スパイ容疑で拘束される日本企業駐在員 意図せず違法とみなされるリスクをどう軽減するか 万が一の危機体制構築も

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2025年05月19日 19:10  まいどなニュース

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中国の習近平国家主席=(c)zixia/123RF.COM

2025年5月14日、中国・上海の裁判所が50代の日本人男性にスパイ容疑で懲役12年の判決を下したことを受け、中国外務省の林剣副報道局長は記者会見で、日本政府に対し、在留邦人に中国の法令を厳守させ、違法行為を防止するよう指導することを要求した。この事件は、中国に駐在員を派遣する日本企業にとって、深刻なリスク管理の課題を浮き彫りにしている。日本企業はどのような対策を講じるべきか。

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 近年、中国当局による日本人拘束が相次いでいる。2014年に施行された反スパイ法以降、少なくとも17人の日本人が拘束されたとされる。

たとえば、2019年には湖南省で50代の日本人男性がスパイ容疑で逮捕され、懲役12年の判決を受けた。また、2023年3月には北京でアステラス製薬の日本人幹部がスパイ容疑で拘束され、同年10月に正式逮捕された。さらに、2017年には山東省と海南省で6人の日本人が「不法行為」の疑いで拘束され、うち4人が後に解放された。これらの事例では、罪状の曖昧さや法的手続きの不透明さが問題として指摘されている。

 意図せず違法とみなされるリスク

まず、徹底した法令遵守が求められる。中国の「国家安全法」や「反スパイ法」は適用範囲が広く、解釈が曖昧なため、企業活動や個人の行動が意図せず違法とみなされるリスクがある。

企業は現地の法務専門家と連携し、駐在員の業務が中国の法律に適合しているかを確認する必要がある。特に、市場調査や情報収集がスパイ行為と誤解されないよう、業務の透明性を確保し、機密性の高い活動には厳格なルールを設定する。たとえば、競合他社の情報収集や政府関係者との接触には、事前承認と記録管理を義務付けるべきだ。

 欠かせない駐在員教育

駐在員への教育も欠かせない。中国に赴任する社員に対し、中国の法制度や文化、スパイ容疑につながるリスクの高い行動について、事前研修を徹底する。

具体的には、機密情報の取り扱い、SNSやメールでの情報発信、公共の場での会話に注意を促し、スマートフォンやPCの監視リスクを考慮して、VPNや暗号化通信、デバイス管理を徹底させる。また、政治的な話題や政府への批判を控えるよう指導する。実際の拘束事例を交えた実践的な研修を実施し、駐在員がリスクを具体的に把握できるようにする。

リスク管理の強化も不可欠だ。中国でのスパイ容疑摘発は基準が不明確で、駐在員が意図せず当局の監視対象となる可能性がある。企業は定期的にリスク評価を実施し、特に日中関係が緊迫する時期には、駐在員の行動や業務内容を見直す。また、現地当局や業界団体との関係を構築し、企業の活動が合法であることを積極的にアピールすることで、誤解や不当な疑惑を軽減できる。さらに、駐在員の安全を確保するため、緊急時の国外退避計画や法的支援体制を事前に整えておく。

 駐在員が拘束された場合は

危機対応体制の整備も重要である。駐在員が拘束された場合に備え、迅速に対応できる仕組みを構築する。現地の法律事務所や危機管理コンサルタントと事前に契約を結び、緊急時の連絡網を整備する。日本大使館や領事館との連携を強化し、拘束時の初動対応(弁護士の派遣、家族への連絡、情報収集)をスムーズに進める。また、メディア対応用の声明や情報公開のガイドラインを準備し、企業の評判を守る。

上海の裁判所の判決に伴う中国外務省の動きは、日中間の外交的緊張や中国の法執行の不透明さが、日本企業にとって重大なリスクであることをあらためて示している。

外国人への監視強化や地政学的リスクの高まりを背景に、企業は慎重な対応が求められる。駐在員の数を抑え、リモートワークや現地採用を活用する戦略も検討すべきだ。コンプライアンス部門と現地法人が密に連携し、リスク情報を迅速に共有する体制も必要である。

中国に駐在員を派遣する日本企業は、法令遵守、社員教育、リスク管理、危機対応を柱に、総合的な対策を講じることが不可欠だ。これにより、駐在員の安全と事業の持続性を確保できる可能性が高まる。中国の法環境や国際情勢の変化に柔軟に対応する姿勢が、企業運営の鍵となる。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

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  • リスクも何もアッチのヒトが認定したらスパイにされてしまうだけで対策は無いやろ (´・Д・)」
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