菊池雄星が「日本人投手2人目」の屈辱…フォーシームの“球速低下”は「衰え」か「進化の序章」か

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2025年05月20日 16:21  日刊SPA!

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写真/産経新聞社
 今季から活躍の舞台を西海岸ロサンゼルスに移したエンゼルスの菊池雄星。日本時間19日のドジャース戦で今季10度目の先発マウンドに上がったが、またしても移籍後初勝利はお預けとなった。
 この日のエンゼルスは序盤から打線がつながり、3回までに4点を援護。それに呼応するように菊池も後輩・大谷翔平に許したタイムリーによる1失点だけという力投を見せていた。ところが、6回に2つ目のアウトを取ったプレーで打者走者と交錯。足首を負傷し、無念の降板が告げられた。

 勝利投手の権利を持って降板した菊池だったが、7回に救援陣が落ち込まれ、その権利も消失。もちろん菊池に勝ち負けは付かず、今季成績は0勝4敗のまま。ただし、防御率は3.72から3.50へ良化している。

◆日本人投手「15年ぶり2人目」の屈辱

 19日時点で、規定投球回数に達している投手は菊池を含めて両リーグで80人いるが、いまだ0勝は2人だけ。菊池のほかにメジャー通算262勝の剛腕ジャスティン・バーランダー(ジャイアンツ)がいるが、同投手の防御率は4.33。この事実だけでも、いかに菊池が勝ち運から見放されているかがわかるだろう。

 また過去の日本人投手を見ても、開幕から10試合に先発し、勝利を挙げられなかったのは、2010年に開幕から14先発連続で勝利がなかった川上憲伸(ブレーブス)だけ。菊池が15年ぶり2人目の日本人投手となってしまった。

 ただ、菊池に勝利が付かないのは不甲斐ない救援陣や打線の無援護によるところも大きい。3.50という防御率を見てもわかる通り、菊池自身はローテーション投手として余りある働きを見せているといっていいだろう。

◆フォーシームの割合が大きく変化

 ただし、来月17日に34歳の誕生日を迎える菊池。年齢的にもそろそろ“衰え”が気になるところだ。特に、今季になって菊池の生命線ともいえる速球(フォーシーム)に大きな変化が生じている。

 それがフォーシームの投球割合の減少と球速の低下である。ブルージェイズとアストロズでプレーした昨季は、シーズンを通してフォーシームの投球割合が47.0%であった。ほぼ2球に1球の割合で真っすぐを投じていた菊池だが、今季はそれが38.6%まで減少している。

 さらに菊池のフォーシームに対して、相手打者の空振り率(Whiff%)も28.0%から21.8%に下がっているのも気になる材料。さらに被打率も昨季の.274から.314と、今季は自慢の速球を打たれるシーンが目立っている。

 さらに投球割合の減少とともにフォーシームの球速低下も懸念事項の一つだ。

 菊池は昨季、メジャー移籍後の自己ベストとなる95.5マイル(約153.8キロ)という平均球速をマークしていた。ところが、今季はそれが94.5マイル(約152.1キロ)に低下している。

 西武時代に日本人左腕として最速の158キロをマークするなど、高校時代から本格派として名を馳せてきた菊池だけに、1マイルのスピードダウンはやはり気になるところ。

◆モデルチェンジを図っている可能性も

 ただ、年齢的にこれからベテランの域に差し掛かるところでもあり、先を見据えてモデルチェンジを図っている可能性もありそうだ。

 というのも、今季の菊池は投球時の腕の角度が大きく下がっている。MLB公式データサイトの『Baseball Savant』によると、2020年に59度あった菊池の左腕の角度は21年に48度となり、22年から24年の3年間は42度が続いていた。ところが、今季はそれが33度まで大きく下がっている。

 マリナーズ時代は高いリリースポイントから投げ下ろしていた菊池が、スリークオーターを経て、今季は一気にサイドアームに近づいているといっても過言ではないだろう。

 もちろん、腕の角度が下がっていることは本人も球団も把握しているはず。つまり、将来を考えて本格派から技巧派へのモデルチェンジを試行錯誤していてもおかしくないというわけだ。

◆スライダーの投球割合が増加

 その証拠に、フォーシームと反比例するように、今季の菊池は横変化のスライダーを投じる割合を大きく増やしている。

 昨季は24.0%だったスライダーの投球割合が、今季は36.2%まで増加。4球に1球未満だったものが、3球に1球以上になっており、もはやフォーシームが投球の軸といえないほどの変貌を遂げている。

◆「被ハードヒット率減少」から読みとれること

 もし菊池が本格派から技巧派への道を歩んでいるとすれば、今のところ順調といえるだろう。なぜなら、今季の菊池は相手打者から空振りを奪う確率こそ下がっているが、代わりに強い打球を浴びる被ハードヒット率が減少傾向にあるからだ。

 21年から24年まで4年連続で40%を超えていた菊池の被ハードヒット率だが、今季は39.9%。パワーで押すイメージもあった菊池の投球スタイルの変化がこの数値からも読み取ることができる。

 弱肉強食のメジャーリーグという世界で長く一線級で活躍するために、進化を続けなければいけないことは菊池も百も承知だろう。菊池にとって技巧派への転身も、そのために必要な選択肢の一つなのかもしれない。

文/八木遊(やぎ・ゆう)

【八木遊】
1976年、和歌山県で生まれる。地元の高校を卒業後、野茂英雄と同じ1995年に渡米。ヤンキース全盛期をアメリカで過ごした。米国で大学を卒業後、某スポーツデータ会社に就職。プロ野球、MLB、NFLの業務などに携わる。現在は、MLBを中心とした野球記事、および競馬情報サイトにて競馬記事を執筆中。

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