ダイエット目的で処方薬“マンジャロ”の不正転売が横行。医師は「痩身目的で利用するべきではない」と警鐘

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2025年05月19日 16:31  日刊SPA!

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送られてきたマンジャロ。送り状には架空と思われる日本人名が書かれていた
 週に一度、自分でお腹にペン型の注射を打てば痩せられる――そんな魔法のダイエット薬「GLP-1」*。日本でも近年、多くのクリニックが扱うようになったが、この医薬品の闇市場が水面下に存在していた。その実態に迫った!
*「GLP-1受容体作動薬」は、血糖値を下げる医薬品で、糖尿病治療薬として開発された。食欲を抑える効果があるため、近年は痩身目的での使用が世界的に拡大。日本でも女性を中心に多くのユーザーがいるが、一方で吐き気や下痢などの副作用が報告されている。

◆調剤薬局からの横流し! 大量転売でボロ儲けの実態

「焼き肉をたくさん食べたとき、翌日はお昼になってもお腹がすかないことってありますよね。あの感覚です。常に胃の中に何か入っている感じがして、食べる量が減るので痩せますよ。2か月で4kgくらい体重が落ちました」

 痩身目的でGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)を使う40代のワーママはこう証言する。

 同薬は今や世界的に肥満治療薬として使用されているが、日本では糖尿病治療薬としては保険適用で、ダイエット目的は自由診療での処方になる。この女性の2か月の治療費は5万円だった。

 日本で同薬がはやり始めたのは5年ほど前。今では全国的に美容系以外でもさまざまなクリニックで扱うようになり、オンライン診療で簡単に処方してくれるので、ユーザーも数多い。

 こうしたなか、今、同薬の闇市場が存在しているという。中国事情に詳しいライターの広瀬大介氏は言う。

「知人の中国人留学生が一時帰国するので空港まで送りに行ったんです。彼はバッグに大量のGLP-1薬と保冷剤を詰め込んでいて『上海の税関を通れるか心配だ』と言うんです。中国では今この薬が大人気で、高値転売できるらしいと話していました」

◆自由診療ゆえに誰であっても処方してもらえる

 いったい、どういうことなのか。中国SNS「小紅書」を覗いてみると、「中国語対応でマンジャロ(GLP-1薬の商品名)を処方してくれる都内クリニック一覧」という投稿をさっそく発見。

 銀座や新宿などの皮膚科や内科が掲載されていた。

「アジア系、特に中国人観光客の間で、訪日時にマンジャロを購入するのがはやっているんです。自由診療なので、外国人でも簡単な問診だけで購入可能。なかには調剤薬局内で、提携する医師がオンライン診断して処方するケースもある。とにかく、これが相当儲かるようで、最近はいろんなクリニックがインバウンド向けにやっています」

 こう証言するのは中国人観光ガイドだ。

「通常、1〜2か月分を処方しますが、観光客には半年分やそれ以上処方するクリニックもあります。中国人観光客は訪日前に下調べし、日本でたくさん買って帰り、中国国内で転売するようです」

 容量やクリニックにより違いがあるがマンジャロの価格は1か月分で約2万〜5万円。中国ECサイトを覗くと、ほぼ倍の値段で売られていた。

◆中国国内のマンジャロは注射器タイプかつバングラデシュ製

「中国国内で流通するマンジャロはバングラデシュ製が多く、誰も使いたがらない。しかも注射器タイプなので自分では打てず、ハードルが高い。その点、日本製は自分で打てるペン型自動注入器なうえ、信頼性も高いのでみんな欲しがるのです」(広瀬氏)

 取材を進めると、さらなる闇が見えてきた。小紅書で、堂々と直接販売しているアカウントがいくつかあったからだ。医師の診断なしでの販売はもちろん違法。

 昨夏には、GLP-1薬を転売した疑いで、2人の女性が医薬品医療機器等法違反で書類送検される事件も起きている。

 SPA!記者は、「日本の薬局から直接発送」と宣伝していた女性のものらしきアカウントに接触してみた。

 投稿には中国国内からと見られる購入希望者のコメントが30件以上もついていた。需要が多く、繁盛しているようだ。

◆ 「日本人の知り合いには絶対あげないでね」

 メッセージアプリでやりとりを進めると、この女性は大阪で薬局を経営しており、マンジャロを訪日・在日中国人専門に販売していると言う。

「ほとんど中国に送ってしまって在庫が少ないけど2.5mgなら少しできる。何箱必要なの?」

 価格は1箱(半月分)で2万円。購入する意思を伝えると、「日本人の知り合いにはくれぐれもあげないで」と釘を刺され、ペイペイの送金先を教えてきた。送金の2日後、クール便で送られてきた。

 いとも簡単に処方薬が手に入ったわけだが、こうした行為は蔓延しているようだ。

「日本にある、一部の中国系の調剤薬局からの大量横流しの実態があるようです。SNS上のある闇業者は購入者を安心させるために、某薬局の納品書を載せていたんですが、そこには50箱、100箱と書いてありました」(広瀬氏)

 ジャーナリストの周来友氏は、横流しの源泉となっている中国系調剤薬局の存在についてこう語る。

「日本人の薬剤師を雇えば、中国人でも簡単に調剤薬局が開業できるということもあり、在日中国人コミュニティのある池袋や西川口ででき始めたんです。最近では東京・大阪の主要繁華街でも続々と増えていますよ。日本の処方薬を欲する中国人観光客は多いので、インバウンド向けに特化してボロ儲けしている薬局も少なくないようです。その中でも今一番カネになるのがマンジャロということでしょう」

 同薬は本来、糖尿病患者向けに処方されるものだ。こうした闇市場を通じ、日本から中国に大量に渡っていることは問題だろう。製薬会社や厚労省による対策が待たれる。

◆日本人の間でも横行する不正転売

 ダイエット目的での使用がなぜここまで広まったのか。美容外科医の宮下宏紀氏が言う。

「GLP-1薬の注射は毎週続けなければならないので、定期的に通うことになりクリニック側は一定の収入になる。これを入り口に、ボトックスなどほかの施術も売り込める。GLP-1薬はそのフックになる」

 一方で、日本人の間でも不正転売が横行していると言う。

「一部の生活保護受給者が制度を悪用して内服薬のGLP-1を転売しています。受給者は薬をタダで入手でき、かつ紙の保険証の情報は共有されないので、複数のクリニックで処方してもらえば、ボロ儲けできます」

◆副作用にリバウンドも! 痩身目的使用はリスク大

 そもそもGLP-1薬はダイエット目的で利用するべきではないと、宮下氏は強調する。

「膵炎や敗血症、甲状腺の腫瘍など非常に重篤な副作用を引き起こす可能性がありますし、メンタルにも影響をきたします。ウチのスタッフも2人が服用していましたが、死んだ魚の目のようになっていました」

 さらにはリバウンドを起こす可能性も。

「GLP-1薬を打つと筋肉量が減るので、基礎代謝が落ちます。使用をやめた場合、よほど食事に気をつけないと、ダイエットを始める前よりも太ります」

 この世に魔法の薬はない。

【美容外科医、形成外科専門医・宮下宏紀氏】
東京医科歯科大学附属病院、がん研有明病院形成外科医局長・副医長などを経て、現在はアマソラ/アマシオクリニックで施術を行う

取材・文・撮影/週刊SPA!編集部

―[[ダイエット薬の闇市場]を追え]―

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