L「父親の説教が終わったら、次は母親ですよ。感謝の気持ちを忘れるなって、わかってることをくどくどと。もう予定を切り上げて、さっさと帰ってきました」
燃「親の愛だね」
L「まあ、そうですね。ツアーが終わったら、また顔を出そうと思ってます」
取材・文/中山み登り ヘア/大城祐樹 メイク/マキノナツホ スタイリスト/安本侑史 撮影協力/焼鶏あきら 中目黒本店 (東京都目黒区中目黒1丁目10–23リバーサイドテラス106 TEL:03–3793–0051)