
「働き控え」の壁になっているとして話題になっている「年収の壁」。特に、パート・アルバイトとして扶養の範囲内で働く人たちにとって大きな課題になっています。
【漫画】11月と12月は「社員は有給NG」状態に…(全編を読む)
2025(令和7)年度の税制改正では、扶養控除の対象となる所得の上限が48万円から58万円に引き上げられたほか、給与所得控除も見直され、これまで年収の上限として意識されてきた“103万円の壁”は“123万円の壁”へと緩和されました。控除の枠が広がった一方で、「扶養控除の範囲内で働きたい」と考える人たちの“就業調整”の実態には、依然として課題が残っています。
年収の上限を意識した働き方が長く続いてきた中で、扶養の範囲に収めようと働き方を調整してきた人たちと、その影響を受けてきた雇用側や現場の同僚たちに話を聞いてきました。
いつも代わってくれる人も…12月に入ると「ごめんね」
Aさん(関東在住、30代、パート)はふたりの小学生の子どもを持つ主婦。週に3日〜4日程度、子どもが学校に行っている時間を中心にスーパーでレジ担当としてパート勤務をしています。
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普段は曜日と時間を固定して働いていますが、授業参観や子どもの急病などで他のパート仲間に代わってもらうことも珍しくありません。幸い、パート仲間のお子さんはすでに高校生以上がほとんどで、急な予定変更にも快く対応してもらえる環境だそうです。
そんな良好な人間関係に恵まれているAさんの職場ですが、12月が近づくとこれまで気軽にシフトを代わってくれた人たちが次々と「ごめんね、もう今年はムリなのよ〜」となってしまうのが毎年恒例。Aさんにとっても「扶養の範囲内」は必須条件のため、逆に余裕がある時は多少の体調不良でも無理をしてパートに出るそうです。
「もっと働けるといろいろ楽になると思うんですけど。今の金額って中途半端だと思います」と、毎年愚痴を言い続けているのだとか…。
11月と12月は「社員は有給NG」で乗り切ってる
Bさん(関東在住、30代、飲食業)は大手飲食チェーン店に勤めている会社員。店長として、店舗の人材管理も担っています。
そんなBさんが毎年頭を悩ませる原因の一つになっているのが年末の働き手の確保です。
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パート・アルバイトスタッフの多くは収入を月8万円ほどに設定しています。「食費も上がっているし、もう少し収入を増やしたいな」と考えるスタッフは多いものの、「夫の会社からの扶養手当と扶養控除のことを考えると、規定の合計所得金額をこえることは考えられません」というケースがほとんどです。
これまでは店舗ごとにいる数人の社員に暗黙の了解のもと「11月と12月は有給の申請をしない」運用でなんとか回してきましたが、ここ数年で上がった時給でより早く制限が来るうえ、最近の新入社員は「有給は権利ですから」とお構いなしだとか。
「とにかく自動化、省力化、機械化を進めなければ飲食業がもう回らないと思います。来年から多少緩和されると聞いていますが、また最低時給もあがるらしいですし…」
働き手が足りない問題を解消するための線引き、難しそうです。
「私、今いくらですか??」の問い合わせ対応面倒すぎる
Cさん(関東在住、40代、経理事務職)の勤める会社ではイベント運営の際登録したアルバイトスタッフに声をかけ、その時々で必要な人員を確保して働いてもらうため、多いと数百人の登録スタッフの管理をする必要があります。人によって働く日数や時間、任される仕事によって時給も違い、毎月平均的に依頼があるわけでもありません。
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そのせいか、年末が近くなってくると増える問い合わせが「私、今年はいくら働いてますか?あといくら分働けますか?」という問い合わせです。
給与明細を取っておけば自分で計算できるはずですが、なぜか「捨ててしまいました」「1カ月分だけみつからなくて」と問い合わせをしてくるスタッフが毎年多数なのだとか…。
「この確認だけで相当な時間がとられます。自分で確認できるシステムを導入できるほど大きい会社ではないんですけど、マイナンバーとかで何とかならないでしょうか」
全体の6割超の企業で発生している就業調整
日本商工会議所の「商工会議所LOBO(早期景気観測)」によると、「就業調整による人手不足問題に直面」と回答した企業は28.2%、特に小売業では37.7%と高くなっています。
2025(令和7)年度の税制改革で、この就業調整による人手不足感がどのように緩和されるかに注目です。
【参考】
▽日本商工会議所|商工会議所LOBO(早期景気観測)2025年2月調査結果
▽国税庁|令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。
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