Appleが加速するインクルーシブな試み 2025年内に導入予定のアクセシビリティー機能を発表

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2025年05月19日 12:21  ITmedia PC USER

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App StoreのCVS Healthアプリ商品ページに表示された「アクセシビリティーラベル」(Accessibility Nutrition Labels)

 5月の第3木曜日は、「世界アクセシビリティー認識デー」(Global Accessibility Awareness Day/GAAD)だ。米国時間でのGAADに合わせて、Appleのティム・クックCEOが2025年に搭載予定のアクセシビリティー機能についてXに投稿した。


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 この40年間、私たちは最高のテクノロジーはアクセシビリティーを考慮したものだと信じてきました。より多くの人々が世界をナビゲートし、自分を表現し、つながりを保つことができるように、新しいアクセシビリティー機能を共有できることを誇りに思います。 #GAAD


 Appleはこの10年ほど、毎年この時期に、その年に搭載予定のアクセシビリティー機能を発表している。2025年の新機能の目玉は、App Storeの「Accessibility Nutrition Labels(アクセシビリティーラベル)」、Macのための「拡大鏡」、「点字アクセス」、「アクセシビリティーリーダー」が追加される他、「ライブリスニング」「パーソナルボイス」そしてvisionOS対応などだ。以下で、その詳細を見ていきたい。


●何より画期的な「アクセシビリティーラベル」の表示義務化


 2025年搭載予定のアクセシビリティー機能の中で、画期的なのはアクセシビリティーラベルだろう。英語での機能名は「Accessibility Nutrition Labels」。「Nutrition Labels」とは食品のパッケージなどに印刷されている「栄養表示」のことだ。


 Appleは既にApp Storeで流通する各アプリがプライバシー情報をどのように扱っているかを明示させる「Privacy Nutrition Labels(プライバシーラベル)」の表示を義務付けているが、2026年からはそれに加えてアクセシビリティー機能にどの程度ちゃんと対応しているかの表示が必要になる。


  アクセシビリティ機能は全ての人に向けた機能で、生まれつきの障害を持ってなくても怪我で一時的に片手が使えない人、聞こえが悪くなった人、小さい文字が読みづらくなった人の機能もある。


 そしてアプリがAppleのガイドライン通りに作られていれば、特別なことをしないでも、どのアプリでも使えるはずの機能だ。ただ、アプリによっては他との差別化のために独自開発の機能を搭載していることがあり、こうした機能ではアクセシビリティー機能が使えないことがある。


 これまで、アクセシビリティー機能の利用者がアプリをダウンロードしたら、必要なアクセシビリティー機能が使えなかったという不幸な行き違いが起きており、アメリカ盲人財団のエリック・ブリッジス(Eric Bridges)CEOも「消費者は製品やサービスが自分にとってアクセシブルかどうかを最初から知る権利がある」と述べていた。


 アクセシビリティーラベルは、アプリをダウンロードする前に、そのアプリがVoiceOver、音声コントロール、「さらに大きな文字」、「十分なコントラスト」といった機能に対応しているかを確認し、不幸な行き違いをなくしてくれるという点で画期的だ。


 この表示義務によって、これまであまりアクセシビリティー機能への対応をニーズと感じていなかったアプリ開発者も、そのニーズに気付き、それが今後、新たな顧客層と出会うきっかけにつながる可能性もあるのではないかと筆者は期待している。


 いずれにしても、アクセシビリティー機能を利用している全てのユーザーにとって恩恵の大きな改善であり、Appleがアクセシビリティー機能をどれだけ大事に考えているかという姿勢を示すものでもある。ぜひ、他のOS開発者にも真似して追随してほしい動きだと思う。


●「拡大鏡」がついにMacにも搭載


 一方で、Appleは2025年もたくさんの新アクセシビリティー機能を発表している。最も注目すべきは「拡大鏡」機能のMacへの搭載だろう。


 2016年の登場以来、iPhone/iPadの拡大鏡アプリはただ虫眼鏡の代わりとして身の回りのものを拡大表示するだけでなく、文字を認識して読み上げたり、身の回りの物を認識して声で教えてくれたりするなど、ユーザーの目の代わりになるような機能も提供してきた。


 そして2025年は、ついにこの機能がMacにも搭載される。


 MacとiPhoneで同じApple IDを利用していると、iPhoneをMacの外付けカメラとして活用できる「連係カメラ」という機能がある。Macのための拡大鏡はこの機能またはUSBで外付けしたカメラを利用して、授業や会議中の黒板/ホワイトボードに書かれた文字を見るための補助をしてくれる。


 特に超広角レンズ付きのiPhoneで利用した場合には、デスクビューと言って黒板の文字を写しつつ、デスク上に置いた教科書や資料も同時に写すことができる。


 しかも、黒板の手描き文字などを認識して読みやすい活字に変換してくれる機能も備えている。


●高価な点字メモ機器が不要になる「点字アクセス」


 もう1つの目玉機能「点字アクセス」も、視覚障害者向けのものだ。視覚障害者の中には、授業や会議のノートを「点字ディスプレイ(点字メモ)」という装置で行っている人たちがいる。小型のキーボードのような機器で、表面には点字を表示する帯状のエリアと、点字を入力するための特殊なキーが付いている。帯状のエリアには小さなピンがたくさん並んでおり、これらが動いて点字を形成する。


 ノートを取る人は、この機械を机の上に置き、話されている内容を聞きながら点字キーを指で押し、メモを記録する。さらに、音声を直接聞き取れない場合には、事前にテキスト化された資料をこの装置で表示させ、ピンが動いて表現された点字を指で触りながら読んでいた。


 しかし、Appleの新しいアクセシビリティー機能「点字アクセス」を使うことで、この状況が劇的に変化する。高価で重い専用の「点字ディスプレイ」を持ち歩かなくても、普段使っているiPhoneやiPad、あるいはMacにコンパクトな点字ディスプレイをBluetooth接続して、同じことが実現できるようになる。


 具体的には、ユーザーがiPhoneと小型の点字ディスプレイを接続する。講演者の話や資料のテキストはリアルタイムでiPhoneを通じて点字ディスプレイに送られ、ピンのでこぼことして瞬時に浮かび上がる。


 それを指先で読み取りながら、必要に応じて簡単にメモを取ることができる。また点字入力用のキーで文字を入力すると、その内容は自動的にテキスト化されてiPhoneやMac上に保存される。このため、後から内容を整理したり、他の人と共有することが容易になる。


 「点字アクセス」は数学や理科の複雑な数式を点字で読み書きするための「Nemeth点字」や点字専用の電子書籍ファイル(BRF形式)にも対応するという。


●さらなる新機能も多数発表


 他にも、より目的を絞った機能がたくさん発表されている。「アクセシビリティーリーダー」は、ディスレクシア(識字障害)や視力の弱い人のための機能で、文字の大きさや間隔、色のカスタマイズを可能にし、文章を読みやすく表示する。レストランでメニューが読みにくい場合でも、実世界の印刷物(本やメニュー)をカメラでスキャンして、読みやすい形式に変換することもできる。


 聴覚障害者向けの「ライブリスニング」という機能は、これまでiPhoneが捉えた音声をリアルタイムでAirPodsや補聴器に伝えるのに使われていたが、新たにApple Watchに対応し、音声をリアルタイムで文字に変換しApple Watch画面上で読めるようにしてくれる。


 Apple Vision Proも進化し内蔵されているカメラを活用して、視界に入っているものを拡大表示したり、視界にある物体を認識したりしてVoiceOver機能で読み上げてくれたりする機能が加わる。


 他にも、環境音を調整して「聞こえ」をよくする新しいイコライザー機能が搭載される。


 またiPhoneなどの画面の端に動くドットを表示することで、乗り物酔いをなくす「車両モーションキュー」という機能が、一時、日本でも驚くほど効果が高いと話題になったが、この機能がMacにも対応するようだ。


●視線と頭部のコントロール機能 さらにはBCIまで対応


 ここまでの機能だけで既に十分な革新性を示しているが、Appleの今回の発表はこれだけにとどまらない。


 視線トラッキング機能使用時に、新たに「スイッチ」や「視線停留(Dwell)」によって選択動作が可能になった。これまで視線だけに頼らざるを得なかった操作に、より多様な選択肢が生まれることになる。


 視線トラッキングやスイッチコントロール使用時のキーボード入力も、iPhone/iPad/Apple Vision Proで大幅に改善された。新しい「キーボード停留タイマー」、スイッチ使用時の工程簡略化、そしてiPhoneとApple Vision ProでのQuickPath(指で画面を滑らせるスワイプ入力)有効化などが含まれる。


 ヘッドトラッキング機能により、ユーザーは頭の動きだけでiPhoneとiPadを視線トラッキングと同様に操作できるようになる。これは、手の動きが制限されているが頭部運動は可能なユーザーにとって、新たな操作手段となる。


 だが、注目すべきは新たな操作方法として、ついにBCI(Brain Computer Interface:脳コンピュータインタフェース)をサポートした点だろう(Wallstreet JournalがAppleはスタートアップ企業、Synchronの規格を採用したと報じている)。


 重度運動器障害を持つユーザー向けに、iOS/iPadOS/visionOSでスイッチコントロール用のBCIをサポートする新しいプロトコルが追加される。これは、物理的な動作を必要とせずにデバイスをコントロールできる新興技術だ。


 バックグラウンドサウンド機能では、新しいEQ設定、時間経過後の自動停止オプション、ショートカットアプリでの自動化アクションが追加される。これらの音は気を散らすものを最小化し、集中とリラックスを促進し、一部のユーザーにとっては耳鳴りの症状緩和に役立つとされる。


 パーソナルボイス機能は、発声能力を失うリスクがある人向けに、これまで以上に高速で簡単かつ強力になった。オンデバイス機械学習とAIの進歩を活用し、わずか10のフレーズ録音だけで1分以内に、よりスムーズで自然な音声を作成できる。新たにスペイン語(メキシコ)もサポートされる。


 ミュージックの触覚機能では、楽曲全体または声のみでハプティクスを体験する選択肢と、タップ/テクスチャ/振動の全体的な強度調整オプションが加わった。


 「サウンド認識」に聴覚障害者向けの新機能「名前認識」が追加され、自分の名前が呼ばれたときに通知を受けることができるようになる。


 音声コントロールでは、身体的機能に制限のあるソフトウェア開発者向けに、新しいXcodeプログラミングモードが導入される。また、デバイス間での語彙同期機能も追加され、言語サポートも韓国語/アラビア語(サウジアラビア)/トルコ語/イタリア語/スペイン語(ラテンアメリカ)/中国語(台湾)/英語(シンガポール)/ロシア語に拡大される。


 ライブキャプションは、日本語/英語(インド/オーストラリア/イギリス/シンガポール)/中国語(中国本土)/広東語(中国本土/香港)/スペイン語(ラテンアメリカ/スペイン)/フランス語(フランス/カナダ)/ドイツ語(ドイツ)/韓国語のサポートが追加される。


 CarPlayのアップデートには「さらに大きな文字」のサポートが含まれている。CarPlayでの音素認識機能のアップデートにより、聴覚障害のあるドライバーや乗客は、車内の泣き声だけでなく、ホーンやサイレンなど車外の音についても通知を受けることができるようになる。


 アシスティブアクセス機能では、新しいカスタムApple TVアプリに簡素化されたメディアプレーヤーが追加される。また、開発者はアシスティブアクセスAPIを使用して、知的・発達障害を持つユーザー向けのカスタマイズされた体験を作成できるようになる。


 最後に、アクセシビリティー設定を共有という新機能により、ユーザーは自分のアクセシビリティー設定を他のiPhoneやiPadに素早く、一時的に共有できるようになる。友人のデバイスを借りたり、カフェなどの公共キオスクを使用したりする際に便利な機能だ。


 毎年行われる5月の機能発表は、Apple製品が引き続き最もアクセシビリティーが高いデジタル製品の地位維持に意欲的であることの証拠でもある。ただし、これらの機能のうち、どれが最初から日本語に対応するのか、対応していない機能はいつ頃対応するのか、といった詳細情報については6月開催の「WDC25」(世界開発者会議)まで待つ必要がありそうだ。



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